SS12.命ならざる者達②
先に『SS10.命ならざる者達①』を読んで復習することをお勧めします。
「……以上が、我々影智の殿堂からの報告です」
「うむ、よろしい。……戦えぬ者のための兵器開発、というものは少々気に食わんが」
「いかにディシュヴァリエとて、その全てが戦いに長けているとは限らないでしょう? 皆が皆、永戦庭園の連中とは違うのです」
得意げに、見下すように。ヘルゲートの言葉はスティルグレイルに向けられる以上に、オークメイデンへと絡みつく。
「……続いては私たち永戦庭園よりご報告致します。とは言っても、お伝えすることは1つだけでございますが」
「だが、大事なことなのだろう? いいぞ。言ってみろ」
少し苛立っている様子を見せつつも、彼女はあくまで冷静に報告を始める。その様子に、ヘルゲートはつまらなさそうにしていた。しかしそんなことをスティルグレイルは気にしない。
「結論から言いますと、新たなヴィジョンナイツ候補が見つかりました」
「……ほう。遂にあのロンドアザレアを説得できたということか?」
その報告は彼が待ち望んでいたことの1つ。しかし彼が口にしたその名を、オークメイデンは否定する。その口調は、自信に満ちていた。
「いえ、そうではなく。最近参入した者の中に、類稀な戦闘の才を持つ者がいるのです」
「それは結構なことだが、戦闘の才があると言えど、それ即ち『強者』とは限らないだろう」
「ヘルゲート様。今は、そのようなことは……」
突然口を挟んだヘルゲートを、リリィヴァダムスが諌める。だが彼女が全て言い終わる前に、オークメイデンが口を開いた。
「賢いくせに結論を急がないで。あとはっきり言わせてもらうと…………」
ヘルゲートが茶々を入れ、オークメイデンがそれに食いつく。会議はどこへやら。気づけばその場は両者のいざこざに支配されていた。
「ええい、やかましい。実際のところ、その者は『強い』のか?」
だかそれはスティルグレイルの凍るような一声ですぐさま鎮火する。両者は少しばかり不服そうな顔をしながらも元の位置に戻った。
「それは間違いなく。戦闘の才がある上に異能も強力。そして高い忠誠心を持っています。これほどの逸材はなかなか見つからないかと」
オークメイデンは断言する。それにスティルグレイルは考える様子を見せたが、すぐに何かを察したように明後日の方向に一瞬視線を向ける。
「よろしい。とはいえまだ参入間もない。ナノフォレストの下でしばらく動かせろ」
「……成程。仰せの通りに」
「ヘルゲートはその兵器開発とやらを引き続き進めろ。以上」
オークメイデンは了承し何かを理解する。しかし妙に結論を急いでいる様子のスティルグレイルについては気付いてはいない。それはヘルゲートの傍に立っていたリリィヴァダムスも同様だ。
「会議とは、こんなにも早く終わるのですね……」
「いや、スティルグレイル様がここまで結論を急ぐのは妙だ。何か……」
「察しがいいなヘルゲート。……厄介なのが来るぞ」
訝しんだヘルゲートに、身構えるスティルグレイル。彼の言葉のその後に、突然広間の壁が砕けて吹き飛ぶ。星すら隠れた曇りの夜空を背にして、そこには3対の巨大な翼に強靭な四肢と尾を持つ漆黒の竜が飛んでいた。
「ハッハッハッハ! ヘルゲートにオークメイデン、それに得体の知れん奴が1人! オレ様も混ぜろ! なあスティルグレイル様よ!!」
「うわ〜! こいつが来ると会議がめちゃくちゃだよ〜!」
竜の咆哮が広間全体を震わせる。放たれる衝撃にヘルゲートとオークメイデンはその場で耐えつつも、何かできるわけでもなく踏ん張っている。そしてスティルグレイルの肩にいた芋虫は衝撃で吹き飛んでしまい、それを壁を背にしていたリリィヴァダムスがなんとか受け止め激突を阻止した。
「……おい」
そしてただ1人動じずに立つスティルグレイルは静かに、しかし周囲に重圧を振り撒くような怒気を放っていた。
かなり間が空きました。