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7話 素直じゃない

 騒ぎが一段落したところで、藍と楓を前にして今後の予定を話し合う。


 楓を引き取ると言っても、保険会社から連絡が来て仮住まいが決まるまでの数日間。


 とはいえ、壊れた元の家は父親名義で、その父親は現在関西にいるそうで…… 離婚していることもあって色々と面倒で時間がかかるらしい。


「客間が空いてるから、別に急がなくてもいいけどさ 」


 藍はテーブルに頬杖をついてふてくされていた。


 ここにいる間に、また幽体離脱したら困ると心配した藍は、楓に企業秘密を聞いたらしい。


 それに対して楓が、『藍ちゃんには無理』と素っ気なく答えたのが気に食わなかったようだ。


「んで、なんでお前は袴姿なんだ? 」


 風呂から上がった楓は、藍の服ではなく弓道着を身に付けていた。


「うるさいな…… ウチの服じゃサイズ合わないんだもん。 門下生の道着を借りたのよ 」


「まぁ、どう見てもお前の方が小さいし…… 」


「小さくて悪かったわね! 大きくてもいいことないのよ、きっと! 」


 そう言って楓を恨めしそうに睨んだ。


「あ、アタシだってそんなに大きくないわよ! 」


 いや、胸の大きさの話をしてるんじゃないんだけど…… そこから話が進まないので、必要な物を楓の家から取ってくる事を提案してみた。


 明日から平日登校だから、制服や教科書も必要になるだろう。


「んじゃ、おじいちゃんにも声掛けておくから 」


 藍は席を立ってズカズカと居間を出ていく。


「…… また迷惑描けちゃったな…… 」


 藍の背中を見送る楓は、しょんぼりして一回り小さくなっていた。


「色々あったんだってな。 でもまぁ…… 今は頼っておけよ、藍も本当に嫌なら引き受けたりしないんだから 」


「藍ちゃんの事、随分分かったように言うのね 」


 少し突っかかるような言い草はコイツの事だから仕方ないとして、なんでそんなに恨めしそうな顔をする?


「アイツとはそれだけ仲がいいんだよ。 最高の友達だ 」


「…… 本気で言ってるの? それ 」


 楓は唐突に呆れた顔をする。


「どういう意味だよ? 」


「男女の間では友情は不可能だ…… オスカー・ワイルドの名言知らないの? 」


「オス…… 誰だよそれ 」


 アカデミー賞なら知ってるけど、そんな奴知るか!


「じゃあお前とも友情はないのかよ? 」


「そうは言わないけど…… 」


 楓はその後にも何かを言いかけたが、黙って飲み込んだようだった。




 楓の家は、藍の家から歩いて15分。


 川を一本挟んで反対側にあるので橋を通る為、歩けばそこそこかかるが、直線距離で結べば50メートルもなかった。


「うわ…… 」


 訪れた鳥栖家は庭を囲う塀が吹き飛び、窓ガラスは全て割れて、アパートと隣接する外壁の一部には大きな穴が空いていた。


 玄関には黄色い規制線が張られて現場検証が行われていたけど、警察官に話をするとすんなり通してくれた。


 「なんだこりゃ…… 」


 部屋に上がる時に、靴のままでいいと言われた意味がようやく分かった。 ガラスが割れて散乱し、壁の一部は亀裂が入り、アパートから飛んできたであろう鉄鍋が壁を貫通して転がっていた。


「よくこれで怪我をしなかったものだな 」


「アタシは二階にいたから。 お母さんは倒れてきた本棚の下敷きになってちょっと怪我しちゃったけど 」


 藍はあまりの惨状に言葉が出ないらしい。


「さ、そんなに持っていくものはないからちょっと手伝って 」


 楓を先頭に、俺と藍は土足のまま階段を上る。


 以前、一度だけ入った楓の部屋も散々なものだった。


 砕けたガラスはベッドの上に散乱し、天井は剥がれた部分があって部屋中埃まみれ。


「燈馬、悪いけど教材運んでくれる? 」


 楓はリュックを指差して俺に指示し、藍と一緒に着替えを片っ端からボストンバッグに詰め込んでいく。


「大変…… だったな 」


「別に。 ちょっと運がなかっただけよ 」


 淡々と作業する楓は、意外に落ち込んでいる様子はなかった。


 ちょっとどころじゃない…… 今回の爆発騒動だけでなく、父親の不祥事に両親の離婚。


 それを理由に学校での虐め。


 全部巻き込まれたものばかりで、グレたくなる気持ちもなんとなくわかる。


「とりあえずこれでいいか? 」


 まとめたのは段ボール箱2つ分の教材一式と、ボストンバッグ2つに入るだけの着替えと、まだ真新しい星院東の制服。


 袴姿の楓の着替えを待ち、まとめた荷物を持って玄関を出ると、そこにはスーパーカブという原付自転車に跨がったおじいさんが待っていた。


 荷物を運んでもらうよう藍が頼んでくれていたのだ。


「結構重いですけど大丈夫ですか? 」


「問題ない。 コイツをナメなさんな 」


 前と後ろに段ボールをくくりつけたおじいさんは、颯爽とスーパーカブを走らせていった。


 さすが郵便屋さんがよく使っている原付…… あなどれん。


 残りのリュックとボストンバッグは、俺と藍が受け持つ。


「ゴメンね二人とも。 荷物全部持ってもらっちゃって 」


「………… 」


 藍は楓に振り返るが、何も言わずに先に歩き出した。


「藍ちゃん…… 」


 遠くなっていく藍の背中を見つめ、楓は不安な表情でフッと俺の顔を見上げた。


「心配するなって。 ちょっと戸惑ってるだけだよ 」


「うん…… 」


 楓は元気のない返事をして、藍の後を追うように歩き出す。


 カツカツと響く松葉杖の音…… 藍はその音に合わせて付かず離れずの距離を先行していた。


 俺はそんな二人の様子を見ながら後ろをついていく。


「なんだかなぁ…… 」


 藍がどうしてあんな態度を取るのかは正直分からない…… けど、素直に力を貸してやれない気持ちが何かあるんだろう。


 楓を置いて先に行かないのがその証拠。


 後でちょっと聞いておいてやるか…… 


 


 

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