6,異変
一話と三話を改稿しています。
分かり難かった箇所の修正や今話の理解に必要な設定の追加などを行っておりますので、もう一度読まれる事をお薦め致します。
アル様とテレーゼと私の三人で夕食を摂り、その後少しだけ作業を進めてから眠ったのが昨日。
いつもの様に空が白み始めた頃に起きると、何やら外が少々騒がしい。
朝は基本的に静かだから何かあると直ぐ分かるんだよね。
後でテレーゼにでも聞こう、と思いながら素早く着替えて作業を再開した。
そして、黙々と作業をする事少し。
不意に、違和感を覚えた。
「・・・・アル様の気配が、無い・・・?」
思わずそう呟けば、嫌な予感が躰を駆けた。
父や母、兄の護衛はかなりの人数が居て交代制で護衛をしているけれど、守られる必要の無い私の護衛は一人、そして彼らは私と同じように生活してきた。
それは、アル様も同じ。
その生活の中でも充分な睡眠を摂れる様にはしているから、体調を崩しているとは考え難い。
・・・せめて二人、交代で、とは思うのだけれど、どうやらそうすると私が王位を狙って戦力を集めている、と邪推する輩が居るらしい。
―――馬鹿馬鹿しい。
でも、それが貴族社会と云うものなのだ。そう云う情報は、家の浮沈に関わるから。
まぁ、そんなこんなで今迄はずっと一人だったけど、やはり護衛の健康に宜しくはないし、仮にその一人が体調を崩してしまった時に護衛が居なくなってしまうから増やした方が良いだろう。
・・・・正直護衛がいなくても問題は無いのだけれど、そこは王家の体面と云うやつだ。
いや、こんな事は今考えるべき事じゃないな。
兎に角、私と同じ生活をしているアル様は、夜に部屋へ戻って朝私の部屋にやって来る。
そしてそれは、決まって夜明け前だ。
彼はいつも、夜明け頃には既に部屋の前に居る。これは原作にも描写があったし、アル様が護衛になってから今日迄の12日、変わる事は無かったので間違い無いだろう。
何かあった?いやでも、まだ13日目だ。原作では事が起こるのはアル様が護衛となって初めての13日。
・・・・だけど、今日もまた灰日だ。
彼が護衛となってから13日目の。
・・・・・考えれば考える程、嫌な予感は強くなっていく。
それを振り払う様に緩く頭を振ってみるも、あまり上手く行きそうに無い。
以前、たった1日にして数多の国々が滅んだ事があったのだと言う。
今となっては詳しい事など分からないけれど、なんでもその状況を引き起こしたのはたったひとつの生命体であるらしい。それが魔物なのか、動物なのか、はたまたヒトであるのかはそれこそ“闇の中”の話であるのだけれど。
まぁ、何が言いたいのかと言うと。
その“たった1日”が13日の灰日であったが為に、13日の灰日は酷く恐れられている。
特に、事が起こったとされるインヴァの13日に灰日が重なると、人々は家から一切出ない。各々家に魔法や魔具で結界を張り、騒がず静かに過ごすのだ。
嘗て幾千幾万もの生物を屠り、その規模に関係無く幾つもの国々を滅亡させたひとつの生命体を決して怒らせぬ様に、その逆鱗に触れぬ様に。
今月はインヴァでは無いものの、事が起こるのは13日の灰日。
原作通りであるのならば、アル様が捕らえられるのは13日の事であり、13日目の出来事では無い。
今日はまだ3日。13日の灰日迄は後10日もある。
彼に何かあったとするのならば、この世界は『玉響』の世界と似て非なる世界なのだろうか?それとも―――――
私の所為で、
世界が狂っている――――――?
ぞっとした。
身の内から蝕まれる様に躰が冷えてゆく。
決して、楽観などしていないつもりだった。
けれど、心の何処かで思っていたのだろう。
“きっと、原作通りに進む”
と。
そんな保証、欠片もありはしないのに。
怖い。
折角見付けたのに、折角出逢えたのに。
現実には存在しなかった気配が、近くに在るのがこの一週間程で既に当たり前になりつつあった。
なのに、日常が、奪われようとしている。
許せない、許せる訳が無い。
許容なんて、してやるものか。
仮に体調を崩していたと云うのならば杞憂だったと笑えば良い。
何かあってからでは、遅い。
ふわりと髪やドレスを舞わせた魔力に包まれて、私は部屋から姿を消した。