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15話 もしかしたら最大のライバル?

 翌日から、俺と藍は初々しい恋人らしく…… なるわけもなく、普段と変わりない雰囲気で笑ったり怒ったり。


「ねぇ燈馬、弓道部の設立っていつぐらいになるのかな? 」


「さぁな。 申請はとりあえずしたし、お前も校長相手に啖呵切ったんだから、次の審査会次第じゃないのか? 」


 生徒会室で書類に目を通しながら、俺の机の向かいに座って頬杖をついてニヤニヤしている藍に受け答えした。


 紫苑も俺達が付き合う事になったと知っても、これまでと変わりない接し方でいてくれる。


 クラスの皆は、俺と藍が付き合っている事を知ってか知らずか特に気にすることもなく、藍ファンの阿笠すら気付いてない様子。


 まぁ、普段から夫婦漫才とか言われていたんだから、こんなものかと納得してしまった。


「やはりお前は楠木を選んだのだな 」


 そんな中で唯一気付いたのが遠藤だった。


 中指で眼鏡を直す遠藤は、満足気な笑みを浮かべている。


「私はてっきり紫苑ちゃんだと思ってたのに。 でもまあ、二人が幸せなら別にいいんだけどさ 」


 生徒会室に戻ってきた伊藤が、俺と藍にお茶の差し入れをしてくれる。


「ありがと雪乃。 紫苑もこいつが好きだから、勝ち目ないと思ってたけどねー 」


 苦笑いする藍は、受け取ったお茶のペットボトルを半分くらい一気に飲み干す。


「収まる所に収まった、ということだ。 『お前らはもう、付き合っていた』と言われても不思議じゃあるまい 」


 思わず藍と二人で遠藤を真顔で見てしまった。


 胸に七つの傷を持つ某有名キャラの、『お前はもう死ん……』をパロったんだろうか…… 秀才のツッコミどころがわからない。


「貝塚君、やっぱり紫苑ちゃんも好きなの? 」


「まぁ…… 友達としてな 」


 伊藤の容赦ない尋問が更に続く。


「じゃあ鳥栖さんは? 」


「ブフっ!? 」


 副会長席でお茶を飲んでいた楓が吹き出した。


「世話のやける友達。 嫌いじゃないぞ 」


「…… それって囲っちゃってる? セフ…… 」


「「うおぃ!! そんなこと言っちゃいけません! 」」


 また下ネタ系に走る伊藤に、遠藤と言葉が被る。


「ちょっと雪乃! アンタ…… 」


「ゴメンゴメン、貝塚君が本気なのか知りたかったから。 でも気を付けてね藍ちゃん、貝塚君の周りには誘惑いっぱいだからね? 」


 なんて事言うんだコイツは…… 遠藤に視線でクレームを入れると、遠藤は咳払いをして目を合わせなかった。


「伊藤、お前…… 」


「だって貝塚君、流されやすいでしょ? 紫苑ちゃんに鳥栖さんに、1年生の女の子二人…… 妹ちゃん。 保健の柚月先生とか吹石先輩とか…… 紅葉も怪しいなぁ 」


「「ブッ! ゲホゲホっ! 」」


 藍と楓が揃ってお茶を吹き出した。


「ねーよ! 柚月先生とか吹石先輩に手を出したら蒼仁先輩に殺される! 」


「そうだねぇ、僕に手を出すならともかく。 みどりや姉さんに手を出したらどうなっちゃうかな 」


 耳元で囁かれる蒼仁先輩の声…… いつの間に後ろにいたんだこの人!?


「うぉっ! あふ…… 」


 例のごとく脱力のツボを押されて、俺は蒼仁先輩の腕の中に収まってしまった。


「藍君、よくも僕の燈馬に手を出してくれたね 」


 下から見上げる蒼仁先輩がカッコいい…… じゃない! 声は軽いけど、目は笑ってないぞ!


「ちょっ! 先輩、何言ってるんですか! 」


「燈馬は僕の恋人だ。 僕と勝負して勝利しないと、燈馬は渡さないよ 」


 目を見開いて驚いしている藍に、蒼仁先輩は笑っていない目で微笑んでいた。


 周りに助けを求めて視線を送ると、楓と伊藤は真っ赤な顔で口を押さえて固まり、遠藤は額を押さえてため息を吐いている。


「…… 負けません。 ウチはどんな勝負でも勝ってみせます! 」


 気合いの入った藍は、蒼仁先輩を真っ正直から見据える。


 冷や汗を垂らしながらも、口元を吊り上げてニヤリと笑う…… あれは全然自信のない顔だ。


「決まりだね。 それでは、勝負は君の得意な弓道にしようか。 点数制の高校弓道だ 」


 うぇ? それは藍の圧勝なんじゃ……


「相手はみどりがするが、当然ハンデをもらうよ。 種目は60メートル遠的、場所は吹石宅、日時は追って連絡しよう 」


 そう言って蒼仁先輩は俺を解放した。


「先輩、ハンデというのは? 」


「みどりは二級、藍君は五段だ。 実力の差は歴然…… なので、一矢でも外せば藍君の負けとさせてもらう 」


 藍の腕はこの前の審査会で知っている…… あの時も一発も外さなかったから、多分大丈夫だろう。


「………… 」


 藍を見ると真っ青な顔で硬直していた。


「え…… 藍、もしかしてヤバイのか? 」


 不安になって尋ねてみたが、藍は俺を見るだけで頷きもしない。


「一般審査って近的の28メートルなのよ。 遠的はほとんどやったことないし、腰入れや退く胴が必要になってくる。 ちょっと勝手が違うから、ウチの弓じゃ届かないかも…… 」


 専門用語だらけでよくわからないけど、弓においてこんな弱気な藍は初めてだった。


「おや、勝ち目が薄いと足踏みしてしまうのかい? 」


 蒼仁先輩は藍を煽るようにニヤつく…… この人に限ってこんな顔をするのは珍しいかもしれない。


「いえ、やります! ウチと燈馬のこれからがかかってますから 」


 キッと蒼仁先輩を見据える藍は、張りのある声で迷いなく答えた。


「いい返事だね。 みどりも君と勝負するのは楽しみにしてるんだよ 」


 おいおい…… 勝負はもう決定してたのかよ……


「ウチが勝ったら燈馬から手を引いて下さい! 」


「それは負けられないね…… いいだろう、どちらが燈馬を射止めるか勝負しようじゃないか 」


 ニコッと笑った蒼仁先輩は、俺の頭をスッと撫でると『それじゃ』と颯爽と生徒会室を出ていった。


「相変わらず強烈な人だな 」


 大きなため息を吐いたのは遠藤。


 伊藤は緊迫した空気に気圧されたようで呆気にとられ、楓に至っては蒼仁先輩を追ってドアの外で見送っていた。


「藍…… 」


「負けない…… 絶対! 」


 藍はそう呟き、目をハートマークにして見送る楓を睨むのだった。





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