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1,回想、目標、そして決意

彼が部屋から退出した後、侍女のテレーゼに紅茶を淹れて貰ってから寝室に入る。寝室には基本誰も入らないから、今はひとりきり。


ひとりで眠るには大きなベッドの隣に、私が毎晩日記をつけている机がある。卓上に紅茶を置いて、椅子に腰掛け日記を出す。

独特の風味を伴う、カモミールティーに似た紅茶を口に含み、日記を眺めながら私は自らの半生を振り返る。

思えば、今(まで)本当に色々な事があった。



――

―――

――――



私には、前世の記憶がある。



そう言うと、ありきたりな小説の様になってしまうかな。

でも、事実なのだから仕様が無い。


私は前世、日本の普通の女子高校生だった。

他と違う所を強いてあげるとするならば、能力値が高過ぎて皆から遠巻きにされていたことくらいだろう。つまり、簡単にいえばぼっちだったのだ。

そりゃあ確かに、常に成績トップで基本満点、武道負け無しのくせして部活動無所属、なんて人間が居たら近寄り難いのは分かる。でも、ずっと独りで居る方の身にもなって欲しい。好きでハイスペックになった訳じゃない。いやまぁ、結果が出るのが楽しくて努力はかなりしたけど。


まぁ兎に角。

私は前世、神薙(かんなぎ)優凪(ゆうな)と云う名の女子高生だった。

成績は常に全国トップ、運動をさせれば敵無しの、文武両道を極めたみたいな人間だった。

――――そして先程述べた通り、ぼっちだった。

リアルに友達が居なかった私は、読書や執筆、作画、作詞作曲等々ひとりで出来る様々な事に没頭した。最も好んでいたのは読書で、小説漫画ジャンル問わず色々読んでいたけれど、その中で特に()まっていた作品がある。



作品名は『玉響(たまゆら)を重ねて』。

全42巻。アンソロジーを含めるととんでもない数になる。

女性向けの恋愛バトルファンタジー漫画で、ゲーム化される程内容が良かった。漫画作品ではあったけど、元から小説だったとしても随分と売れただろうと言われていた作品。バッチリ小説化もされていた。

ゲーム化やノベライズだけじゃなく様々なメディアミックスになっていて、私はその全てを()り込むと云う廃人的()まりようだった。

私はこの作品自体楽しく読んでいたけれど、どハマりしたのには理由がある。まぁとても単純なことだけど。


   心を奪われるキャラが居た。


当然最推し。

主人公であるアランヴォード王子に出会う迄不遇な人生を送っていた青年。漆黒の長髪に、深海の様に深い青の瞳、そしてきめ細かな褐色の肌を持った、今はもう絶えたとされる民族のひとり。高い戦闘能力と冷静な思考能力を持ち、忠誠を誓った人物にとことん尽くす。

それが例え唯の民族的な心理特性であったとしても、そんな事は関係無い。重要なのは、あの容姿であの性格であり、それが私の琴線に触れ離れなかったこと。

私は容姿性格全てに於いてアル様――――アルダートン・ライ・ヴィストーク様を愛した。元々リアルに良い思い出があまり無い事もあって、そりゃもう恋愛感情と区別付かなくなる程に(まで)


アル様を題材に書いた二次創作は一体(いく)つになるのか知れない。

最終巻で主人公達を守る為にアル様がその身を犠牲にした時は、次の話どころか次の頁にすら進めずに号泣した。本を濡らさない様に一旦置いてから。何時間か泣き続けて、次の頁に進んだのは翌日だったなぁ、と思い出す。

つまり、ひとことで言えば『一夜泣き明かした』だ。

それ位、兎に角、()まった。どハマりした。



そんな私はある日、命を落とした。

非常に呆気無く、簡単に。

ひとの命は、本当に脆く儚いものだった。

まぁ、面倒なので此処は割愛するけれど。


気づけば、真っ暗な空間に居た。

身体(からだ)は動かせなくて、水の中の様な浮遊感があるのに不思議と息は出来る。

唐突に、何処からか歌や良く分からない言葉が聞こえて来る事もある、謎空間。

何だか状態が子宮に似ているな、実際覚えている訳では無いけど、なんて思っていた。

時間の感覚も方向の感覚も狂う空間に嫌気が差すようになった頃、少しだけど身体(からだ)を動かせる様になって来て。

まぁ、謎空間の正体は本当に子宮だった訳で、あまりに長いので此処も割愛しよう。


赤ちゃんとして産まれて直ぐは、弱視で殆ど何も見えないから只管(ひたすら)言葉を聴き取った。何せ、知らない言語だったから。でも、赤ちゃんの脳って凄いよね。それだけで大体マスター出来たあたり、本当に流石。

目が見える様になった頃、部屋を見回して装飾とかに既視感(デジャヴ)を覚えた。そして、初めて母親の姿を見た時、私は固まった。

 何故って?見覚えがあったからだよ。

だって、『玉響(たまゆら)を重ねて』の王妃様だったから。

しかもある日、明らかに第一王子のエディだと分かる容姿の幼児を連れて来て、彼に「貴方の妹よ、愛らしいでしょう」なんて言うのだから。終いには国王様までやって来て、王妃様と 娘は可愛いものだな、とか話していた。


  二歳位の第一王子。生まれたばかりの私。

  今(まで)に娘を持った事が無い様な親の発言。


       つまり?


流石に気付く。

これらが表す事は、私が第一王女だということ。


薄々疑ってはいた夢物語は、現実だった。


私、日本の唯の女子高生、神薙(かんなぎ) 優凪(ゆうな)は、人生に於いて最も()まった作品、『玉響(たまゆら)を重ねて』のアークレイド王国第一王女、レティシエイリア・レイン・アークレイドに転生していた。



そうと分かってからは、早かった。

部屋に防護の魔法が掛かっていたらしく、侍女は私が泣いた時位しか部屋に入って来ない。育ちなのか何なのか、父も母も兄も皆ノックをしてから入って来る。

じゃあ、ひとりきりの間、有効活用出来るじゃないか。そう考えるのは自然だと思う。

手始めに、魔法。

原作と云う予備知識があるのだから、自分の適性は分からなくとも属性は分かる。大元だけで17種類、派生を含めたら途方も無い数になる。


魔法の種類や属性を分かり易く(まと)めるならば、基本属性又は基本四属性と呼ばれる四属性が火・水・風・土、希少属性又は希少四属性と呼ばれる四属性が光・闇・回復・植物、特殊属性と呼ばれる六属性が自然・時間・空間・無・聖・魔。 そして、その他に召喚魔法、精霊魔法、創造魔法がある・・・、とまぁこんな所だろう。


先ずはやっぱり基本属性からかな。初めてだから安全なのが良い。

炎は室内だと危ないし、水も濡れたら不味い。土で汚れても駄目だし、残るは風、か。

・・・・鎌鼬(かまいたち)みたいに切り刻まれる事は無いと思う。多分。


そうして使った、初めての魔法。

まだまだ喋れないので難易度は高いけど無詠唱で行くしか無かった。

イメージはそよ風で、詠唱も無しにイメージ通りちゃんと発動したものだからつい調子に乗って他の属性も使っていったんだよね。

全て発動した時の驚きと言ったら、もう、言葉では言い表せない。

確か原作では第一王女の適性属性は基本四属性と、希少四属性だけだったはずなんだけど・・・・

転生特典、なのかな。

そんな風に考えて、使えるなら極めてしまえと毎日限界ギリギリ迄魔法を使い、魔力量を増やし、威力や速度、魔法制御能力を高めていった。前世の勉強の感覚で。


その所為で、私は再び学校での首席ぼっちを味わう事となるかと思われたけど・・・、この世界の皆は恐れより興味が(まさ)ったようで。友人が沢山出来た。それが学園初等部――――大体小学生の頃。

しかしながら、年を重ねる毎に段々と遠巻きにされるようになっていったのだから目も当てられない。ひとりになっていくに連れて自重するようにはなったけど時既に遅し。

元々王女なのだからその因子は持っていたはずで、何故もう少し自重しておかなかったのかと頭を抱えたのも良い思い出だ。


唯まぁ、スクールライフは上手く行ったとは言えないものの、目標への準備はこれ以上無い程上手く進んだ。

   私の、目標。

原作の様にアル様を見捨てる様な事はしない。私の知る悲劇的な人生の分まで、アル様に幸せを感じて欲しい。原作でだって、幸せは感じていただろうけど、もっと、安全な、笑顔で居られるような幸せを、知って貰いたいんだ。

   その為の、準備。

 魔法を磨いた。

 武術を磨いた。

 学問を修めた。

 知識を得た。


そうして迎えた、今日と()う日。

王女として、アル様に出会った初めての日。

絶対に見捨てない。誰よりも側に居て、誰よりも愛したい。

転生(ゆめ)が現実となった今、それでも私の想いは親愛以上恋愛未満。

漫画(ゆめ)が現実となった今、私がやる事は唯ひとつ。



さぁ、思う存分、推しを愛でましょう!

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