初めての王城生活 おまけ
心底幸せそうに寝息を立てる息子の姿を見て、エルナンの顔がほころぶ。
今は三人で並んで寝ている。国王夫妻が幼い王子を挟んだ体制だ。
セシリアは穏やかな笑顔でそっとハシントの頭を撫でている。
「本当に再会出来るなんて……。今でも信じられないわ」
「信じろ、セシリア。全て終わったんだ。父上は……」
そこまで言って言葉を切る。そうして目線だけであたりを見回した。
「父上は今までの罰を受け、平和な時代が来たのだから」
セシリアは小さく笑う。
エルナンは罪を認めた上で自害しようとした先代国王マルティネスを止めた。そうして魔力を消し、僻地に送ることにしたのだ。
でも、表向きには義父は死んでいることになっている。だからこの会話はあまり聞かせない方がいいのだ。言い方もかなりぼやかしている。
「エル」
「セシリア、僕はここにいる」
セシリアは大切な息子を潰さないように気をつけながら夫王にしがみついた。エルナンはセシリアをハシントごと、労るように抱きしめる。
キスはしなかった。二人の間にいるハシントが起きたら恥ずかしいからだ。
「この子に弟や妹が生まれるのはまだ先か」
ぽつりと呟く。セシリアがクスクスと笑った。
「気がはやいわよ」
「そうか?」
「しばらくは三人でいましょうよ」
この子が私たちを独り占めできるように。言葉では聞こえてこなかったが、きっとそういう意味だ。
「そうだな」
ようやく三人が揃ったのだ。それでいいではないか。
二人で声を出さずに笑い合う。それがとても幸せだった。
「おとうと? いもうと?」
不意に真ん中から声がした。ついぎょっとしてそちらを見てしまう。
「それは……」
「ぼくに『弟』や『妹』ができるの?」
確信をついた質問をされる。どう答えたらいいだろう。
息子からは不快という感情は見えない。むしろ、どこかワクワクしているように見える。
「そうだな。もう少しお前が大きくなったらな」
「じゃあぼくがんばって大きくなる!」
ハシントははっきりとした口調でそう言った。
どうしてだろう。どこか息子がそれを待ち望んでいるような気がする。
それなら近いうちに希望を叶えてあげるべきなのだろうか。
「うん、がんばれ」
エルナンはそれだけを言って息子の頭を撫でた。
***
『弟』、そして『妹』。孤児院に住んでいる自分には出来ないとずっと思っていた。
それが自分にも出来る。それはアリッツの心をワクワクさせた。
いつかアリッツは小さな『弟』や『妹』達とワイワイする日が来るのだろうか。
目を閉じると、賑やかな声が耳に響く気がする。たくさんの子供達の笑い声が。
——にーさま!
そんな無邪気な女の子の声とその子が自分に飛びついてくる感触まで感じる。
そしてそれは本当にいつか起こる気がするのだ。
アリッツは幸せな気持ちで再び眠りの世界に落ちていった。
次はフローラがバルバラに師事するまでの話です。
しばらくアイハの話が続いてますね。近いうちにレトゥアナ(ビバイラ)の話も書きたい!
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