不死の魔女の悲しい願い事
最悪殺されろうが、死ねるなら今より良い。
もう、この状況から抜け出せるならなんだっていいんだ。
そう考えからマークと不死の魔女との事を調べ始めた。
マークは代々不死の魔女と謁見している家系であり、そのおかげで今の地位があるらしく本来なら宗教に近いくらいに"魔女様"と崇めていた家系でマークの両親もそうだったらしいのだが、マークは異端児で不死の魔女への対抗策が出来ないかと隠れて探してるらしいという事。そしてそれを知る者は少数だがそれでも仲間を集めている事がわかった。
なんて事だ、と思いつつもこれはかなり使えると思った。
不死の魔女にマークたちとの事を伝えれば、俺も殺されようがマークたちも絶対に殺されるだろう。
そしてその機会は半年に一度、マークが謁見する時に馬車に隠れて乗り込むしかなかった。
これが難関だった。
まず部屋を出るのさえ、簡単な事ではない。ただ色んな事を調べられているくらいには抜ける事が出来ていたのも事実。
自分につけられている手枷の鍵はもう何年も前からスペアを盗んで持っていたから、後は部屋の見張りが居眠りしたり、サボる奴の時を見計らい出ていたんだが、半年に一度のその機会が偶然そんなバカに当たるとも限らなかったり、上手く出れてもマークの馬車に乗り込むのも容易くなかった。
マークだけが乗る小さな馬車を見た時は、どう考ても乗り込むのは無理だとその時血の涙を流した。
目の前に、目の前にっ、と。
それでも、何度となく挑戦していればいつかはと自分を奮い立たせ、その時はきた。
やっと、やっとこの時がきたんだ。
今回は積み荷も多いらしく、マークの馬車以外の荷台があるだけでなくその中にワイン樽があり中身のワインを抜いて中に入り込む事も出来て完璧と言える程までの条件が整った。
心臓が痛い。
初めての感情に笑いが出そうになる、なんだろうか…、この感情は。
してやったというような嬉しさや、この後に不安や、色んな感情が織り交じって興奮して心臓が痛い程に音を揚げていた。
何分経ったのか、もしくは何時間も揺られていたのかわからない程興奮したまま、声が聞こえてきてとうとうかと思うと手まで震えてしまう。
「荷物はいつも通り、隣の部屋に。
私は不死の魔女様にお会いしてくる」
マークのそんな声と共に荷台は開き、誰かが荷台に入ってくる。
そして俺の入ったワイン樽も運ばれていく。
しんと、周りから声も音も全てが消えて確実に側に誰もいなくなったのを確認してから樽を出る。
灯りはランタン一つ。
最初は食料などを入れとく倉庫かと思ったが、そうでもなさそうでただただマークが持ってきたものをこの部屋に置く為だけのような……とりあえず、ここから馬車が出るのを確認だけしてからどうにか不死の魔女に会いに行こう。
今はとにかくここで息を潜めているのは一番だ。
そう思ってじっと静かにドアの隙間から外を伺いながら時を過ごす。
きっと数時間は待つだろうと思っていたのに、何故か怒った様子のマークがすぐに馬車に来る。
「何か忘れ物ですか?」
付き人としてきた者がマークに問うと、怒りを込めたような溜息ををつきながら…
「今日はもう帰れと言われただけだ。不死の魔女様の考えなど我らでは到底わかるまい。帰るぞ」
一応聞かれても良いようになのかあからさまな不満は漏らしてないが、それでも言葉には棘があり態度も怒ったままマークは馬車に乗り込んで帰っていく。
なんでかわからないが、こんなラッキーな事はない。
ここに隠れているとはいえ、何かの拍子で見つからないかもわからない状況で未だに心臓はバクバクと動いていたが馬車が遠のいていくのを見て少しだけ落ち着いてくのがわかる。