第66話 知らない話
名前を奪われ、同時に能力を縛られた元魔王はフラフラ、夜を縫うように飛ぶ。
心の中で固く、固く復讐を誓って、ふととある事を思いつく。
そうだ、みんな巻き込んでしまえ。と。
数日後、どこからか魔王が弱くなったなどと言う根も葉もない噂が流れ、人間にとっては地獄のような日々が幕を開けた。
「もうやめやめです~。どうせミヤジには攻撃なんか通りませんし~。ミヤジが守ってるそちらの狐共も同じですし~、邪魔されないように見張ってるくらいしかやること無いですね~」
尻餅でもつくかのように、城壁へと腰を下ろしたナハトは、未だに警戒の糸を緩めない神楽とツヅラオ、ミヤジにこうも告げる。
「どうせですからお話しましょうよ~。それ以外の行動は全てキャンセルさせていただきますし~」
どうやら会話をさせたいらしい。誰よりもこの吸血鬼の能力を知っているミヤジは観念したように同じく腰を落とす。
ただし、吸血鬼からしっかりと距離を取ってからだが。
「ミ、ミヤジ? ほんに大丈夫なんやろな?」
「大丈夫だって。お前の攻撃だって俺の防御は抜けなかっただろ? こいつの攻撃も同様、”嘘”意外は問題ない」
その言葉を聞いて恐る恐るミヤジの影に隠れるように座る神楽と、神楽に抱き抱えられながら膝に座るツヅラオ。未だにツヅラオに関しては状況が分かってないようだが無理もない話である。
「あは~、いいですね~、頼られてますねぇ、お父さんは。家族を守る文字通り盾の役割ですか~」
「え、……お父さん、なのです? ミヤジさんが? 僕の?」
「おやぁ~? 実の息子に自分の事を言ってないんですか~? まぁ、ミヤジも色々と働く事で忙しかったでしょうし、無理もありませんかね~」
真っ直ぐに自分の目を見てくるツヅラオに、ミヤジはどう反応すればいいのか分からずに、ぎこちない笑みを浮かべて、ゆっくり頭を撫でる。
「ちゅーか、んな話する為なん? この話し合いの目的は?」
「もちろん違いますよ~。知りたくありません~? 僕が魔王だった頃からのお話を~」
「興味あらへんな」
「嘘をつくんでしたら表情位は動かさずに言って頂けませんかね~。というか嘘嫌いなあなたが嘘をつくなんて自然に出来るわけないんですけども~」
「話したいならさっさと話せよ。こっちはお前の意図が分からなくて困惑してんだよ。……ツヅラオ、君? 静かだけどどうした?」
「…………はっ!? い、いや、父様の手が大きいな……って、思ってたのです」
「あの~、家族団欒の雰囲気では無いと思うのですけど~」
先ほどまでの空気は一変、この城壁の上だけは、緊張感のないゆるーい空気に包まれた。
*
全く、面倒な事になりました。
まさか龍の姿に戻っていたのに、人間の姿に戻される事になろうとは思いもしませんでした。
本当に、あの”嘘”というのはろくなものではありませんね。
それまで飛び回っていたあの紅蓮の巨体の姿は無く、地面を跳ぶように駆けるマデラは、羽も、尻尾すら出せない”嘘”に思いっきり妨害されていた。
吸血鬼はマデラの届かぬ空中へと逃げているし、とりあえずどうにかせねば、と考えている間も吸血鬼は攻撃を続けているため、逃げながら何か策を講じなければならず、
とりあえず城壁に上ってブレスでもぶつけてみましょうか、と跳躍一番。
城壁の上に着地……―――っ!!
えぇと、……申し訳ありません、吸血鬼。まさか着地点に居るとは思いませんでした。
思いもせず敵に強力な踏みつけをお見舞いしてしまいましたが、彼なら笑って許してくれるはずです。
ほら、後ろでミヤさんと姉御も爆笑してますし……そうです、ミヤさんが何故こちら側に居るのか話を聞かねば。
「うぅ~。僕の扱い酷くないですか~? このクソ龍は本当に~、いつの時も邪魔しかしないんですから~」
私に踏まれた頭を押さえて呟く吸血鬼……、今私の事をもの凄く失礼な言い方しませんでしたか?
もう一度踏みますかね。
「マデラ、今からこいつが色々話し始めるそうやからなんもせんとき。……そや、ナハトって呼ぶで。ナハト、今の魔王さんとこへは数集めんでええの?」
「それも含めてお話しますよ~。僕にはど~しても皆さんの力添えが必要ですので~」
「その話に俺必要? 一応人間なんだけど」
「元魔王の時点で関係しか無いの分かってて言ってますよね~? いいから黙って聞いててください~」
コホン、と小さく咳払いをして、話し始めた。
「そもそも~、魔王ってどうやって決まるか知ってますよね~?」
「魔王を倒したんが次の魔王やろ? 知っとるで」
尻尾の間から煙管を取り出し、咥えて煙を吐きながら姉御が即答する。
「ではでは~、その魔王と呼ばれた最初の存在について考えた事は~?」
「最初から魔王として産まれたモンスターでは無いのですか?」
「仮にそうだとして自然に湧いて出たとでも言うんです~? 前提からして間違えてますよ~」
何故か私の時だけ語気が強いんですよね。……気のせいでしょうか?
「転醒繰り返して魔王になった、て事か?」
「少しだけ違います~。魔王に成り得るような素質を与えられたモンスターが転醒を繰り返したのが魔王という概念を纏うようになったんです~」
「ちょっと待ってください。素質を与えられた? 一体誰に?」
皆が引っ掛かったであろう部分をつい反射的に聞いてしまった。
「そんなの、女神様に決まっているじゃないですか~」
牙を口の端から僅かに覗かせ、不気味に笑う彼は、一体何を考えているのか。
私には一切分からなかった。
ご愛読ありがとうございます!
また会話パートというか、設定回収パートというか。
だってこのダンジョン課、屁理屈こねまくる小説なんですからこうなっちゃいますよ!
というわけで今後の応援よろしくお願いします~w




