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13話 復活させてやる!

 さすがにそのまま放っておくことは出来ず、俺は藍の家に一泊することにした。


 菜のはにはしっかり戸締まりをするように伝え、帰ってきたおじいさんには事情を説明する。


 藍と楓が入れ替わってしまった事を聞いたおじいさんは、二人と一言ずつ言葉を交わしてバカ笑いをする始末。


 疑いはしていないようだけど、目だけは笑っていなかった。


「お前さんも難儀な事じゃの。 まぁワシは藍が元に戻ればいいからの 」


 そう言い残して、ほろ酔いのおじいさんは奥に引っ込んでしまった。


「どうするのよこれから 」


 というのは楓に入ってしまった藍。


「信じらんない…… アンタならなんとかしてくれると思ったのに 」


 足と腕を組んでそっぽを向いた藍の中の楓は、あれからずっと不機嫌だ。


「なあ、ポンと幽体離脱する方法とかないのかよ? 」


 楓に話しかけるとムスッとされる。


「ウチに聞かないでよ 」


 藍が楓で楓が藍…… ワケわからん!


「そんな方法があるなら既にやってるわよ。 アタシだって藍ちゃんに早く返したいし、自分の体に戻りたいもの 」


 楓も、あの後何回も頭突きとかしてみたらしいが、ただ痛いだけで変化はなく、これ以上人様の体を傷つけるのが怖いと言う。


 やはり楓が予測しない状況じゃないと幽体離脱はしないのだろう。


「…… かといって危ない真似は出来ないしなぁ…… 」


「「ちょっと、何を考えてたのよ? 」」


 二人に同時に睨まれてしまった。


「油断したとこで階段から突き落とすとか、おじいさんの原付で轢いてもらうとか 」


「「バッカじゃないの!? 」」


 また二人同時に怒られた…… 実はこの二人、息が合うんじゃないのか?


「驚かせればいいの? 心底震えるくらい 」


 心底震えるくらいとは言ってないけど……


「まぁ…… そうだな。 息が止まるくらいの事なら問題ないんじゃないか? 」


 キッと藍を…… じゃなかった、藍の体の楓を睨んだ楓の中の藍は、『ついてきて』と自室から出ていった。


「…… なんなのよあれ 」


「いいからついていけよ。 何か考えがあるんだろ 」


 藍の態度に少しイラつく楓をなだめて、俺達も藍の部屋を後にする。


 藍の後に続いて向かったのは弓道場だった。


「お前まさか、ウィリアムテルやるつもりじゃないだろうな!? 」


「はぁ!? そんな危ない事するわけないじゃん! 矢の威力どんだけか知らないの? 」


 藍は何本かの弓を吟味しながら俺に怒鳴りつけてきた。


「はいこれ。 射ってみてよ 」


 藍は少し古そうな弓を楓に手渡し、練習用の巻俵の前に立たせた。


「え…… アタシ、弓なんて射ったことないけど 」


「いいから! 教えてあげるって言ってるの! 」


 少し乱暴に弓柄を握らせ、右手に手袋をねじ込んで弓を引く態勢を取らせた。


「ウチの体なんだから、射る感覚は体が覚えてる筈。 ほら構えて! ウチが『放て』と言うまで弦を離しちゃダメだからね! 」


 藍に面白くない顔をして渋々弓を構える楓は、言われるがままに弦を引く。


「硬…… 重…… 」


 歯を食いしばり、プルプルと腕を震わせながら弦を引く楓の横から藍は離れ、後ろに回り込んでポケットに手を忍ばせる。


「矢はつがえてないけど、目線の高さに矢があるようにイメージして。 目線と矢と巻俵が一直線になるように 」


「くぅ…… まだ!? 早く…… してよ! 」


 余裕のない楓は巻俵に集中している…… 藍がポケットからスッと取り出したのはハサミだった。


「まだ! そのまま踏ん張れ! 」


「こんのぉ…… いい加減にし…… 」


 顔を真っ赤にし、腕の震えが限界に来たのを見計らって藍が弦にハサミを入れた。


  パァン!!!


「はわっ!? 」


 甲高い破裂音と共に弓は逆反りになり、反動で楓は前につんのめる。


 そのまま前に顔から倒れ込むと、背中辺りの輪郭がボヤっと二重に見えた。


「藍! 」


 板の間に顔を強打した藍の体が心配になって抱き上げると、白目をむいて死んだようにぐったりしていた。


「大丈夫か!? 藍! 藍!! 」


「…… めっちゃビックリしたけど、出れたみたい…… 」


 抱き上げた藍の体の後ろを見ると、楓が放心状態で四つん這いになっている。


「お、おぉ…… よかったな 」


「ウチの作戦、うまくいったみたいね 」


 俺が藍の体から視線をずらして喋ったことで察したのか、持っているハサミをチョキチョキしながら、まだ楓の体の中にいる藍がドヤ顔で見下ろしていた。  


「ああ、楓は無事お前の体から離れたぞ 」


 とりあえず一歩進めた事に、俺も含めて二人もホッと息をついた。


 次は藍を楓の体から出して、お互いが自分の体に戻れば元通り…… と思ったが、なんだか抱えている藍の体の様子がおかしい。 


「あれ? 」


「…… どうしたのよ? 」


 楓が気付いて俺の顔を覗き込んでくる。


「…… 息してないぞ…… 」


「「へ? 」」


 手のひらを口元に当てても呼吸をしている感じがしない。


 慌てて藍の体を床に降ろして、胸に耳を当てて心臓の音を聞いてみたが、トクンという鼓動は聞こえてこなかった。


「ちょっと待てよ…… 」


 顔から一気に血の気が引いていく…… 楓の中の藍も、幽体の楓もその場で固まっていた。


「ウチ…… 死んじゃったの? 」


 ボソッと呟いた藍は、ヘナヘナと膝から崩れて座り込んでしまう。


「せっかく戻れると思ったのに…… やりたい事あるのに…… 」


 ボロボロと大粒の涙を溢す藍を、俺はただ見ている事しか出来なかった。


「なにしてんの燈馬! 」


 その言葉と同時に俺の頬に激痛が走る。


 幽体の楓が俺に平手を打って、俺の襟首を掴んできたのだ。


「呆けてないで人工呼吸! しっかりしてよ! 助けに来てくれたんじゃないの!? 」


 涙目で必死に訴える楓は、何度も俺を揺さぶる。


「アタシは何も出来ない! アンタしか藍ちゃんを助ける事が出来ないの! お願いよ! アタシはどうなってもいいから藍ちゃんを助けて! 」


 そうだ、呆けてる場合じゃない!


 藍の体の鼻をつまみ、顎を引き上げて気道を確保して口から息を吹き込む。


「いち! にっ! さん…… 」


 ドラマでしか観たことしかないけど、人工呼吸の要領を思い出しながら見様見真似で胸を圧迫した。


 力加減なんてわからない…… 何度も口から息を吹き込み、胸を押す。


「帰ってこい藍! 絶対死なせねぇからな! 」


「藍ちゃん! 藍ちゃん! 」


 傍らで藍の体に叫び続ける楓が正直邪魔くさい!


「楓! さっさとお前の体から藍を追い出して来い! 俺が乗り移ったお前を追い出せるんだ、お前にだって出来るだろ! 」


 人口呼吸を繰り返しながら楓に叫ぶ。


「追い出せって、そんな簡単に言わないでよ! それより生身の藍ちゃんが…… 」


「生きようとする意思がいるから言ってんだ! 藍の幽体を元に戻さなきゃならねぇ! 早くやれ! 」


 必死なあまり、言葉も汚くなってしまう。


「やればいいんでしょ! やれば!」


 楓は涙目で文句を言いながらも、自分の体目掛けて突っ込んでいく。


「このぉ! 」


 タックルするようにぶつかって行った楓は、自分の体を見事捕らえて床に押し倒した。


「うわっ!? 」


 ゴン! と鈍い音がして倒れた楓の体から藍の幽体が転がり出た。


 見えない力で押し倒され、床に後頭部をぶつけたのが功を奏したらしい。


「いたた…… なんなのよ今の! 」


「藍! すぐ体に戻れ! 」


「え…… え!? 」


 状況がいまいち飲み込めていないのか、藍はキョロキョロとして気が動転しているようだった。


「早く来い! 絶対お前を復活させてやる! 」


「…… うん! 」


 側に倒れている楓を見た藍はようやく状況がわかったのか、素早く俺が抱える自分の体に重なった。


「チュー…… するの? 」


「そうだな。 俺は白馬の王子様らしいからな 」


 実体と重なってよく区別がつかないが、藍は頬を赤く染めて微笑んでいるように見えた。


「頼んだよ、ウチの大好きな王子様! 」


 藍はそう言うと目を閉じて実体と同じ態勢を取る。


 そうだ…… 俺は藍が誰よりも一番大事らしい。


 多分、星院東の合格発表の時に会ったあの時から…… 気になる存在だったからこそ、ここまで側にいたいと思ったんだ。


「好きだ、藍…… 」


 ありったけの気持ちを込めて、俺は藍の唇に人工呼吸をするように唇を重ねた。


  



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