魔王は勇者を待ちわびる
「これ、マッサージしたら死ぬんじゃないか?」
会って一番初めに出た印象はこれだった。
それくらい魔王の体は衰弱していた。
どれくらい衰弱してたかと言うと、ここで強烈なつぼマッサージを施せば心臓マヒを起こして死ぬんじゃないか?と思うほどだ。
母さん。どうやら俺はその気になれば一瞬で世界を救えそうだ。
ついでに言えば、先程魔王の声でみんなが震えていたのは、具合が悪いのに会話なんかしたら死ぬんじゃないか?と怯えていたからだった。
「えーと………軍師殿、急な召喚、さぞ驚きの事だったでしょう」
ニューロさんが俺を気遣うように語り掛ける。
うん、最初は怖くて驚いたけど、何もしないうちから魔王が瀕死状態ってインパクトのまえに霞んじゃいましたよ。
俺が勇者だとしたらどんな展開よりもびっくりするね。
魔王城についたら何もしてないのに魔王が死んでましたとか。
これがゲームならネットで炎上する案件じゃん。
「えーと、話を総合するとここは魔王様の城で、私は召喚儀式で呼び出されたと?」
「はい。その通りでございます」
穏やかに笑う顔を見て、大輪の花が咲いたかと錯覚を覚える。めっちゃ美人だ。
「で、あちらで病気に臥せっておられているのが」
「我らが主、魔王様です」
どうやら勘違いではなく本当に魔王らしい。
「よくぞ、げほっ!来られ、ぐはっ!た、異世k!ゴホゴホゴホ!!!」
もういい、休め。魔王様。
何もしてないのに昇天しそうな魔王に変わって、ニューロさんが説明する。
「魔王様は原因不明の病に倒れて、1ヶ月以上伏せっておられるのです」
なんでも人間や亜人の国と互角の戦いをしていた魔王だったが、急に体力が回復しなくなり、ステータスも減り出すと言う奇病にかかったらしい。
「はあ、それで私は何をすれば…」
自分は整体師だ。軍師でも殺戮機械でもない。
というか何で俺を軍師って呼ぶの?
「実はわが国には、非常の際に異世界より人材が召喚されて国を救ってくれると言う恒例行事があるのです」
なにその異世界にとって迷惑なイベントは?
「そして魔王様が伏せられて1月経過して、召喚の魔法陣が開かれて」
「俺がやってきたと」
「その通りです」
運命系の召喚かー。だとしたらなんかチート能力でもあるのかなー。
でも魔法が使える感じもないし、力が強くなった感じでもないしなー。
そんな分析をしていると魔王が語り掛けてきた。
「たのむ軍師殿。元の、ごほっ!状態に戻してくれとは、ゲフッ!言わぬ。だがせめてこの両の足で立てるようにしてはもらえぬか?」
「立つ?それは一体何故ですか」
(病弱アピールが面倒なので、ここからは通常会話でお楽しみください)
「うむ、痩せても枯れても我は魔王。せめて勇者が来るまでは死ねないのじゃ」
初孫の顔を見るまでは死ねない感じで宿敵を待つんじゃねぇよ。
「それに、仮に勇者がやってきて今の余の姿をみたらどう思う」
えーと、すっごく倒しやすそうだなぁ…かな?
「幾多の苦難を乗り越え、多くの我が部下を退けた後、不安と使命感の狭間で揺れ動く心」
おい、なんかポエムっぽい事を言いだしたけど大丈夫か?
「荘厳なる魔王城に入り、我を守ろうと必死に戦う幹部たちを退け」
「退けられるんだ、ニューロさんたち」
もっと部下を信用してやれよ。
「疲労困憊になりながら、その魔王門を開けた瞬間に現れたのが、寝たきりの老人だったとしたどう思う」
「えーと、苦労せず倒せそうでラッキー?」
「違う!おそらく勇者はこう思うだろう!自分たちがここまで苦労してたのにコイツはぐうたら寝てやがる。俺たちはこんなに頑張ってるのに!と」
「別に敵の親玉がさぼろうが、自滅しようが関係ないと思いますけど…」
どちらかと言うと軍師とか医者と言うより、メンタルの医者が必要なんじゃないかな?この魔王。
ブラック企業に勤めていた時の自分の思考と凄く似ていて親近感を覚える。
相手に気を使って、自分が悪い自分が悪いと思いこむ感じが特に。
「というわけで、わが宿敵と会うのに恥ずかしくない状態にまで治療をしてほしいのじゃ」
魔王の生態はどんなものか分からないが、とりあえず人間に角が生えたおじいさんって感じだし、やれるだけやってみるか。
「まあ、とりあえずどんな状態なのか知りたいのですが、ニューロさん。この世界ってステータスとか存在するんですか?」
「はい。ございます。心の中でステータスオープンと唱えれば閲覧が可能です。なお他者のを閲覧する場合はフレンド登録をして相手の許可を得てください」
随分とシステマチックだな。おい。
まあとりあえず、俺のステータスを見てみる。
椎名伏 LV1 無職
HP;15 MP;0
ちから9 ちえ8 すばやさ10 まもり12
スキル;なし
これがどれくらい強いのか分からないが、とても弱いのだろう。
虎男なんか露骨に舌打ちしてるし、「ゴミね」という声まで聞こえている。
誰だ?言った奴は。
まあ、俺は整体師だしね。戦う必要なんてないからね。
チートレベルの能力が勝手についてて、俺TUEEEとか周りから認められてウハウハ状態とか全然期待なんかしてないからね。うん、ほんとほんと。あのブドウは酸っぱいに違いないさ。
「では魔王様の状態も拝見させていただきましょう」
そこで、俺は魔王に触れ、状態を確認して息をのんだ。
そこにはこう表示されていた。
ブレイン LV9999 魔王
HP4/?????? MP2/??????
ちから4/??? ちえ5/???
すばやさ1/??? まもり2/???
スキル;使用不可
ステータス;正常
「これが魔王様のステータスだ」
「瀕死じゃねぇか!」
堂々と胸を張って話す虎男…マスクルに俺はたまらず叫んだ。