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第6話  登場そしてお誘い

 クレーマーという嵐が過ぎ去り、昼間に送られてくる書類も多いということは無く。

 今日も素晴らしい事に定時退社がほとんど確約され――。


(最近は忙しい日が続きましたし、今日のように定時で帰る事が出来る日がこれからは続くと信じましょう)


 と、半ばルンルン気分で仕事を片付けている途中の昼下がり。

 ――その冒険者達は現れた。

 まだ初々しさの残る男の子を先頭に。隣には、男の子と同じくまだあどけなさの残る女の子の魔法使い。

 その二人の保護者の様にしか見えない、少年少女の2人よりは年を重ねた戦士と。

 戦士と2人の中間位、お姉さんと言った感じに見て取れる僧侶の4人パーティ。

 男の子も装備的に前衛職であろう。バランスのいいパーティだ。


「ご用件はなんでしょうか?」


そう言って席を立ち、彼らに向かって一歩歩き出した時である。

 ――ある直感が頭の中に走る。

 何故急にそんな直感が働いたのかは自分でも分からないし、確証はない。

 が、どこか懐かしさすら感じる。

 目の前のパーティ……いや――。

 パーティの先頭に居る男の子に対して、私の直感はこう告げていたのだ。


『この者こそ勇者である』


 と。


 しかし、だからと言って私に何が出来るというのか。

 ……いや、出来る事など決まっているでは無いですか。

 魔王様の望みではないか。

 この者が、私の直感通りに勇者であるならば……強くなってもらわねば。

 誰よりも、どの人間よりも。


「あの、ぼ……僕たちに合ったランクのダンジョンを見繕って貰えると聞いたのですが……」


 一歩踏み出した体勢で止まっていた私の耳に届くのは。

 若干頼りない、少し小さく震える声。

 しかし真っ直ぐに、決して折れぬと、芯の強さを思わせてくれる眼差しを持って、パーティの先頭の少年は私に尋ねてくる。


「はい。その通りでございます。冒険者になりたての方々でしょうか?」

「こっちの二人はそうだが、俺と僧侶のねーちゃんは違う。そうだな、あまり遠くなくてEランクの上位からDランクの下位のダンジョンを2、3個紹介してもらいてぇな。どこに行くかは俺等で決めるから」


 保護者、というのは失礼でしょうか。

 戦士の方からかなり具体的な希望ダンジョンを告げられ、


「少々お待ちください。すぐ探してまいります」


 にっこりお辞儀しダンジョン情報をまとめた書類を探しに自身の机へと戻る。

 戦士の方はどうやらダンジョン課の利用に慣れているらしく、こちらとしては凄く仕事をやりやすい。


「あんなふうな頼み方でいいの?」

「問題ねぇよ。むしろ大雑把な方が困ったりするぞ。ランクは合ってるけど北の極寒のダンジョンで、持ってくアイテムと装備と見直さなくちゃなんなかったり、なんてのが下手すりゃ起こりうる」

「他の基本的な情報は割と知っていましたのに。――ダンジョン課については知らなかったり。と、勇者様は不思議ですね」

「ぼ、僕だって知らない事くらいあるよ。ダンジョンが管理されてるなんて……」


 彼らに合うダンジョンを探している間に彼らの会話に耳を澄ましていたが――。

 当たり前のように勇者と呼ばれていますし、直感は当たっていた……のでしょう。

 昨日の魔王様との会話も、勇者なんていつ現れるんだよ……居たわ。ばりのフラグでしたか、と内心笑う。

 条件に合うダンジョンの資料を数枚持ち、彼らの元へ。


「お待たせしました。条件にあったダンジョンですが、まずは「コボルトの巣」はいかがでしょうか? ランクはDですがダンジョン自体は距離が短く、危険を感じれば他のダンジョンよりは安全に逃げる事が可能かと」


 まずは私の一番のオススメのダンジョンを紹介しましたが、反応はあまりよくないみたいですね。


「割とコボルトってすばしっこいからなぁ。出来ればまだゴブリンとかの方が戦いやすい」


 説明を受けたが難色を示し、頭をぼりぼりと掻きながら戦士が言う。

 ふむ、なるほど。

 駆け出しとはいえ、多少の戦闘経験があることを加味してこのダンジョンをオススメしましたが、勇者と魔法使いは本当に戦闘経験が無いと考えた方が良さそうですね。


「ではこちらはいかがでしょうか。元は小川に沿った道だったのですがゴブリン達が住み着いたせいで人気(ひとけ)も無くなり、ダンジョンになってしまった場所です」


 ランクはEに分類されており、ボスのゴブリンキングは魔法を扱うそうです。

 と付け加え、ダンジョンの紹介状を4人に見せる。


「ここにすっかなぁ」


 今度はあっさり決定しようとする戦士に勇者と魔法使いの視線が集まり。

 その視線は、なんで? と無言で尋ねていますね。

 それを説明するのも私の仕事ですし、なんて説明を始めようとすると……。


「小川に沿った道のダンジョンだろ? まず飲み水の心配が無い。川なら魚もいるだろ? 食料も心配なし。そういうダンジョンのボスは基本的に川の上流にいる。川を上っていけば迷う事も無い。最初に挑戦するダンジョンとしてはベストに近いと考えたわけさ」


 オススメした理由を直ぐに理解してくれる冒険者様は本当に助かります。

 やはり戦士は結構冒険者歴が長いのでしょう。


「じゃあここに行こう。場所は……2日もあれば余裕で着きそうだね」

「あ、一応他に選んでくれた紹介状もくれ。そこが終わった後にいくかもしれねぇ。」


 と戦士に言われ、もちろんです。と笑顔で紹介状を渡し――。


「あなた方が無事でありますように」


 と頭を下げ、彼らの背を見送る。

 あぁ、本当に……怖いくらいに理解力のあるパーティでしたねぇ。

 ほんの少しの説明でほとんどを理解なされる魔王様と同じで、思い当たらない謎の違和感を覚えるほどに。


 勇者――せいぜい強くなって魔王様の暇つぶし程度にはなってくださいね? 

 期待していますよ。

 出来れば早急に。魔王様が痺れを切らさぬ内に。


 いつの間にか睨みつける様な視線で勇者一行の後ろ姿を見ていた事に気付き、いけないいけない、と頭を小さく振る。

 一応、勇者がダンジョン課に来たという事を魔王様に報告しておきますか。

 僅かに残った仕事に、魔王様への報告書を作成することを追加し、ゆっくり一服とさせていただきましょう。

 マデラが防炎室にて炎を吐いてる時。

 一羽の鳥が彼女の机に手紙を落とす。

 その手紙の内容は……。


『ヤッホー☆ おひさシー☆ ようやクうちのダンジョンも落ち着いてきたかラ、久々に女子会とシャレこまなイ? 明日お休みだったよネー?』


 という、モンスター語の文章だったのだが。

 何故だがアクセントの変さが伝わってしまうとあるモンスターからの、女子会なるもののお誘いだった。

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