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3,原作でのアル様と私

そんなこんなで昼食を終えて、午後。

私は再び寝室へ入り、原作についての諸々を改めて思い出していた。



 王国の第二王子・アランと学園で偶然出会った主人公・アメリは恋に落ちる。

 アランの願いは兄の手伝いをしながらアメリと共に穏やかに幸せに暮らす事。しかし、周りの大人は彼を担ぎ上げ第一王子の政敵としたり、アメリが平民である事から難癖をつけたりと前途多難。

果たして、彼らの恋の行方は?


書店に置かれていた『玉響(たまゆら)を重ねて』のポップはこんな感じのが多かった。

玉響(たまゆら)を重ねて』は、このアークレイド王国の第二王子であるアランと、その恋人であるアメリが思いを通じさせ、ひとつになる(まで)の恋愛漫画。恋愛漫画にしてはファンタジー要素やバトル要素が細かいと、ラノベ好きにも評判の一品だった。

(もっと)も、おおまかなストーリーとしては恋愛だけど、実際読んでみるとバトルやファンタジーの成分の方が多く、男性にも多く読まれていた。

私は好きだったけれど、恋愛漫画としてそれで良いのか、と思った事もまぁある。


世界観は中世ヨーロッパ風で、魔法や魔法を用いた道具―――所謂(いわゆる)魔具、と呼ばれるものなんかがある世界。

作者様がコメントで、『剣あり魔法あり同性婚あり、何でもありの夢の世界!!私の妄想を詰めこみました(笑)』って言ってた位、本当に色々な要素が入った作品なんだよね。

年とか月とか、概念は基本的に現実と同じで、それでも独特の相違点が幾つかある。

例えば、月の数は現実と同じだけど、一月が30日だから一年は360日。但し、閏年(うるうどし)みたいなものがあるから10年に一度361日になる。更に、一週間が10日だから10年間同じ日は同じ曜日。

因みに、月や曜日其々(それぞれ)の呼び名は、月が年始から順にファンス、トゥンド、トゥリド、フォリル、ファイス、シクシュ、シヴュラ、エイスト、インヴァ、テオクト、レヴュン、トウェル。曜日が白日(はくじつ)紅日(こうじつ)蒼日(そうじつ)黄日(おうじつ)緑日(りょくじつ)緋日(ひじつ)藍日(らんじつ)紫日(しじつ)灰日(かいじつ)黒日(こくじつ)。補足として、10年に一度増える1日の事を“エルンスト・ターク”と呼ぶ。

これを原作でチラッと出て来た時に暗記した私は重度のヲタク。自覚はしてる。


そして、重要事項である原作での私とアル様のこと。


原作でのアル様は、今はもう絶えたとされる一族のひとりであり、学園にも通わず、平民ながらに若くして武功を立て辺境伯の養子となった天涯孤独の青年。まぁ、本人が死んだと思っているだけで生きている弟が一人居るのだけれど。

魔法は親から唯一教わった“主従契約”以外からきしであるが、それを補って余りある程の武術の実力を買われ第一王女の護衛となる。しかし、巧みな策に陥れられ、謀反の罪に問われた後死刑宣告が下される。

そして、偶然にもアル様を陥れる策であった事を知った第二王子によって救われ、彼に忠誠を誓う。

原作終了間際の最終決戦で、四面楚歌状態となった第二王子と主人公を身を呈して庇い、負傷した状態で敵と戦い退路を開き、命を賭して敵の足止めを行った。

サブキャラクターながら、物語の重要人物のひとり。


うん、思い出すだけで泣けてくる。

アル様の最後の言葉は、本当に心にキた。

『俺はあの時、アラン殿下の為にこの身を遣うと決めた。

 今がそれを、果たす時だ・・・!』

静かに、力強く、そう呟いて。

万もの敵へ向かって行ったあの格好良さと言ったらもう、最高だった。

地味にこの言葉はフラグだったんだけど、この台詞があった話の次話、戦いが終わった後にアル様の遺体が見つかるんだよね。

いや、信じたくなかっただけで分かり易くフラグか。


(からだ)中ぼろぼろで、腕なんて途中から無くて、天の家族の幸せを願って伸ばし続けていた髪の毛だって斬られてて。


あのコマを見たときは、時が止まったかの様な錯覚を受けたなぁ。

こう、何て言うの、喪失感?こころにぽっかり穴が空いたみたいで、悲しくて、気付いたら泣いてて。

作品の中の事なのに、現実の事みたいに酷く心が締め付けられた。

下手したら、家族が死んだ時でさえこんなに悲しまないんじゃ無いかな、って思った。それに気付いた時、流石に自分でも引いたね。


喪失感と絶望感で動けなくなって、気付いたらもう朝だった。

読んでたのは20時位だったのに。



・・・・・駄目だな。

こればっかりは、トラウマになってるみたいだ。現実のアル様はまだちゃんと生きてて、気配を感じられるのに、さっきから涙が止まらない。

気持ちを切り替えないと。

そうならない為に、今(まで)行動してきたんだから。


例えば、さっきの昼食だってそのひとつだ。

護衛とのコミュニケーション。

アル様と話し、信頼関係を築く為に必要だと思ったから、護衛や侍女と幼い頃から一度は必ず食事を共にした。テレーゼだけは、ずっと一緒だけど。

そして、時々原作を思い出しては、新たにするべき事が無いかを模索する。・・・・まぁ、大概アル様の最後を思い出して数刻泣いてるけど。

今日も例に漏れず、だしね。


そろそろ私の方の考察を始めよう。

原作での私は、まぁ当然サブキャラクターなんだけど。

兄弟間の事に関しては中立の立場を保って居て、弟の恋愛については始めは平民相手だと王族としての立場が、せめて何処(どこ)かの養子になってから、などと言って深く考えるよう諭していたけど、元々姉としては反対してはいなかった。但し、当人達は反対されていると誤解していたんだけど。弟の覚悟を知ってからは、恋愛については寧ろ味方だったキャラなんだよね。


肝心のアル様について、原作の私の対応は酷いものだった。

立場や状況を考えれば妥当なところではあったのかもしれないけど・・・・

巫山戯(ふざけ)んな、って思ったよね。殺意が湧いた。

アル様が陥れられたのは護衛騎士となって直ぐの事であったから、証拠も無く信用しておらず、放ったらかしだった。アル様の話も聞かずに、処罰されるべきとして。


先ずは、此処(ここ)から変えないと。

伝手を辿って怪しい動きを捉えてはいるけど、実行に移されなければ捕縛は出来無い。だから、どうあってもアル様は一度捕らえられる事になる。

此処(ここ)で原作と違うのは、私の魔法の腕が良いこと。実際は魔法だけじゃなくて武術も相当なんだけどね。こっちは内緒。

兎に角、原作と違って護衛は慣例と一応、ってことと、後は王族に護衛無しは外聞が宜しくない、って事で付けられてるだけで、私は護衛が居なくても行動を制限される事は無い。

護衛が居ないと駄目、なんて束縛があると色々と動き(にく)くなると思ったから、自重する様にした後もある程度の実力を示していたんだよね。


よって、堂々と証拠集めに勤しみ、真犯人捕縛に協力する事が出来る。


でも、その間アル様が独りになる訳で。原作では理由が描かれていなかったけれど、アル様は人間不信で他人には殆ど心を開かない。

そんなアル様を独りにすれば、益々人間不信になるだろう。

そうなれば、信頼関係を築くのだって絶対難しくなる。



出来るだけ、それ(まで)に信頼関係を築いておきたい。

そうと決まれば、行動あるのみ。

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