地獄への道は善意で舗装されて鏡面加工までされていた
魔王様の一日。
0時~6時 仕事
6時~7時 部下への演説と支持
7時~36時 仕事
「滅びろ!ブラック企業!!!」
異世界だから一日は24時間じゃないんだ。
とか
食事はどうなってるんだ。とか以前の問題である。
「き、急にどうしたんですか?軍師殿?」
「こんな生活してたら死ぬにきまってるだろ!あれか?お前ら全員魔王様を殺したいのか?!笑顔で『応援してます!死んでください!』って毎日言ってるのか!」
「え?だって魔王様なら睡眠とか不要だろ?」
「魔王様は無敵。休息などという惰弱なものとらなくても活動可能」
「パパはいつも仕事してても大丈夫だったわよ」
「お前ら全員目が腐ってるだろ」
生物は休まないと死ぬ。
さらに言えば、人間は8時間の休息と食事の為の2時間、それにダラダラしたりネットをしたりするのに4時間は欲しい。
仕事?そんなもん知らん。
ショートスリーパーという特異体質もいるにはいるが、そういった人が長生きしたと言う話は聞いたことが無い。漫画家の水木しげる先生が提唱した睡眠力は至言だと思う。
「え…魔王様はそんな些事から無縁の存在ではないのですか?」
唯一の良心だと思っていたニューロさんまで驚いている。
そのナチュラルなブラック労働感にびっくりだよ。
「とにかく、まずは安静と睡眠。これをとらない限りは回復はしないと思ってくれ」
「え!じゃあ各地方への食糧輸出計画は誰がするんですか!」
「戦闘中のエルフとの戦闘指揮はどうすれば…」
「今回の件で貴族たちが不穏な動きをしてるんですがだれが鎮圧計画を立てるんですか?」
「止めて差し上げろ!お前らは鬼か悪魔か?」
「虎鬼族である!」
「小悪魔よ!」
よーし、お前ら邪魔だから外で待機してろ。
とりあえず、この頭の弱そうな集団に『金のガチョウ』の話をして、欲をかくとロクでもない事になるから、働かせるならきちんと休ませる事から始めた。
「一日たったの8時間しか働いてはだめなのですか…」
「いや、最高で8時間だからね!これ以上働き続けたら体を壊すラインだから!」
安全基準と言うのは越えちゃダメなラインなのだ。
「じゃあ、8時間働いた後10分休憩させればまた働けるんだね!」
「お前は前世で魔王様に一族全部滅ぼされたのか」
発想がブラック企業の経営者と殆ど変わらないじゃねぇか。もしかして食料もロクに取れてないんじゃないか?
「魔王様は食事なんて不y」
「あ、もういいです」
お前たちがナチュラルに魔王を殺そうとしている事は良くわかった。
「まずはお湯の入った入れ物を10個ほど持ってこい!あと布をたくさん!」
「何を怒っているのだ?軍師殿」
不思議そうに尋ねる虎頭の声に我慢の限界が来た。
「これが怒らずにいられるか―!お前ら魔王様を虐待し過ぎだー!」
医療従事者と言うか人間としてほっておけないくらい、酷いいじめにあってるじゃねぇか。
このナチュラルエネミーの巣窟に魔王様を見捨てておくなんて人としてできねぇ。
周りの家臣全てが善意で殺しにかかっている事を把握したよ!
ブラック企業ってこんな感じの人間ばかりがいるんだろうね!
かわいそうな魔王様!