不死の魔女の悲しい願い事
この世には2種類に分けられている。
それは人間か魔法使い(魔女)かのどちらかだ。
昔は魔女狩りなんてものがあったそうだが、そんなの文献の中でしか見た事ないくらいに魔法を使えて当たり前の世界になった。
それはそうだろう。
魔法を使える者と、ただの人間ならどちらが強いかなんて馬鹿でもわかる。
そりゃどちらが増えるかなんて誰でもわかる。
今やただの人間は2割といない。
その2割もいない人間の扱いは酷いものだった。
魔法も使えない劣等種として奴隷の扱いにされるか、極稀に貴重種だと愛玩として魔法使いの中でも金持ちで権力者に飼われているかのどっちかだった。
そして、俺はその後者だった。ただし特殊なと付け足しておく。
ちなみに人間と魔法使いの2種に分かれていると言ったが、魔法使い同士の子が魔法使いになり、人間同士の子が人間のままという訳じゃない。
正確には昔はそうだったかもしれない。だけど今や人口の80%以上が魔法使いの今、皆どこかしらに魔法使いの血は流れている。
だから現在の人間と魔法使いを分ける類の見分け方は魔力だった。
まあ簡単に言ってしまえば、魔法を使う為の力が人間には全くないんだ。
人間と呼ばれる者は魔法を使える事が出来ない者の名という訳だ。
メカニズムはまだ解明されていないが、魔法使い同士だろうが、子供が先祖返りなんだか、それとも遺伝子の異常なのかわからないが人間は生まれる。そして、俺の飼い主はそれをとても興味深く考えていて
人間の俺を買ったらしい。
物心ついた頃にはもう俺は首輪をつけられていて、その事を説明されて色んな勉強をさせられた。
人間が魔法使いの勉強をさせられ、どうしてできないのか毎日実験をさせられた。
魔法陣を体中に描かれ、魔法使いたちから魔力を無理やり入れられて体中大やけどしたり。
魔法書を全て覚えさせられた後に喉から血を吐くまで全て詠唱させられたり。
死ぬ寸前なら、魔力が生まれるかもしれないと餓死寸前まで食べ物を与えられなかったり。
人間が死ぬギリギリを試すために心肺停止になったその瞬間に最高位の癒しの魔法使いに魔法をかけさせて治癒させての繰り返しの時は流石にきつかった。
猛毒を与えられたり、身体を刺されたりしては治されてと、死にたいと思っても死なせてもらえないような毎日で、生きてて幸せなんて思った事は微塵もなかった。
だけど、誰も助けてくれない。
そんなの当たり前で、しかも悲しい事に実験の為に色々な事を学ばされたからこそ、いかに自分が無能で、自分たち人間の扱いが酷いかを嫌という程に理解できてしまっていた。
だけど、ありがたい事にその知識のおかげで、俺はここを逃げ出す算段をつけられた。
逃げ出そうと決めたのは多分もう幼い頃すぎて覚えていないが、それでも何年もかけて俺はそれを現実にするまでにかかった。
まずは、人間の俺が逃げた所で、この世界は腐ってるから扱いなんて少しマシになるか程度。
まあそれでも今よりは良いかもしれないけど。それでも逃げ出したと別ればすぐに捕まるだろう。
そうすれば、俺の飼い主はそれさえ興味深く考えてきっともっと酷い実験を楽しんでやるだろう。
だからこそ、まず逃げ切る事。
そして、そこから人間の俺が生きて、そして俺の飼い主に見つからない、または手を出せない場所を探すしかなった。
だけど、勿論の事だがそんなところを見つけること自体がかなり難題だった。
俺の飼い主は、この辺では知らなものがいないくらいの権力者であり金持ちだった。
そんな時に聞いた不死の魔女と飼い主であるマークの関係。
不死の魔女の事は言わずと知れた存在で、ここで色々な事を学んでいなくてもこの世界で生きていれば知らずにはいれない存在だった。
彼女、余りの魔力の強さにその体が朽ちる事がなく、本気で世界を蹂躙しようと思えば何千と有能な魔法使いが止めようとそれさえ可能にしてしまうではないかと言われる程の希代の力を持つ魔女。
過去には何千という生贄を捧げていたという文献もあるほどで、彼女の望みは全て叶えなえてきたそうだが、何故か現在はその森に入る事を法律で罰し、彼女に謁見できるのは限られた人にすればよいという、大した望みでもない事だけで静かに暮らしている。
彼女への噂は絶えない。
だけど、謁見出来る人間も限られている程の存在で、俺なんかが会える訳もないと思っていた。
だけど、マークはなんとその不死の魔女の謁見出来る数少ない一人だという事を知った。
不死の魔女ならば、マークよりも強くマークの存在から逃げる事は可能だ。
だけど、それでも、マークよりも怖いかもしれない。
もはや、怒らせれば世界が壊れるかもしれない……いや、こんな世界どうなってもいいか。