95.下りる幕は、星の輝きを湛えて
オブリヴィジョン人物録vol.12
セイバ
性別:男
出身:ビルガメス
年齢:不明
肩書:ルオーダ兵団ビルガメス隊隊長
能力:イグニトロの禁庫(体力を消耗して特殊な火薬を精製する。それに加え、一定量の特殊な火薬を含有した兵器を体内に格納できる)
好き:兵器開発、改造
嫌い:失敗作、納得いかない結果
ルオーダ兵団の大部隊であるビルガメス隊の隊長を務める男にして、ビルガメス国立兵器開発局の元局長。粗暴な者の多いビルガメス隊を纏め上げる実力者であると同時に、兵団屈指の変人である。手にする大型散弾銃の『ロマンビーストⅥ』は長年に渡る改造の果てに、常人ならば撃つだけで腕が複雑骨折し、それに耐えうる者でさえも追加されたアタッチメントの兵装を扱いきれないなど、まさに『彼専用』の武器である。彼の兵団への忠誠心は高いが、それに並ぶかそれ以上に故郷であるビルガメスへの思いは強い。
巨大な腕という『とっておき』を保有しながらも、しかしリトスは決定打を打てないでいた。その理由は至極単純なものであり……。
(これ、どうやって使えば……!?)
直感に従って持ってきたまでは良かった。しかしその実情を『よくわからない』で片づけたが故に、彼はこれの使い方がわからなかったのだ。
「どうした小僧! 何故それを使わない!?」
「こんなのどうやって使えっていうんだ! そもそもこれ何!? 替えの腕!?」
「そいつは別に腕でも何でもない! そういう形をした一発限りの巨弾頭『HADAD』だ! そいつを発射するんだ! 銃を撃つのと同じようにな!!」
「銃を……。銃を……?」
「クソッ! 撃ったことないのかそうだよな……! じゃあこう想像しろ! 『流れ星みたいに真っすぐ速く』!」
悩んだ末にセイバが弾き出したその答え。半ば投げやりに出されたそれだけを、リトスは手がかりとして杖を構える。励起する天素がHADADに集まっていくものの、決定的な爆発力を生み出すには至らない。いまだ燻ったままだ。
「流れ星みたいに……、真っすぐ、速く!!」
彼が想起するもの。この旅の中で、いつか見た何てことのない流星。それはこの旅の中での何でもない出来事として彼の記憶の隅にある。それを思い出しまた記憶の隅に戻したその瞬間に、彼の目には一瞬だけHADADの肘部分が光って見えた。
「!? 見えた! ここを励起!!」
その瞬間、HADADが天素の蒼を纏う。同時に肘部分が熱を帯び始めた。まるで今にも弾けそうなそれは、何故か抵抗しようとする様子のないウムダブルトゥに向けられている。
「行け! HADAD!!」
そして、破裂する。それはまるでここにいる者たちの迷いの無さを表すように、真っすぐとウムダブルトゥへと向かっていくのだった。
リアクター損傷度8%。行動には問題なし。しかし原因不明のエラーにより行動不能。セイバの斬撃によるものか。否。稼働の支障となる損傷は確認できず。
“見ろよウムダブルトゥ。……映像で悪いけどな”
……これはノイズか。否、このような記録は残っていない。少なくともそう自認している。
“でもすごいもんだよな。どんな技術を使っても、ホンモノの素晴らしさなんて再現できないんだ。プラネタリウムとかだって、他の要素で雰囲気を作ってるに過ぎないからな。……あ、流れ星”
燦然と輝く、華やぐようなその輝き。否、そんな記録はない。眼前に迫る蒼を纏ったものが想起させるのか。否、予測はできようと、想像などできようはずもない。
“流れ星が出ている間に願い事を3回言うと叶うんだってよ。これ撮影してた時は言い損ねたけど、これで何度だってやり直せるな。……有効かどうかなんて聞かれたら、間違いなく無効なんだろうけど”
否、否、否、否、全て記録している。全て知っている。それに蓋をしていたのは『私』自身だ。私を見捨てたセイバのことを『仇敵』と認識するために。
“そうだ、ウムダブルトゥは願いってあるのか?”
願い、願い。そう、願い。ある。私の中の未知の領域に、それは確かに存在する。命ですらない私が抱くこの願い。バグやエラーで片づけられるはずだったもの。メモリーの奥底にしまいこんでいたそれが、どういうわけか表層にまで現れる。
“私の願いは……”
あの時言うことが出来なかったその答え。こうして終わりに導く蒼い流星が齎すのはなんということか。そう。それは今思えば至極単純な……。
『セイバ。もう一度、私と一緒に……』
それを最後まで出力することは許されなかったようだ。斬り裂かれた胴体。そこに落ちた蒼い流星は、どこまでも美しかった。
ウムダブルトゥの巨体が、ビルガメスⅠ型が倒れる。胴体に突き刺さるHADADの蒼は無くなっていき、元の黒い腕に戻っていった。
「来た! これでニンギルスの再生は無くなった! 今なら勝てる!」
「このままとどめまで持って行くぞ! 鉄クズ作りだ! 残りの爆弾を全部用意しろ!!」
沸き立つ戦士たちは、懐からスクラップメイカーを取り出してピンに手をかける。だがそんな戦士たちを、セイバは片手で制した。
「少し、待ってもらうぞ」
彼はそう言うと単身、ウムダブルトゥへと近づく。彼の手には何処からか取り出したのか、コードのようなもの伸びた小型の端末が握られていた。
「待たせて済まなかったな。クサリク、出番だ」
『オッケー、こっちも準備が済んだところだよ! じゃあ接続して、少し待ってね!』
その端末から聞こえたのは紛れもなくクサリクの声だった。セイバは端末から伸びるコードを力任せにウムダブルトゥの胴体に突き刺す。何もなかったはずのそこにコードは違和感なく刺さっていた。端末の画面にはゲージのようなものが表示され、それは少しづつ溜まっていっている。
『……お前、は』
『久しぶりだね。ちょっとだけ、我慢してね』
『今更何のつもりだ……。私はもう何もできないんだ』
『これは頼まれたことでもあるし、私が望むことでもあるの。こっちにおいでよ。新しいアバターも作ったんだ。ボイスだって新調したんだよ』
『そんなものに興味は……。……いや、そうでもないかもな』
その会話は誰の耳にも入ることは無い。最も近くにいたセイバでさえそれを認識していない。それ故にこの人工知能同士のやりとりは誰も知ることなどないのだ。この先も、ずっと。それから程なくして端末のゲージが溜まり切り、ピロンと軽い音がした。
『インストール完了だよ。こっちも新しい準備があるから、帰ってからまた会おうね』
「ああ。俺も楽しみにしてる。……よし待たせたなお前ら!! スクラップメイカーは持てるだけ持ったか!!」
『オオオオオオオォォォォーーーー!!!』
「よし! じゃあやることはわかってるな!!」
これまでお預けを食らっていたのだろう。戦士たちの手には先程取り出していた以上のスクラップメイカーが握られていた。
「リトス、お前もだ!」
セイバがリトスに差し出した手。そこにはスクラップメイカーが1つ握られていた。
「このピンを抜いて、すぐ投げる。それだけだ。俺たちだけでこれをやるのは不平等だと思ってな。一緒に戦いの幕を閉じようぜ」
リトスはそれを受け取る。そしてピンを少し弄り、勢いよく引き抜いた。その迷いの無さに、思わずセイバも笑みを浮かべる。そして彼自身も、大量のスクラップメイカーを取り出していた。
「……全部! 全部全部全部!! ぶっ壊しちまえ!!」
その号令と共に黒い塊が無数飛ぶ。それが落ちた瞬間、激しい爆炎が周囲に広がっていった。それを背にして戦士たちは走り去っていく。撤退していく戦士たちの顔は、しかし満足げで高揚した笑顔であった。そうして戦士たちが去った後も爆発は止まることはなく、遂にはエンリルラボの格納庫の内部を壊滅状態にするのであった。
「さらばだ!! 俺の黒歴史共よ!!!」
セイバはこれ以上ないほど晴れやかな笑顔でそう叫んでいた。
第九十五話、完了です。当の本人たちは楽しそうな爆発オチでしたね。さて次回から所は変わって、シャラファクトリーでのラハム/ラフム戦です。どうかチャンネルはそのまま、お待ちください。それではまた次回。
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