2話 黑い獣
ここは…、βテスト時の開始地点とは違うみたいだな。
せっかくのオープンワールドだ。
取りあえず散策しつつ、村を探すか…。
森の中を適当に進んでいると、草むらがざわめく。
モンスターか?
短剣の切っ先を草むらに向け、姿勢を低くし臨戦態勢をとる。
しかし、生き物の気配はするものの、一向に姿を現そうとはしなかった。
汎用型のザコモンスターか?
一発、攻撃をいれれたら早いんだけど…。
万が一、相手がプレイヤーだったら怖いし、無用なトラブルは避けたい。
仕方ない、風圧で草だけ飛ばすか。
このゲームの醍醐味は脳内のイメージで、攻撃の出力を調製できるとこだ。
天之尾羽は風で“カマイタチ”を起こす特性を持った武器だ。
このゲームの特性上、出力の調整で、そよ風にすることもできる。
短剣を軽く振り、突風で草むらを吹き飛ばす。
遮るものが無くなると、そこから何かが飛び出した。
…黒いモンスター?
脳内にステータスバーを出し確認したが、驚くことに、そいつはモンスターでも、プレイヤーでもなかった…。
なんだ、コイツは!
黒い獣。ボキャ貧の俺では、そう表現することしかできなかった。
狼型のモンスターに似ているが、モンスター特有の種族アイコンが、■で塗り潰されている。
頭部から、剣の刀身が角のように剥き出しに生えている。鈍く光る鋼鉄の爪。さらに、 背骨が鎧のように剥き出しになり、背中を覆っている。
「バグか、新種か…はたまたレアモンスターか」
どちらにせよ、仕留める!
短剣でカマイタチを起こし、黒い獣に一筋の線が入る。しかし、直撃した瞬間、金属音と共にカマイタチが弾かれた 。
「何だよコイツ…」
そう思った次の瞬間、何者かが、黒い獣の背後に飛び乗り、刃を突き立てる。
しかし、黒い獣は一瞬怯んだだけで、振り向きざまに何者かを、鋭い爪で払いのけた。
黒い獣のヘイトが何者かへと向かう。
微かだが、黒い獣の背骨にヒビが入っているのを俺は見逃さなかった。
その瞬間、俺はカマイタチを複数放った。
“断風・穿牙”
周囲に乱立したカマイタチは、やがて一点に集中して黒い獣のヒビの入った背骨を貫いた。
「グギャャャー」
獣は悲痛な叫び声を上げて、黒い獣の体は泥状に溶け、やがて跡形もなく消え去った。
やっぱり変だ。通常のモンスターは倒したあとドロップアイテムが必ず出る。少なくとも、βテストでは、全くドロップしないモンスターなんて、存在しなかった。
やはり、黒い獣はモンスターではないのか…。それとも仕様が変わったとか。
取りあえず助けてくれたプレイヤーに話しでも聞いてみるか…。
先ほど黒い獣の払いのけて、吹き飛ばされていたプレイヤーは、何とか立ち上がり態勢を整えていた。
“ブラン・ニュー・ワールド”では脳内にステータスバーを表記できる。
一般的には他者のステータスやジョブは伏せられている。
俺はパッシブスキルの“観測者の目”により、ジョブとある程度の情報を見抜く事ができる。
しかし、ジョブが分かったところで、そこまでのメリットはない。
このゲームは、プレイヤーの脳波や事前アンケートでジョブがあらかじめ決められている。
そして、ゲーム史上初の試みである、“十人十色制”で一つたりとも同一ジョブは存在しないのだ。
ある程度、名前から想像できるジョブもあるが、種類が多過ぎて全て網羅するのは不可能に近い。
目の前の何者かは、全身に黒いマントを纏っており、顔も頭巾のような物を巻いていて、表情を窺うことはできない。
こいつのジョブは“暗殺者”か…、文字通り暗殺術に長けたジョブだ。
不意打ち、潜伏などが得意なはず。
さっきの不意打ちも、なかなかの威力だった。
β勢かな?
「ありがとうございます、助かりました」
俺は精一杯の笑顔で、コミュニケーションを図ろうと試みる。
もしかして、初めてのフレンドができるかもしれない…という期待は、かくも容易く崩れ去る。
「ッチ」
目の前の暗殺者は、俺の顔を見て、舌打ちをすると何処かへと去っていった。
何だよアイツ!人がせっかくフレンドリーに接してしてやったのに、無下にしやがって。
しかし、プレイヤーに出会えたのはチャンスだ。
あのアサシンの後を追えば村か拠点まで、辿りつけるだろう。
俺は“観測者の目”により、先ほどの暗殺者の足跡を追った。