5話 急襲
突然の物音と叫び声に、俺は慌てて外に飛び出した。
既に日は沈んでおり、外は真っ暗だ。
先ほど仕留めた奴と同様の黒い獣が複数出現し、村人に遅いかかっている。
俺は慌てて、“天之尾羽”を召喚する。
応戦する村人もいたが、黒い獣は暗闇に溶け込み、敵を目で追えていない村人に勝ち目などなかった。
俺は“観測者の目”で正確な位置、動作を予測し、全ての黒い魔物たちのヘイトを集めるべく狙いを定める。
このゲームのシステム上、一番高い火力で攻撃する者にヘイトが集まるようになっている。
“断風・乱牙”
無数のカマイタチが黒い獣を的確に直撃する。
黒い獣は、ほぼノーダメに近かったが、俺の方へとヘイト向ける。
「よしっ。狙い通り!」
村から黒い獣を引き離すべく、スポーンした森とは正反対のまっさらな平原の方へ逃げた。
この平原であれば遮蔽物が無い為、黒い獣の動きを補足しやすい。
俺のジョブの長所は、一言で言ってしまえば“目が良い”ってとこだ。
この長所には、夜目が利く、動体視力、審美眼に優れている、単純に視力が良いなど、あらゆる意味合いを含んでいる。
例え相手が、暗闇に紛れようが関係ない。
黒い獣は全部で12匹。このゲームはRPGの癖に数値化されたステータス表記は無い。
この事も相まって、ステータスバーから得られる情報は少ない。それこそプレイヤー、モンスターによって表記される内容が多種多様なのだ。
βテスト時には、何故か、スリーサイズが表記されている女性プレイヤーもいた。
それ故に、敵の力量、弱点を見極める、“目”が重要になってくる。
だから俺には分かる。“天之尾羽”ではコイツは倒せない。
「ここなら、他のプレイヤーも見てないだろうし、使ってもいいか…」
俺はサブウェポンに配置している“天之尾羽を切り替え、メインウェポンを起動する。
…とその時、俺もろとも赤い火の玉が降り注ぐ、何だ…魔法か?
いや、火矢だ!俺は自分に当たりそうな矢だけ捌き、黒い獣には火矢が直撃する。
「グルァァァ」
何だ、効いている。火属性が弱点か?
援軍か敵襲かはわからねえが、まずは黒い獣から狩る!
俺は風属性の性質を利用して、地面で燻っている、火矢の残り火を巻き取る。
「いくぜ!“断風・炎牙”」
炎を纏ったカマイタチが黒い獣に遅いかかる。
先ほどの硬度が嘘のように、獣たちの体は風の斬擊に切り裂かれた。
火矢を降らせた何者かはすぐ援軍だとわかった。
暗殺者の格好のリュウが、まだ息がある黒い獣に止めを刺して回る。
ただ、そ気になるのは、リュウだけでなく双剣の体格が良いオッサンも混じっていた。
「どうです。終わりました?」
そこに、火矢の使い手だろうか、弓を持った赤い頭巾を被った女の子が駆けてきた。
「こらっ!俺が合図するまでは遠距離から警戒しろといっただろうが」
赤い頭巾の女の子はオッサンに怒られ、小動物のように縮こまる。
火矢のお陰で幾分か辺りが明るくなった。
そこにドヤ顔のリュウが俺に声を掛けてくる。
「だから言ったろ?テメェの助けなんて必要ないって」
そんなこと、言われた記憶は無かったが、小生意気な子どもを論破するのも大人げないので、軽く首を傾げるだけに留めた。
「おい!兄さん。ここいらじゃ見ねぇ顔だな。名は何ていう?」
一瞬、プレイヤーネームを答えようかと思ったが、リュウやモモには本名が知られているので、今さら別の名前で自己紹介するのも面倒だと思い本名を答えた。
「レイです。そう言うオジさんは?」
「オジさんとは痛いとこを突きやがる。こう見えてもまだピチピチの28歳だぜ!」
28歳をピチピチと言うのか?それより、ピチピチなんて表現、久々に聞いたぞ…。
でも、アバターだから、見た目から年齢を推測できる方が無理がある。初対面でオジさん呼ばわりした俺にも否があるけど…。
ピチピチの28歳は豪快に笑いながら自己紹介を始めた。
「俺はタケシだ!ギルド“天の頂き”のギルマスをやっている」
「ギルド…」
確かゲーム内でのコミュニティの一つ。このゲームでは多様な組織、勢力への所属の自由が認められている。その組織、勢力でしか得られない、権利、特典があり、基本的にメリットの方が多い。
それでも俺は、βテスト時に何かに所属することは無かった。
「取りあえず、どこか落ち着ける場所で話しませんか」
赤い頭巾の女の子の提案に皆、賛成し、一旦、モモとリュウの家に向かった。