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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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97.グレイヴェノム・トリップ

ラハムはかのティアマトと同じ時から存在していた、ビルガメスでも特に古いシステムである。ビルガメスの前身である工業国家の中枢であったラハムは、まさしくかつてのビルガメスを生んだ『母』であった。しかしティアマトの突然変異的な発展によってラハムは旧時代の産物と化し、やがて国の核であったそれは一工業地帯の基幹システムにまで規模を縮めた。

『湧き上がる! 湧き上がる! これが快感か! これが怒りか! だが今はこれに、浸っていたい……!』


灰色の杭が吹雪のように荒れ狂う。その中心に立つラフムは今もなお杭を発射し続けている。


「クイックさん! あれ出来ないんですか!? 最初に会った時にやってた、弾丸の速度を奪うやつ!」

「あれは速度を奪った上で方向を変えるまでがセットなんだ! こうも軌道がメチャクチャだと、なッ!」


複雑怪奇に飛来する杭を回避し撃ち落としながら、アウラとクイックが背中を合わせて抵抗を続ける。


「こうなったら……、近づいて直接ぶっ叩く!」

「でもこの中で動けるんですか!?」

「ああ!? そんなの……」


尚も飛来し続ける杭を弾きながらクイックが銃を取り出し構える。その銃口は、遠くにいるラフムを正確に捉えていた。


「『動く』の一択だろうが!」


そしてクイックは走り出した。飛来する杭を紙一重で躱し、時には掠めつつもその足は止まらない。それと同時に彼女は引き金を引いていた。銃弾は真っすぐとラフムへ向かう。


『そう何度もやらせると思うのか? 撃ち落とせ【シルトラン】!』


しかし弾丸がラフムに届くことはなかった。複雑な軌道を描いて舞っていた杭が突如として両者の間に割って入り、弾丸を防いだのだ。


「もう通用しねえか……。それでも!」


新たな銃弾を装填し、クイックは尚も諦めずに銃を構えて連射する。


『だから何度やっても同じだと! シルトラン!!』

「アタシもそこまで馬鹿じゃねえよ! アウラ伏せろ!」


同じように弾丸に向けて発射された杭。しかし弾丸は杭に接触した瞬間、轟音と共に大爆発を起こした。思わずラフムは手で覆う。


『これは……!』

「セイバ特製弾の威力はどうだ? アイツの顔がちらつくから使うのは嫌なんだけどな!」


爆風によって杭の吹雪は晴れ、その隙にクイックは疾走する。能力による加速が無くても、彼女はすぐにラフムに最接近した。その時には既に、クイックは武器を大きく振りかぶっている状態だった。


「捕まえたぜ、赤ロン毛!!」

『なるほどこれは、よくやる……!』


そして振るわれた破核棒は回避しようとしたラフムの右腕に直撃し、重厚な機関銃を一撃で破壊したのだった。だがラフム自身は攻撃の範囲外まで逃げている。


「す、すごい……!」

「逃げられたか……。じゃあもう1回だ!」


結果として、ラフムには大した損傷はない。しかし杭の吹雪は晴れており、制御を失った杭が大量に落ちていた。一部はすでに霧散しかけている。


『シルトランの制御を失ったか……。意外とやるものだね、【生物人間】』

「あ? 生物……、何だって?」

『だけど、僕の武装を損傷させたことは褒めてあげるよ。素直に褒めるよ。ああ本当に……』


それでもラフムは笑っていた。手で顔を覆い、しかし尚もその目は仇敵であるクイックを見据えていた。それと同時にラフムが腰を落とし、左腕のブレードを居合のように構える。


『同時に物凄く腹が立つけどな!!』

「そっちから近づいたか! 都合がいいぜ!!」


前方へ跳躍し、ブレードをクイックの首を狙って振るうラフム。それに対してクイックは破核棒を振るう。そしてブレードを紙一重で回避すると共に、破核棒がラフムの右腕を容赦なく破壊した。ラフムの右腕は、あり得ない方向に折れ曲がっている。


『今度は腕を破壊したか! 全く、【生物人間】とは思えない怪力だ!』

「もっと折れてもおかしくない攻撃だぞ……! 無駄に頑丈な身体しやがって……!」

『【生物人間】には届かない領域だ。これが僕という【人間】の力。これから生まれゆく【人間】の力だ』

「お前が人間? 笑わせるなよ。お前は機械だ。そうやって考えるのだって造られたものじゃねえか」

『それであれば人間だって造られたものじゃないか。生殖という工程を以て造られたもの。構成物が違うというだけで、そこに僕との違いは無い。そうだろ?』


散りゆく灰色の粒子がラフムへと集まっていく。それはラフムの腕へと集中していき、やがてへし折れている右腕は蛇のように動き出す。そして少し経つだけでラフムの右腕は見事に元に戻った。その様子にクイックは驚きはしたものの、何かを知っている様子だ。


「なるほどな。ナノマシンってやつか」

『正解。知っていたようだね。僕の身体を構成するナノマシン【アプスタイド】は常に完璧な状態を保ち続ける。細胞と違って劣化もしない不朽の永久機関だ』


腕の再生だけでは終わらない。集まりゆくアプスタイドは灰色の奔流となり、ラフムの周囲を滞留している。右腕には奔流に紛れて、新たなブレードが形成されていた。


『僕は【人間】であって【生物】ではない。だから君たちを【生物人間】と呼ぶんだ。劣化しゆく君たち生物とは違う、永遠に朽ちることのない完璧な存在。それが僕だ』


更にアプスタイドは奔流だけでは終わらない。灰色の粒子は沼のように床に広がり、やがてクイックたちの足元まで至った。


『だが僕は寛容なんだ。僕に、姉さんに抵抗した君たちを、僕は許して迎え入れよう。ほら証拠に……』


ニヤリと笑い何かを言いかけるラフム。それにクイックが疑問を抱いた瞬間、彼女が突如目を見開く。


「……は?」


クイックの腹部から出ている、赤に濡れた銀の剣。それの正体を知ることは容易ではあった。そうであるのにも関わらず、彼女の目は事実を受け入れられていない様子だ。足元に広がる灰色に鮮やかな赤が広がる。それはすぐに灰色に飲まれて無くなっていく。


「え……。どうして、私……。勝手に、身体が……」


それはもう一方も同じであった。手にした剣と、目の前で起きていることを理解しきれていない。自身がそうしたのにも関わらず、である。そんなアウラの目には、涙のような灰色の線が伸びていた。


『こうして1人を【僕の同類】に変えたんだ。ああ大丈夫。君も後で仲間にしてあげるから』


剣を引き抜かれたクイックの足元がふらつく。呆然と剣を握ったままのアウラに、ラフムは愉悦の笑みをこぼしていた。


第九十七話、完了です。いよいよ辿り着く第百話を目途にラフム戦を完了させたいところですが、若干雲行きが怪しくなってまいりました。この続きは是非とも次回以降をお楽しみに。ではまた次回。

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