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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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94.超感情爆発

セイバが去った後、ウムダブルトゥは単独でエンリルラボを管理し続けた。それから現在に至るまで何の支障もなく運用は続き、その点で言えばウムダブルトゥは最も信用されていた。だが大反逆より少し前にウムダブルトゥはエンリルラボを完全に封鎖し、それ以降通信も断った。

 リトスを乗せた蒼晶板が、ある場所に到達した瞬間に止まった。それはビルガメスの兵器について殆ど知識のない彼ですらわかるほどに、異質な場所だった。


「まさかこれが全部……! よし、早速探そう」


高く天井まで届く棚が並び、そこには無数のコンテナが積まれている。一見するだけでは武器らしい武器など見当たらない場所ではあったが、ただならない雰囲気がそこにはあった。そんな中をリトスは進み、打開策となる『とっておき』を探しているのだ。


「どこを見ても箱箱箱……。あの中に何か入っていたとしても、役に立ちそうにはないよなぁ……」


だが棚は壁のように立ち並び、まるで迷宮のようになっているそれと、まるで変わらないその景色がはリトスの歩みを惑わせる。だがそれは長く続くことは無かった。


「ん? この音は……」


最初に聞いたのは何かの軋むような音。離れた場所の戦いの余波がここまで来ているのかと考えた彼だったが、それは半分ほどあっているとも言えるし、そうではないとも言えた。そしてその答えたる『正体』が、音を辿ったリトスの目の前に現れた。


「これは……! そういうことだったのか! でも、どうしてこれだけ……!」


目の前に現れたそれを、リトスは一目で『とっておき』であると確信する。だがどうしてそれが単体でここにあるのかを、彼は推し量ることはできなかった。そんなことよりも気にするべきことが彼にはある。


「どうやって持っていけば……」


目の前の『とっておき』は、リトスの身の丈の2倍以上は優にある大きさだった。いかに魔術が使えるとて、今の彼にとっては決して万能ではない。だがその直後、彼の頭にいつか聞いた教えが蘇る。


『リトスよ。魔術というのは元より便利なものではあるが、少しの工夫で更に便利なものとなる。例えば、そうだな……。山にも等しい大岩を動かすとしよう。俺はもちろん、セレニウスさんでも難しいほどのものだ。当然だが正攻法では大規模な準備が必要となる。だが魔術の扱いを少しでも精密にすれば、かかってくる手間は容易に減らすことが可能だ。おっと、何か言いたげな顔だな。差し詰め、そんなことどうすれば出来るのか、とでも言いたいのか。良いだろう教えよう。それは、“動かす物を理解すること”だ。それ以上でも以下でもない。動かそうとしている物がどんな物なのかをとにかく知ることだ。まあ言うのは簡単だが実際にできるのかどうかは実力と、何よりも経験がモノを言う。まずはその外観を詳細に把握することから始めるといい』


スクラより与えられた無数の教え。その当時はペリュトナイの戦いでの疲労などでそれどころではなかったリトスは朧げにしか覚えていなかったその数々は、時折蘇っては彼の助けとなっている。そしてそれは今回も同様だ。


「これが何かこれがどんな物か……。落ち着いて、よく観察だ……」


よく目を凝らし、リトスは目の前の『それ』をよく観察し始める。『それ』の形は彼の記憶に新しい物だ。『それ』が何を成す物なのか、それも彼の記憶に新しい。そしてそれよりも先にある詳細。それは彼の記憶にはない物ではあったが、一部から垣間見えるその内部から考察をすることはできた。


「わからない、わからないけど……、とにかくわからないってことはわかった! これを『とっておき』にしよう!」


包む蒼は地面に置かれていた『それ』を浮かせる。制御するリトスは額に汗を浮かべていたものの、完全に動くのが不可能というわけではなかった。


「セイバ、もう少し待ってて……! これを届けに行くから!」


天素の制御状態を保ったまま、リトスは自らの足で駆けだした。


 リルに囲まれ、絶体絶命と形容するにふさわしいこの状況。セイバはどういうわけか武器を手にしておらず、それどころか何も持っていない。だが彼に絶望している様子は無かった。


『憐である愚である!! 武器すら手放し既に死地! 最早我が手を下すまでも無し!!』


浴びせられた嘲るような声もセイバには届かない。彼は呆れたような顔をしていた。 


「お前ってそんなにアホだったか? あるだろ。俺にはこの状況を覆す『素の力』がな!」


空中にいるまま、セイバが腕を横に広げる。その瞬間に黒く細かい粉塵が周囲に舞った。それは即座に小規模な爆発を起こして迫っていた針をすべて吹き飛ばす。


「『余爆(オーメン)』! からの……!」


その爆発はリルに届くことは無い。しかしその爆発に紛れるように、今度は真っ白な粉塵がさらに広範囲に舞った。それは光に集まる虫のように、リルへと纏わりつく。


「『イグニトロアーツ・点爆(ポイント)』!!」


それはまさしく爆破すべきものだけに的確にもたらされる破壊だった。叩かれたハエのように落ちていくリルなど見向きもせずに、いつの間にか元の武器を手にしていたセイバはウムダブルトゥの肩の部分に降り立った。


『この……!』

「届かないだろ。構造上ビルガメスⅠ型は肩まで手が届くようには出来ていない。いくらリルが来ようと俺には通用しない」


セイバは降り立った肩にロマンビーストⅥのブレードを下に向ける。それはまるで首筋にナイフを当てているかのようであった。


「1つだけ聞かせてもらおうか。何故わざわざビルガメスⅠ型をそのまま(・・・・)使った。お前だったらアレの弱点も理解していただろう。分かっているはずだ。俺がビルガメスⅠ型(そいつ)を設計図段階で止めていたことを。ビルガメスⅠ型(そいつ)には欠陥があったことを。邂逅以降お前は主砲を使ったか? 使えなかっただろ。一度使うと主砲自体がダメになっちまうからな。なあ、どうしてこれをそのまま流用したんだ? ……お前ならもっといい物を作れただろうに」

『お前なんぞに何がわかるというのだ! 我がメモリーにこびりついたこのノイズが! いくらデータを洗浄しようと消すことすら叶わないこのノイズが! だがこれを消すことに拒否感があるこの思考が! このバグが! そうさせたのだ!! 弱点など理解していた! だがそれを消すことなど、まるで侵してはいけない領域を侵すようで出来なかったのだ! それも全てお前のせいだ! セイバ!!』


爆発する感情。それはAIからのものとは到底思えない熱の入ったものであり、それを受け止めたセイバも思わずたじろぐ。だがブレードを収めることは無かった。


「……そうだったのか、ウムダブルトゥ。俺はそれすら知らず、ずっと……。もっと早くそれを知りたかったよ」


ブレードが震えている。それが何が故か、推し量るまでもない。セイバも何故か下を向いている。


『我には、“私”には、セイバしかいない……』

「だがもうダメだ。俺は、俺たちはお前を倒すためにここにいる」


そしてセイバは、ブレードを容赦なく突き立てた。その時の叫びは、まるで何かを隠すかのように響き渡るのだった。


「ロマンビーストⅥ、『振断式(しんだんしき)BLADE(ブレード)』最大出力……!」


突き立ったロマンビーストⅥは異常なほどに震えている。それが刺さっている箇所はニンギルスの装甲であるはずなのに、いともたやすく傷を付けられていた。


「ごめんなウムダブルトゥ。でもお前たちはやりすぎたんだ。俺はルオーダ兵団ビルガメス隊の隊長として、この街に秩序を取り戻す!」


そしてセイバはウムダブルトゥを切り裂きながら飛び降りる。彼が降りる先はウムダブルトゥの背後。そして彼の目は、その少し離れた場所から近づいてくるものに向けられていた。それを目にした瞬間、半ば呆れたような笑みをこぼした。


「……よりによって『それ』を選んだか。だが俺の黒歴史がまとめて無くなるから、都合がいいのかもな!」


戻ってくるリトスの背後。そこにある蒼を纏った『とっておき』は長大なブレードの付いた、巨大な機械の右腕だった。

第九十四話、完了です。機械が爆発させる感情は底から出る本心なのか、それともプログラムの成す見せかけなのか。それは当事者ですらわからないことなのでしょう。ただそうして発せられたそれだけは、まごうことなき真実なのかもしれませんね。それではまた次回。次回、ウムダブルトゥ戦決着。

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