アップロード
更新頻度を上げていけるよう頑張ります。
…アップロードを開始します。
完了まで、あと630720258秒 。
ブラックアウトした視界に飛び込む、不可解な秒数表記。…その事を疑問に思う前に、俺の意識は途切れた。
2090年に人類を次のステージへと進める、革新的な発明が成される。
人間の脳波、微弱な電気信号の機微を読み取る受信装置、“technology legendary path” 、通称“テレパス”が開発された。
これにより、受信装置が人の思考を読み取り、念じた通りに電子機器を操作できるようになった。
その後、多種多様な技術革新がもたらされる。
手で動かす“手動ではなく、脳で動かす“脳動”という言葉が生まれたぐらいだ。
具体的には脳内で構成した文章の脳動書記。
電子機器の脳動操縦、脳動操作などが挙げられる。
これにより、全身麻痺患者との意志疎通、あらゆる作業の効率化、更なる技術革新も進み、人類が500年後に到達するであろう技術だと賞されている。
そこから更に10年後…。
西暦2100年。ついに、ゲームの次世代機が発売された。その名も“ブランニューワールド”。
ネットワークに脳から直接、アクセスできる時代となり、逆もまた然りということで、ネットワークから脳の海馬へデータをインストール出来るようになった。
通貨も廃止され、全て脳内で電子マネーをやり取りすることとなる。
しかし、それに伴う弊害も多く、精神疾患や記憶損傷患者の、自立した生活が困難になったり、脳内からのハッキングによるテロ行為、犯罪が蔓延する事態となる。
それもすぐに対策が成され、脳内からのアクセス制限の管理やファイヤーウォールを設けることにより、事態は収束した。
…と前置きが長くなったがここからが本題だ。
本日、全世界で初となる脳内MMORPG。
“ブラン・ニュー・ワールド”が、
βテストを経て、満を持してリリースされた。
Fランク大学生4年生の俺、渦宮 礼は就職活動、そっちのけでβテストに、のめり込んだ。
プレイした感触としては、フルダイブ型のVRゲームに近かった。
五感全てでゲームの世界を堪能できるこの世界は正に楽園だった。
あの感動を喜びを、もう一度味わえると、わくわくしながら、脳内ゲームを起動した。
しかし、俺の視界に飛び込んできたのは、暗闇に浮かぶ、アップロードの待機画面であった。
…プツンとテレビ画面が消えるように視界が途切れる。
次に気が付いた時には、俺は空を飛んでいた。
…いや墜ちていた。
「うぉぉぉぉ!」
「まて、まて、まて。こんなのβテストでは無かったぞ!」
「確かこのゲームは落下ダメがあったよな。いきなりデスするのは勘弁だぜ」
ブランニューワールドの開発会社の説明では脳内、精神面への影響が生身に及ぼす実害も、脳の信号を操作して極力抑えられているとのこと。
実際、βテストでも何度もデスしたし、大丈夫だとは思うけど…。
そんなことを考えているうちに、どんどん地面が迫ってくる。
待った、そう言えばこいつの存在を忘れていたぜ!
βテストからのデータ引き継ぎで、所持品とステータスはそのままだ。
武器の起動も脳内のイメージでできる。
「こいっ!“天之尾羽”」
俺の左手に翡翠色の波模様が描かれた短剣を召喚する。
「行くぜ、“断風”」
いい大人が中二病全開の技名を叫びつつ、接地の瞬間に短剣を振り、地面へ風の斬擊を放つ。
周囲に土煙を巻き上げ、地面に斬擊による巨大な爪痕を残した。
斬擊時に発生した風圧と、何とか受け身を取ったことにより、落下ダメをゼロに抑えることに成功する。
俺は額の汗を拭い、一息つく。
「ふぅー、間一髪だったぜ。年甲斐もなく、はしゃいでしまった…。そこら辺の絶叫マシーンより遥かにスリル満点だったな」
改めて、辺りを見渡すとそこは、見覚えのない森だった。