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8話 藍色のイライラ

 次の日。


 一緒に登校してくるかと思っていた藍と楓だったが、学校の正門に着いたタクシーから降りてきたのは楓だけだった。


 藍はいつも通り紫苑と登校し、俺と校門前で顔を合わせる。


「おはよう、燈馬君…… って、どうしたの? 」


「うぇ? 」


「なんだか怖い顔してるから 」


 どうやら無意識に藍を睨んでいるような雰囲気になっていたらしい。


「…… はよ 」


 藍もイマイチ俺と話す気になれないらしく、挨拶だけしてさっさと玄関に入って行ってしまった。


「何かあったの? ケンカした? 」


「いや、そういう訳じゃないんだけどな。 そんな気分の時もあるさ…… はは…… 」


 藍の機嫌が悪いのは、昨日楓の家から荷物を取って戻った後の話が原因だろう。


「う…… ん、でも燈馬君の顔を見た途端機嫌が悪くなるなんて。 朝からそんな様子なんて珍しいから 」


「大丈夫大丈夫! 昼にはケロッとしてるさ 」


 紫苑にまで心配をかけるのはなんだか心苦しい…… 早めになんとかするか。




「藍、ちょっと話がある 」


 昼休みに藍を教室から連れ出し、購買部で焼きそばパンをおごってやる。


「話って? 」


「何怒ってるんだよ? お前らしくない 」


 『らしくない』という言葉は余計だった。


 ムッとした藍は、半分くらい食べた焼きそばパンを俺の口に叩きつけるように突っ込む。


「ぶっ! 何すんだよ! 」


「朝っぱらからあの子にムカついてるんだ、悪い!? 」


 結構な怒り具合…… 一体朝から何があったんだ?


「一人でムカついてないで俺に話せよ 」


「だってアンタが悪い訳じゃない。 八つ当たりになるからヤダ! 」


 口をへの時に結んでプイっと横を向く藍だったが、焼きそばの麺のかけらが口元についている。


「別に八つ当たりでもいいんだって。 ほれ、不満ぶちまけてみろ 」


 口元のお弁当を取ってやると、藍は恥ずかしそうに上目遣いで俺を見てきた。


「…… 単にあの子の態度が気に入らないだけ 」


「うぇ?  まさか世話になってるのに上から目線とかか? 」


 そこでまた藍の目尻がつり上がった。


「その逆! あの子ってば何をしても『ゴメンね』しか言わないんだよ!? それに何? 上から目線な態度を取るのはきっとアンタに対してだけ! なにそれ! 」


 …… 意味がよくわかりませんが。


「確かにあの子にとってアンタは特別かもしれない。 昨日の生き返らせる方法だってそうだよ! なんでアンタがチューしなきゃならないの!? 」


 あのバカ、喋ったのかよ……


「仕方ないだろ、半分蒼仁先輩に強制されたようなもんなんだから 」


「それでアンタがチューしたら成功したんだ。 ふーん…… 良かったわね、白馬の王子様になれて 」


 もしかしてこれってヤキモチか? いやいや! 友情…… だよな?


「そんなつもりなんかねーよ! 幽体と実体の両方を前にしたら、何とかして助けたいと思うだろ! 」


 少しバカにされたような気分と、気恥ずかしい気持ちでつい言葉が荒くなってしまう。


「紫苑が好きだとか言って、ホントは女なら誰でもいいんじゃないの!? サイテー! 」


 売り言葉に買い言葉…… 藍とケンカする事はちょくちょくあるけど、さすがにイラッとくる。


「ふざけんな! 誰でもいいとか、そんな下衆じゃねー! 」


「どーだか! チューの味を知って楓がよくなっちゃったんじゃないの!? 」


「んな訳ねー! お、お前はキスの味知ってるのかよ!? 」


 藍はボッと瞬間湯沸かし器のように一瞬で真っ赤になる。 


「知らないわよ! 悪い!? 奥手なのがそんなに悪い? 」


「誰が悪いって言ったよ!? 」


「言ってるじゃん! アンタがグズグズしてるのも悪いんしじゃ…… はっ!? 」


 グズグズ? 


 藍は俺と目を合わせたまま固まってしまい、数回瞬きをしたと思ったら、突然腹に正拳突きを食らった。

 

「もういい…… 」


「痛ぇ…… 」


 クルっと背中を向けた藍は、俺を置いてスタスタと去っていってしまった。


 教室に戻っても目を合わせようとせず、帰りも挨拶を交わすことなくいつの間にか姿が消えていた。


「なんだお前ら、また夫婦喧嘩したのか? 」


 鞄を背中に抱えた青葉が、ニヤニヤしながら俺の肩を叩いてくる。


「まぁ…… 大したことじゃないんだけどな 」


 大したこと…… だよな。


 俺がグズグズしてるから、アイツはキスの経験がない…… っていうことなのか?


「どした? 」


 俺の様子が変だったのか、青葉が俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、なんでもない 」


 後で謝りの電話でもしてみるか…… この時は気軽にそう考えていた。


   

 


 

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