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9話 突然の告白

 藍の機嫌は、次の日の朝になっても直ってはいなかった。


 昨日の夜にした電話は3回ともスルー…… 結構長めに鳴らしたが、藍が電話に出ることはなかった。


 学校で顔を合わせた途端、藍は方向転換までして俺を避け、帰りも挨拶もなしにさっさと帰ってしまう。


「なんだかなぁ…… 」


 生徒会の雑用とも言える諸書類の整理をしながら、最近の藍の態度を考えていた。


「乙女の気持ちの変化に気付けない男は嫌われるのよ 」


 俺の隣で同じく書類整理をしている楓は、俺を横目で一瞥してファイルを閉じた。


「お前、企業秘密を喋っただろ 」


「何が企業秘密よ。 キスでアタシを救ってくれたのは事実じゃない。 アンタだって別にやましい気持ちでキスした訳じゃないんだから、隠す意味が分からない 」


「う…… ん 」


 確かに救いたい一心でキスしたんだけど、この場合素直に頷いていいのかどうか迷う。


「何? アタシに気があるの? 」


「…… 正直わからん。俺はお前が好きなのか? 」


「はぁ!? 自分の気持ちくらいハッキリしなさいよ! 」


 まぁ…… 楓に聞いても分からんよな。


「アンタはアタシにその気はないわよ。 でも佐伯さんが好きって言いながらも、藍ちゃんは気になってるんじゃないの? 」


「…… なんでそう思うんだよ? 」


 ハァとわざとらしくため息をついた楓は、椅子を回して俺に向き直り、机に肘を乗せて足を組んだ。


「男女の間では友情は不可能って言ったでしょ。 アタシはアンタが好きだから、アンタの事がよく見えるのよ 」


 突然の告白。


「…… サラっと言うんだな 」


「だって、ハッキリ言わないとアンタは気付かないじゃない 」


 楓は目線を逸らし、少し頬を染めて軽くため息を漏らした。


「楓…… 」


  ゴメン……


 そう言いかけた時、チラッと目が合って楓はゆっくりと首を横に振る。


「佐伯さんに勝てるなんて思ってない…… それならスパッと告白して諦めようってだけだから 」


 後悔しないよう吹っ切る為の告白…… ということなのか? 以前、蒼仁先輩に告白出来なかった事が関係しているんだろうか。


「アンタは鈍感シスコン変態だけど、女にだらしなくはないし…… 頼りなさげだけど頼りになるいい男。 アタシはそんな男と知り合えたのだから、それでいいの 」


 フワッと柔らかい笑顔に心が痛む…… なんでそんな顔できるんだよ……


「そんな顔したらダメだよ、燈馬 」


「え? 」


 楓はヨタヨタと俺の側に寄ってきて俺の頭を引き寄せ、ゆっくりと頭を撫で始めた。


「勇気出して告白したんだから、思い出にこれくらいサービスしてよね 」


 楓の速い心音がトクトクと聞こえる。


「笑ってよ燈馬。 アタシはアンタの、藍ちゃんの前で見せる笑顔が好きなんだから 」


「…… 笑えねぇよ、どんな顔で笑ってんだか分からねぇから 」


「…… バカ 」


 楓は名残惜しそうに離れた後、バチンと両手で俺の顔を挟み込んで唇を重ねてきた。


「こういう時はキッチリ断りなさいダメ男! 相手に未練を残さないように振るのがカッコいい男ってものよ? アタシが好きになった男なんだから…… キメて見せてよ 」


 楓は優しい表情で微笑んでいたけど、目にはうっすらと涙が滲んでいた。


 無意識に楓の腰に腕を回していた。


「バカ。 でも幽体になっちゃったらちゃんと助けに来てよ? アンタしかアタシが見えないんだから 」


「ああ、わかってる 」


 楓の腹に顔を埋めると、楓はそっと頭を撫でてくれた。


 好きな人にフラれるのはツラい…… でも、フるのはもっとツラい…… でも、ここで情に流されて責任ない事はしたくない。


「ゴメ…… んな…… 」


 情けないとは思ったが、俺は楓の腰を抱いたまま嗚咽を漏らして泣いた。




 しっかりと顔を洗ってから俺は自宅に帰った。


 菜のはには『随分スッキリしてるね』と不思議がられたけど、楓をフって泣きましたとは言えない。


 適当な理由をつけて菜のはをあしらい、先に風呂に入らせてもらって自分のベッドに寝転んだ。


「………… 」


 涙ぐんでも微笑む楓の顔が忘れられない…… 次に楓に会った時、俺はどんな顔をして向き合えばいいんだろう。 


「お兄ちゃん、入るよー 」


「んあ? 」


 パジャマに着替えた菜のはが、ドライヤーを片手にバスタオルで頭を拭きながら俺の部屋に入ってきた。


「はい、乾かして 」


 ドライヤーとブラシを無理やり俺の手にねじ込んで、菜のはは背中を向けてベッドの縁に座る。


 適当に返事を返して、俺は肩まである菜のはの黒髪を丁寧に梳かし始めた時だった。


「何かあった? 可愛い妹に話してみ! 」


 バレてる…… ホント女の勘は恐ろしい。


「なんもないよ、いたって普通…… 」


「嘘。 じゃあなんで泣いて帰ってくるの? 虐められちゃった? 」


「はは…… 泣いたことまでバレてるんか 」


「当り前だよ! 何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるの? 」


 背中を見せているから表情は分からないけど、きっと『当然です』と言わんばかりの澄ました顔をしているんだろう。


「…… なぁ菜のは、告白ってされたことあるか? 」


「ふぇ!? お兄ちゃん告白されたの? 誰に!? 」


 物凄い食いつきようだな…… 先読みされてちょっと戸惑ったが、後輩からと名前は伏せて話を続ける。


「あるよ? 全部お断りしてるけど。 どうしたの? 」


「いや…… 断る時ってどんな気持ちで断ってるのかなと思ってさ…… 」


 振り返った菜のはは、しばらく俺の目をじっと見て再び前を向く。


「私はその人を好きじゃないからねー。 好きになってくれてありがとうとは思うけど、別に可哀想とかは思わないかな 」


 なんだか俺より恋愛慣れしてる…… 


「なんで泣くの? 」


「…… なんでだろな 」


 『変なの!』とバッサリ斬られて何も言えなくなってしまった。


 考えてみれば、どうして泣いたのかは自分でも分からない。


 可哀想? 違う…… 感極まった…… のか?


「この人だと思わない人の気持ちに流されちゃダメだよお兄ちゃん。 なんで泣くのか分かんないけど、お兄ちゃんは正しいことをしたんだと思うよ 」


 ドライヤーをかけながら、ふと目線を前に向ける…… とそこにはボヤっと素っ裸の藍の姿が浮かんできた。


「そうか…… そうなんだな 」


 幻を見るほど、俺は藍が好きなのかもしれない。


 心の奥には、気付かなかった藍への気持ちが…… って…… 


「と…… 燈馬ぁ!! 」


 その藍の幻は幻なんかではなく、大粒の涙を流しながら俺に抱き付いてきたのだ。


「おわっ!? 」


「ふぇ!? 」


 飛びついてきた藍の幻? に耐えられず、俺は後ろ向きでベッドに倒れ込んだ。


 咄嗟に菜のはの髪を離したから巻き添えにしなかったものの、菜のはは俺の叫び声にビックリして目を丸くしている。


「やっと気付いてくれたぁ! 燈馬ぁ! 」


 無我夢中で俺にすがりつく藍は、どう考えても楓と同じ幽体の状態だった。





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