第一章2話
降臨祭当日セクメシティ―白亜の神殿
「教主」
「どうした」
「今回の生贄は全部で五人です」
「そうか。だが、うち一人は神子への供物だ、忘れるな」
「はっ」
(この国はもうわしの傀儡だ。今年の降臨祭はそれを知らしめてやる。くくく)
同日セクメシティ―兵舎
「あ〜。ダリィ」
セレエイ国軍兵舎で唸る男一人。
「いいからさっさとこの書類片付けろよ。夕方から神殿警備なんだぞ」
「そう!それだよ!何で軍人の俺らが警備兵の真似事しなくちゃなんねぇんだ」
「仕事だからだろ」
「実も蓋もない事言うなよハイギート」
ハイギートと呼ばれた男は、嘆息する。
「仕方ないだろ。神殿勢力は今政府の下手な役人より権力持ってんだから」
「いや、だからってこの『雷銃』ルギエス・エシュールド様が何でそんなクソつまらねぇ仕事しなけりゃなんねえんだよって言ってんだよ!!」
ルギエスは叫んだ。そして、
「こうなったら、教主ぶっ殺して俺の自由を獲得し、ついでに王権回復してやろうじゃねぇか!!!」
と、事務処理から逃亡を図る。
「そんなことに労力使うな!馬鹿!」
しかし、ハイギートにふっ叩かれて撃沈した。
夕刻セクメシティ―生贄の待つ間
暗い倉庫のような黴臭い臭いがするところに泡沫は一人閉じ込められていた。
(この国ってほんとイシュエル教浸透してるなぁ。この神殿セレエイ王宮より広いんじゃないのか?)
泡沫がそう思うのも無理はない。事実、この街の神殿は王宮よりも広いのだ。
元々、一宗教でしかなかったイシュエル教の勢力が増長したのはここ数年の話であった。大神ラーを崇めるイシュエル教に神の祝福を受けた神子が現れたのだ。ラーの弟神であるオシリスの祝福を受けたとされる神子は触れただけで人を殺めたり、蘇らせる事ができるそうだ。セレエイ国王はおかげでこの宗教にのめりこみ、いまや教主の傀儡となっているそうな。
(神様って何人くらいいるんだろ?)
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
「出ろ」
連れて来たのと同じ白服の男が言った。そのまま泡沫は、また何処かよく分からない所へ移動させられた。
其処は、白亜の神殿には似合わない、黒い壁に覆われた暗い部屋だった。
泡沫をほおりこみ、白服の男は扉を閉めた。その後、ガチャリという音が聞こえて鍵が閉められた。部屋は、松明一本によって灯りを補われていた。目が慣れてくると、其処に誰かがうずくまっているのが分かった。
「君は、誰?」
「・・・・・・・・・。」
膝を抱えたまま黙っている。泡沫は、その肩に触れた。
(この子、すごく悲しんでる)
「私に触らないでっ!」
今まで黙ったいた少女がいきなり怒鳴る。
「あ、気に触ったんなら謝るよ。でも、僕はただ、君がどうしてそんなに悲しんでいるのか知りたいだけなんだ」
少女は泡沫を仇のごとく睨む。
「悲しんでるって?よく知りもしないくせにそんな事言わないでよ!」
と、泡沫を右手で突き飛ばす。泡沫はドンと音を立てて尻餅をつく。
「痛いなぁ。もう」
少女は、泡沫を凝視する。
「あなた、どうして・・・?」
「ん?なに?」
「あなたどうして死なないの!?」
さあ、2話です。