追いかける背中 【月夜譚No.141】
宙で回るコインに目を奪われた。
照明の光を反射してキラキラと煌めくそれは、最高地点で一瞬止まると、まるで引き込まれるかのように綺麗な手の中に落ちた。コインを握った彼は、目を丸くする少年ににっこりと微笑む。
少年が、マジックを生まれて初めて目の当たりにした瞬間だった。
それから十年。彼が魅せてくれた華麗な奇術を、少年は一度たりとも忘れたことはなかった。
季節の節目のクラス会。そこで少年がマジックを披露してみせると、クラスメイト達は歓声を上げた。
最初は見様見真似で失敗も多かったが、練習を重ねる内に、自分でもオリジナルのマジックを考えられるようになってきた。
だが、彼のマジックにはまだまだ程遠い。彼に追いつくためには、もっともっと、練習や技量が必要だ。
あんな風に、コインを投げたい。それだけで人を惹きつけるような、そんなマジシャンを目指すつもりだった。
だから、クラスメイトの歓声だけで満足はしてはいけない。けれど、きっとこの光景はずっと忘れないだろう。
いつかもっと大きなステージに立った時、一人一人の笑顔を見られるように――。