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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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93.光年を隔てる回憶

セイバがエンリルラボの主であった三十年余り。彼にとっては数年ほどに感じられたその中で、彼は数多くの発明をしてきた。その中でビルガメス全体に広く益をもたらしたものが数十点。実際に開発されたものの生産や扱いの問題で試作で終わったものが数百点。設計図や構想の段階で留まっているものが数千点。彼の頭の中にだけあるものともなると数万点も下らないだろう。

 何かが震えるような音が響き、弾丸と針が乱れ飛ぶラボの中。ウムダブルトゥを相手に大立ち回りをするセイバを横目に、リトスは1人物陰に隠れながらある物を目指していた。彼の脳裏にはセイバから聞いた言葉が残り続けていた。


「まあさっき俺の言ったことは嘘になるんだが、奴の装甲を破ることはできない。厳密には持ち込んだ唯一の手段が無くなってしまったわけなんだが」


リトスが1人で行く少し前、セイバは彼に衝撃的な発言をしていた。この前に聞いていた言葉とはかけ離れたそれに、リトスは困惑を隠せない。


「でも僕の魔術だって効いていたはず。もう一度あの一撃が出来れば……」

「無理だろうな。ひしゃげさせることはできるが、破壊となったら到底不可能だ」


きっぱりと容赦なく、セイバはリトスの言葉を否定した。


「でも、ひしゃげたでしょ? あれを繰り返せば、いつかは……!」

「いや無理だ。設計者として言わせてもらうが、アレの装甲には『完全形状記憶合金ニンギルス』が使われている。物凄くざっくりと噛み砕いて解説すれば、あれは原形を留めない程に歪んだとしても完全に元に戻ってしまう。それに多少の破断程度なら、元通りにくっつきもする」

「どうしてそんなもの作ったのさ……!」

「まさかこんなことになるだなんて思っていなかったからな! ……まあそれはこの際置いておくとして、本題はここからだ」


どこか誇らしげで悲しげなセイバは、だがそれ以上の決意を以て話を続ける。


「一見すると完全無欠なニンギルスだが、惜しいことに重大な欠陥が存在している。これは俺史上最大級の過ちと言っても過言ではないことで、出来ることなら永久に胸の内に秘めておきたいことなんだが……」

「それはいいから、欠陥って何?」

「……破断の修復の際に一定以上の『不純物』が入り込むことで修復に障害が発生、更に耐久性が著しく低下する。それが奴の、現状で突ける唯一の弱点だ」


スクラの相手をしてきたこともあってか、長話が始まりそうなセイバをリトスは一言で押し留めた。セイバも不服そうにしながらも簡潔に答えを述べる。


「だったら、僕の魔術で……!」

「まあ落ち着け。悪いがあの程度では不純物としてすら認識されないだろう。それにアレを破断させることはとても容易ではない。小僧1人では無理な策だ。当然、俺1人でもな」

「だったらどうすれば……!」

「さっきも言っただろ? 一緒にやるんだよ。俺のロマンビーストⅥの先に付いている『(これ)』はニンギルスをも断つ。俺たちが奴の相手をするから、そっちは奴に叩き込む『不純物』の用意をしてくれ」

「なるほどね……。それで僕は、具体的に何をすればいいの?」

「奴の後方、この格納庫の奥にはかつて俺が作った兵器の数々がある。そこに向かってくれ。そして奴に一発ブチ込む『とっておき』を見つけてくるんだ。いいな?」


ここで、リトスの回想が終わる。そんなわけで彼は今、セイバに指定されたこの格納庫の奥を目指しているのだった。だが随分としんどそうである。


「それにしたって、こんなに広かったんだ……。外からわかる大きさだったけど、こうして走るとより一層……。どうにかして楽する方法を……。そうだ、これを……」


ふと何かを思いついたのか、リトスは立ち止まると天素を励起させ、少し大きめの蒼晶板を作り出した。丁度人が1人乗れそうな大きさのそれを横向きにすると、彼はその上に腰かけるように乗った。


「意外と大丈夫だな……。じゃあこのまま動くかな、うおっ」


乗ってみたところ、蒼晶板は揺らぐこともなく主を受け入れた。だがいつものように動かそうとしたその時、想像以上の速度が出たのだろう。危うく落ちそうになっていた。だがどうにか持ち直した後は速かった。


「結構速い! これは楽だぞ……! よし、目指すはこのまま奥だ!」


彼が走る以上の速度。しかもそれを走るよりも格段に少ない体力消費で出せているのだ。だからこそ彼は意気揚々と進んでいく。戦場からも離れていく彼を止める者などいようはずもないのだ。


 そしてここは主戦場。戦士たちに立ちはだかるウムダブルトゥの周囲には、いつの間にか無数の蜂のような機械が無数に浮遊していた。それらが立てる羽音と共に、釘のような鋭利な針が発射されている。


「隊長! アレも作ったやつか!?」

「いや、俺はアレを作った覚えは無い! でもアレと同じものを考えたことはあったが……」

「……おい、まさかまたか!?」


機械の蜂の群れに応戦する戦士たちは、セイバの言葉で何かを予感した。それに、ウムダブルトゥが反応する。


『これは我が眷属【リル】。記録を残したことが仇となったなセイバ。愚を超えて(れん)である』


リルに対してウムダブルトゥは何も命令をしていない。だがまるでそれらはウムダブルトゥの意のままに動いているかのようであった。正確な銃撃で針を捌きつつ迫りくるリルの群れを撃ち落としながら、セイバはウムダブルトゥへと接近していく。


「全く……。ビルガメスⅠ型といい、リルといい……」


接近の中で、ロマンビーストⅥの弾が切れる。だがセイバは次弾の装填をせず接近戦の構えに持ち替え、接近速度を更に加速させた。そしてウムダブルトゥのすぐ近くに迫った時、彼はその場でウムダブルトゥの頭部に向けて跳躍した。それに向けて、リルの群れが一斉に針を放つ。


「お前はそんなに俺を苛立たせるのが上手かったか? ウムダブルトゥ」


当たれば無事では済まない針が無数に迫りながらも、どういうわけか彼は怒りを湛えた笑みを浮かべていた。針は、彼の間近に迫っていた。

第九十三話、完了です。突破口が見いだされ、全員が今できることを全力で遂行しています。全ては同じ終着点、ウムダブルトゥの打倒のために。もう数話、お付き合いください。それでは、また次回。

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