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想像上の何か、背水の陣

作者: こじぽん

「ねえ、どうしてミイには触れないの?」

「そりゃあ、アタシが強いからだよ! どんな攻撃もすり抜ける! だからアタシは触れないのさ! シュッ! シュッ!」

「へー! ミイはすごいね! でも、ちょっとでいいから触りたかったなぁ。他の人たちがやっているみたいに、手を繋いだり、ハイタッチしたりしたりさ」

「そんなこと言っても、アタシは人間じゃないもの」

「そうだけどさ......ちょっと......」

 寂しいな、とアタシに聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、優は下を向いた。うしろめることなんて一つもないのに、申し訳なさそうにアタシを見つめて、表情を読み取ろうとしている。だから、アタシも申し訳なさそうに、

「ごめんね」

 としか言うことができなかった。

 アタシは何のために生まれてきたのだろう。片親で一人の時間が多い優のさみしさを紛らわすために、だとは思う、それは分かっているつもりだ。でも、結局さみしい思いをさせているアタシは、一体何なのだろう。

「もう、いいや、眠ろう?」

「そうね、眠りましょ」

 子供の顔の大きさの割に、優のまつげはとても長い。それはまるで、目を守るという使命を全うするために、まつ毛が精一杯頑張っているみたいで、やっぱり優はまだ守られる子供なんだなということを実感する。私が無理やりそう思っているのかもしれないけど。

 でも、そう思ってしまうくらいに、優は本当にいろいろな人に守られて生きている。母親は家のことに追われながらも優のために一生懸命働いているし、おじいちゃんもおばちゃんも優にはいつもデレデレで、会うたびにおこずかいをあげている、しかも、お互いにこっそりあげようとするから、2倍ももらっている、ずるい。それから、優を守っている存在としては、私もその一人、なのかな。自信がないや。

 幸せそうに眠る優を見ていると、くだらない考え事もどこかに吹っ飛んでいってしまって、アタシまで眠たくなる。本当は優が眠るから私も必然的に眠ってしまうのかもしれないのだろうけど、そんなことはどうでもいい。優を見ているとアタシは幸せになれるのだ。それから、優の成長も見ていられたら、もういうことはない。お母さんのために、汚れが残りながらもお皿を洗おうと頑張っていたり、昨日は言えなかったありがとうが今日は言えるようになっていたり、そんな優を見るたびに、きっといい子に育つんだろうなあって思って、頭がぽわーと白くなる。それが多分、幸せって感じだ。

 なのだけれど、だからこそ、なのかな。優のお母さんよりもずっと一緒にいるアタシは、この子に普通以上の幸せを与えられているのだろうかって不安になる。ある意味で優の時間を奪い続けている想像上のアタシは、優から幸せを奪っているだけなんじゃないかって、アタシだけがもらっているんじゃないかって思ってしまう。それでいい、そう思えるだけの図太さが、アタシにあればよかったのだけど、残念ながらひねくれ者だ。

 ただ、一つの希望として、優がもうアタシのことは必要ないと感じた時、アタシは、必然的に消えることができる。アタシが邪魔者にならなくて済む最高に素敵なお別れが、将来には必ず待っている。だからまあ、タイムリミットが来るまでは、できる限り頑張ってもいいのかな、って思えるのが唯一の救いだ。まさに背水の陣。アタシが勝手に頑張って、時間を奪って、幸せを奪っているのだとしても、少なくともアタシが生きているうちは、優の力になれているっていうことだから。失敗したら、綺麗さっぱり消えるだけ。最高ね、儚い花火みたいって思えば、素晴らしく聞こえてくるし。

 まあ、そんなことどうでも良くなるくらい、とにかく優の寝顔は可愛い。だからもう、それだけでいい、何度でもいう、それだけでいい、それだけで十分。だからもう、寝る、おやすみ、おやすみ。








 ......おやすみ。 

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