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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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96.仄暗い灰泥の底より

シャラファクトリーを管理していたAIであるラフムは、元々ファクトリーの基幹システムである『ラハム』の運用を補助するために生み出されたAIだった。だがラハムの管理を続ける中で予測を超えた成長をしていったラフムは、いつしかファクトリーの全てを管理する権限を得ることになるのだった。だがそうなった時でも、ラハムのことは常に最優先としていた。その理由を解明できた者は、ついには現れなかった。

 エンリルラボにてウムダブルトゥとリトス達の戦いが終結するより少し前。このシャラファクトリーでの戦いも密かに幕を開けていた。


『特別な子たちをこうも簡単に仕留めるなんて流石だね。素直に君たちを称賛するけど、素直に君たちを憎悪するよ』


火花を散らし動かない2体のシルトに目をやり、ラフムが笑顔で、しかし感情の籠ってない声で対面しているクイックに言葉を投げる。


「ハッ! だったら次はお前を仕留めてやるよ! これまで作ってきたガラクタ共と一緒になればいい!」


それに対して銃と破核棒を構えたままクイックが吼える。その言葉にラフムは首を横に振った。


『それはまたいつか。これ以上あの子たちを無くすわけにはいかないからね。ここからは僕たちの出番だ。……あっ』


突如、ラフムがまるで糸が切れた操り人形のようにその場に倒れる。それと同時に傷ついていた髪がみるみるうちに修復されていく。それとは対照的に背後のラハムの稼働音は落ち着いていく。そしてラハムが停止寸前となったその時、倒れていたラフムが立ち上がった。


『我が愛しき子らを蹂躙したその罪の重み。身をもって背負い、潰れるがいい』


ラフムと同じ姿、同じ声。しかしその口調は飄々としていたこれまでのものではなく、激しい怒りに満ちたものであった。クイックたちを睨むその目も、それまでの赤色から不気味な黄金色に輝いていた。背後のラハムは完全に停止している。


「舐めてたら確実に死ぬな。気を引き締めて_____」

『出力【インヴェイド】』


クイックがアウラに声をかけようと振り向いた瞬間、灰色の杭のようなものが彼女の横を高速で飛ぶ。


「____え?」


それはアウラの頬を掠めてしばらく飛んだあと、空中で霧散する。掠めたアウラの頬には灰色の残滓と、浅い傷から僅かに流れる血の赤があった。


『インストール、滞りなく完了。アウトプットも同様。精度に致命的な難あり。戦闘と並行して調整を開始する』


憎悪を隠すような冷徹な声と共に、目より下を覆う灰色の仮面と不自然なほどに光沢のない灰色の装甲がラフムを覆う。だが右腕に現れた機関銃のような銃身は重厚な存在感を放ち、左腕に展開された巨大な鎌のようなブレードは銀色に輝いていた。


「気色悪い情緒しやがって……! 行くぞアウラ! 少なくとも私たちはここで止まるわけにはいかない! そうだろ?」

「はい! 私のするべきこと、まだ全然終わってないですから!」


銃をホルスターに戻し両手で破核棒を構えるクイックに対し、頬の血を手で拭い取りアウラが答える。稼働音も消えた不気味な静寂に包まれるこの空間で、第2ラウンドが幕を開けるのだった。


 響くのは金属音と銃声。飛ぶ杭を撃ち落とすのは細身の刺剣と破核棒。それらの一撃を受け止め弾き返すのは銀の大鎌だ。2対1の状況とは言え、この戦況は完全に拮抗状態となっていた。


「離れても近づいても隙無しか……!」

「このまま続ければ勝機があるはずです! 攻撃は全部見切れてますから!」


仮面から覗く黄金の瞳が冷徹に戦況を分析する。そして牽制するかのように杭を複数撃ち放った後で、ラフムはラハムに近づくように後方へと飛び退いた。


『精度の調整は概ね完了。これより戦闘態勢、並びに生産に移行する。……ラフム、リブート』


ぷつりと意識が途切れたように、ラフムの首が項垂れる。


「今だ! このまま押し切るぞ!」

「……!? 待ってください! うかつに近づくと!」


銃を手にし、それを放って高速で接近するクイック。だがそれと同時に背後のラハムが稼働を再開し、それと同時にラフムが突如頭を上げてブレードで彼女を迎え撃つ。クイックはそれに直前まで気付くことが出来なかった。


「あっ……ぶねえな!!」


即座に後方へ銃弾を複数放ち、後方へ加速して距離を取るクイック。そんな彼女のことを、ラフムは何も気に留めていないようだ。


『オッケー姉さん。ここからは僕の時間だ。じゃあ、ここは人間らしくこれで行くか』


ラフムの顔を覆っていた仮面が霧散する。元に戻った赤い瞳より下にあったその表情は、愉悦に満ちた笑みに歪んでいた。


『では殺し合いを始めよう。本能的で暴力的な、命の取り合いを……!』


霧散した仮面は戻らない。増していくラフムの両腕の武装の輝きが、この先の戦いの激しさを物語るのだった。

第九十六話、完了です。ウムダブルトゥ戦が終わったため、ここからはラフム戦となります。戦闘の規模が比較的小さめなので、ウムダブルトゥ戦ほど長くはなりませんが、数話ほどお付き合いください。それでは、また次回。

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