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2話 爆発と悲鳴

「お前、テスト対策は出来てるんか? 」


 ー はぁ? 別に今じゃなくてもいいじゃん! ー


 そんな文句から始まった藍との電話。


 もうすぐ後期の中間テストが始まる。


 このテストの結果次第で、今年の正月が無事に過ごせるかどうかが左右される上に、三学年に進級した時のクラス分けにも影響が出てくる。


 心配になった俺は、なんとなく藍の声が聞きたくなって電話したのだが、どうやら風呂に入っている最中だったらしい。


「悪かった、また今度にするよ 」


 ー いいよ今で。 後にするとアンタ不安になって眠れないでしょ? ー


 悔しいけど藍の言う通り…… 声を聞くだけでホッとする自分がここにいる。


 ー ウチはとりあえず進級出来ればそれでいいから、別に張り切って勉強してる訳じゃないわよ。 紫苑は特進に行くだろうし、それについていく気はウチはないからね ー


「まあ俺も特進には入れないけど…… 案外サッパリしてるんだなお前 」


 ー 離れるのは寂しいけどね、たかだか違うクラスになるだけじゃない。 そんなこと言うんなら頑張って特進目指したら? ー


 なんだか藍の口調にトゲがある…… まぁ、こいつの気持ちを聞いて断り、紫苑が大事だと言ったのだから当然なのかもしれない。


 でも今まで通り一番の友達でいたいと言ったのはこいつだし…… やっぱり女心はわからない。


「そう言うなって。 俺は…… 」


  ドドォン


 ー きゃっ! ゴボゴボ…… ー


 三年間友達でいたい、と言おうとした途端、電話の向こうから藍の悲鳴が聞こえた。


「どうした藍? 藍!? 」


 くぐもった音が聞こえたかと思うと、そのまま通話が切れてしまった。


「なんだ!? 」


 その後、何回リダイヤルしても繋がらない…… 嫌な予感が頭をよぎる。


「菜のは、悪い! ちょっと出てくる! 」


「ふぇ? もうすぐ晩御飯出来るよ? 」


 キッチンから顔を覗かせた菜のはに『すぐ戻る』と言い、俺はジャンパーを羽織って家を飛び出した。


 くぐもった音は多分スマホを湯船に落とした音だ。


 大した事じゃないのは頭では分かっている…… でもその前の爆発のような音と、藍のあの悲鳴がマジだったのは聞き逃さなかった。


 藍の家にはバス一本で行けるけど、焦っている俺は迷わずタクシーを捕まえる。


 15分で到着した藍の家の近くで、煙を上げているアパートを見つけた。


 後から考えれば、あれは楓の家の隣のアパートだったのだが、この時は藍の事で頭がいっぱいだった。




「…… んで、ウチを心配してワザワザ来たの? 」


 風呂上がりの濡れた髪で玄関に出てきた藍は、唖然として俺をじっと見つめていた。


「無事ならそれでいいんだ。 風呂上がりに悪かったな 」


 藍が言うには、家が揺れるくらいの爆発音にびっくりしてスマホを湯船に落としてしまった。


 咄嗟に拾い上げたが、それっきり電源が入らなくなってしまったのだそうだ。


「ま、まぁ…… ありがと。 お茶出すから上がっていきなよ 」


 少し甘いシャンプーの香りと、体から微かに出ている湯気が、いつもの藍の雰囲気と違ってドキドキする。


「いや、菜のはが待ってるから帰る 」


 クルッと背中を向けて帰ろうとすると、後ろから襟首を掴まれて足止めされてしまった。


「ウチもアンタの家に行く! 準備するからちょっと待っててよ 」


「うぇ? これからか? 」


 もう夜7時を回ろうとしているのに、これからウチに来るってことは泊まりに来るってことか?


「ダメなの? 」


「構わないけど…… どうしたんだよ急に 」


「いいじゃん、菜のはちゃんに会いたくなっただけ! 」


 藍をフって少し後ろめたいところもあるけど…… 藍が何を思っているのか俺には理解出来なかった。




 20分程藍を待ってタクシーで自宅に戻ると、口を尖らせて留守番していた菜のははすっかり上機嫌になった。


「藍さんがお姉ちゃんなら、私は凄く嬉しいのになぁ…… ねぇお兄ちゃん! 」


 藍にべったりくっついてチラ見してくる菜のはに、俺は曖昧な返事を返しておく。


 菜のはは俺が紫苑が好きな事を知らない…… 俺より苦い表情をしていたのは藍だった。


 この状況、俺にとっても藍にとっても良くないんじゃないだろうか。


「菜のはちゃん、明日デートしよっか! 」


 突然思いついたように藍が菜のはを抱きしめた。


「はい! 行きます! ご飯ですか? ショッピングですか? 」


「映画館! 今劇場版『ソラにいるキミに……』が公開されてるんだよね。 見たかったんだ 」


「行きます! 私も気になってたんですよね! 」


 この話の流れ…… 嫌な予感しかしない。


 目線を合わさないようにテレビから目を逸らさずにいると、両脇を二人に固められる。


「なに他人事みたいな顔をしてるのよ? アンタも行くの 」


「そうだよお兄ちゃん! せっかくの藍さんとのデートだよ? 前に約束したじゃん! 」


「約束? 」


 あー…… そう言えば何かの時に藍とデートしなさいって言われたっけ。


「なんでもんねぇよ。 それじゃ明日の為に早めに寝るとしますかね…… 」


 藍を軽くあしらって自分の部屋に戻ろうとすると、はしゃぐ菜のはを頭から抱きしめる藍から無言の圧力を感じた。


  起きてなさいよ! 後で部屋に行くから!


  ヘイヘイ、起きてますよ……


 目線だけでそんなことが分かってしまう…… まるで長年連れ添った夫婦みたいな感じに、安心している自分が少しおかしかった。



 


  

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