第一章 死の神子 1話
白亜の神殿のその最奥に暗黒の部屋はあった。そこでは常に、生者の気配が全くない。
その部屋が開けられるのは、生贄を連れてきたときか、死体を運び出すときだけである。そこに住む少女は、壁際にうずくまり、いつもと同じようにつぶやく。
「だれかたすけて」
某日セクメシティ
「やっと着いたよ。スフレも疲れたかい?」
旅装をした少年は足元の黒猫に話しかける。少年は幼い容姿に似合わず、黒い無骨な剣を提げ、右目を眼帯で覆っていた。しかも、この西部地方では滅多に見られない黒い眼に黒い髪をしていた。
しかし、誰もこの少年に見向きもしない。
「今度こそ手がかり見つかるかな?」
少年は雑踏に紛れていった。
「私はやってないってば、放してよ。生贄はいやっ」
「お前はそこの店から商品を盗んだだろうっ!嘘をつくな!」
「そうだ!盗人は死の神子様の生贄だ!」
一人の少女が数人の男たちに囲まれていた。
「私やってないっ。本当よ!」
「お前はジャカラ族だろ!ジャカラ族は嘘吐きと相場決まってんだ」「つまらない言い掛かりは止めなよ」
突然小柄な影が割り込んでくる。あの少年だった。
「大の大人が女の子に酷いことすることないじゃないか」
「うっせえな。ガキが口出しすんなよ、痛い目みてえのか」
少年は不敵に笑った。
「それはそっちだよ」
その挑発を受け、一人の男が殴りかかった。しかし、あっさりと躱され足払いをかけられ男は転倒した。
「君今のうちにはやく」
少年は女の子の手を引き走り出した。
「はぁはぁ。あなた、って足、はぁ、速いのね」
「大丈夫?」
少女は頷いて呼吸を整える。
「さっきはありがとう。私、イリュっていうの。あなたの名前は?」
「俺は泡沫。自分で帰れるか。俺はあいつらをひきつけておくから」
「ええ、大丈夫よ。本当にありがとう」
イリュはそのまま駆けていった。泡沫も路地裏を出る。
「いたぞ!あそこだ!」
さっきの奴等が追いかけてきた。泡沫はふふんと笑って大声で叫ぶ。
「大馬鹿さ〜ん!こっちだよ〜!」
「あのガキ舐めやがって」
「おい、異端者狩りの奴等に連絡しろ!」
「待ちやがれぇ〜!!!」
男たち三人は泡沫を追って走っていった。
「異端者はどこだ?」
「はい、こちらです」
男はドアを開けた。中には、散々痛めつけられた泡沫が転がされていた。
「黒眼黒髪、東方人か・・・」
「はい、しかも店の商品を盗んだ奴とグルで、おまけに黒猫まで連れてたんですよ」
白い服を着た男は後ろの部下に言った。
「十分に異端に値する。連れて行け」
(それに、明日は降臨祭だ。生贄は多い方がいいだろう)
白い服の男は、泡沫を担いだ部下を伴って、白亜の神殿へ戻っていった。
泡沫が睨むように神殿を見ているのにも気付かないまま・・・。
週一更新を努力しますが、なにぶん忙しいので出来ないかもしれないです。
まあ、頑張るので以後よろしくお願いします。