巻き毛
イライアは自分の巻き毛が嫌いだった。すぐ絡まるし、見ていると父を彷彿させてしまうからだ。実際、色も巻き具合もそっくりだ。
小さい頃から、兄の母譲りの茶色のまっすぐな髪の毛が羨ましかったし、自分もそうでありたかった。
その巻き毛嫌いはずっと続くと思っていた。
***
「ああ、お母様ぁ」
さっきまで楽しそうに従妹のミレイアとボール遊びをしていたはずのラケルの情けない声が聞こえてきた。
そちらを見ると、ラケルの可愛い髪の毛が低い枝に引っかかっている。ラケルは四つん這いになって声と同じような表情をしている。
「どうしたの? ラケル」
「ボールが向こうに転がっていってしまったから自分で取りに行こうと思ったら引っかかってしまって……」
ショボンとしている姿も愛おしい。
「取ってあげるわ。じっとしていらっしゃい」
指と魔術を使って丁寧に絡んだ髪の毛を取ってあげる。ついでに魔術でボールも手繰り寄せてあげた。
「これから落としたボールを探すのは侍女に頼みなさいね」
「近くだから大丈夫だと思って……」
「でもまた絡まったら大変でしょう。可愛らしい髪なのに」
娘のラケルも自分と同じような巻き毛で生まれて来た。ただ、イライアよりは少しだけ巻きが緩いが、小さい頃の自分と同じように絡まりやすくて困っているようだ。
それでも、イライアはその髪を嫌だとは思わなかった。むしろ、ふわふわして可愛いと、とても愛らしいと思ってしまう。色が夫のビバルと同じストロベリーブロンドだからというのもあるかもしれないが。
そして、彼女に似ている自分の巻き毛もあまり嫌いだとは思わなくなった。ラケルが『お母様とお揃い』とよく言ってくれるからかもしれない。
「さ、ボール遊びの続きをしていらっしゃい」
ラケルを促してミレイアの所に戻しながら、イライアは自分の周りで揺れる巻き毛を穏やかな目で見ていたのだった。