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1話 楠木藍

 ウチには親はいない。


 2歳の時に両親は事故で亡くなってしまい、身寄りのなかったウチを引き取ってくれたおじいちゃんがウチの育ての親だ。


 物心がつく前の事だったので特に寂しい思いをした記憶はなく、幼少の頃からおじいちゃんから教わった弓道と共に育ってきた。


 志望高校を決める際、おじいちゃんと大喧嘩をしたことがある。


  星院東高に入らなければ弓道を続けることは許さん!


 今考えれば、お互い意固地になっていただけ。


 喧嘩の内容なんて他愛のないもの…… 本気で弓道を続けたいのなら、超進学校くらい受かってみせろと言ったのだった。


 だから奇跡的に星院東に合格した時には本当に嬉しかった。


 合格発表の掲示板に自分の受験番号を見つけた時は、思わず隣で掲示板を見上げて呆けていた男子に抱きついて喜んだ。


 それが貝塚燈馬(かいづかとうま)との最初の出会い…… おじいちゃんに感謝するしかない。


 思えばこの時からだったような気がする…… 一緒に合格を喜んで、一緒に泣いて…… 変態かと言われそうだが、燈馬の匂いに凄く癒されていた自分に気が付いた。


 燈馬は紫苑(しおん)が好き。


 最初は応援して遊ぶ機会を作ってやったり、相談に乗ってやったりしていたが、いつしか素直に応援することが出来なくなっていた。


  ウチも燈馬が好きなんだ…… 


 その事に気付いたのは一ヶ月前の弓道の審査会だったっけ。




  スカン!



 自宅の弓道場でウチの放った矢は的の枠ギリギリを射抜いた。


「ほぉ…… 随分と雑念が入っているようじゃの、(あおい) 」


 20メートルのウチの弓道場ならば、真ん中を外す事はあまりないんだけど。


「うーん…… 最近弓が調子悪いんだよね。 おじいちゃん、メンテしてくれる? 」


「弓のせいではないわ馬鹿者! お前さんの気の問題じゃろ 」


 橙馬に告白してフラれて以来、矢を自分が思い描くように飛ばせなくなっている。


「学校で何かあったかの? 」


「…… 別に何もないけど 」


 ふとアイツの顔が浮かぶ…… 集中出来ない原因なんて明らかだった。


「ホッホッ…… 何もなくはないようじゃの。 ほれ、未練があるなら行ってきたらよかろう 」


「むぅ…… アイツは関係ないよ! 」


 流石育ての親というか、おじいちゃんにはバレバレらしい。


 心を読まれて悔しいので、さっさとお風呂に入ることにした。



 

 「気持ちを伝えてフラれればスッキリするのかなぁ…… 」


 湯船に口まで浸かってブクブクと文句を言ってみる。


 紫苑との恋を応援するとハッキリ告げたのに、橙馬の事を思ってしまう自分が嫌になる。


 この距離間が悪かったんだろうか…… 近づきすぎ? 


「あーもう! なんであれだけ仲良くてフラれるかな! 」


 諦めるどころか、日に日にアイツの事を考える時間が増えていく。


「紫苑も悪いんだよ! あんなに好き好きビーム出しておいて、自分には付き合う資格がないってフるんだから! 」


 そう、燈馬は紫苑にフラれた。


 しかも紫苑はウチに燈馬を譲るような発言をする始末…… それがまた許せず、紫苑とケンカしてそれっきり。


 紫苑が何を考えているのかわからない…… わからないと言えば、湧いて出たような(あの子)も訳がわからない!


「何が幽霊だよ! タイミング合わせたように編入してくるんじゃないっつーの! 」


 湯船の中でバタバタ暴れ、不満をぶちまけた。


「いや…… 何より燈馬が悪い 」


 ウチにも紫苑にもあの子にも、分け隔てなく優しくするアイツが悪い! 菜のはちゃんは別だけど。


「最近、紅葉(くれは)もなんとなく怪しいんだよなぁ…… 」


 星院祭以来、紅葉はよく燈馬に絡むようになった…… ような気がする。


 蘇芳(すおう)君が雪乃とくっついて触発されたのか、ウチ自身が触発されて焦っているのか。


「あー…… なんかモヤモヤする 」


 こんな時は好きな曲を聞きながら大声で歌うに限る!


 スマホにダウンロードしてある楽曲を再生し、イントロが終わってさぁ歌おうとした時だった。


 スマホの表示に貝塚燈馬からの着信…… なんなのよ!


「タイミング良すぎんのよアンタは! 」


 ー な、なんだよいきなり…… ー


 文句を言ってみたものの、燈馬の声を聞いてウチの心臓は少しテンポを上げていた。




 これは、燈馬が生徒会長に選ばれ、紫苑や楓と恋のライバルになった頃の、ウチと燈馬のひと冬のお語です。




 



 

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