第45話 実力
彼はもの凄い速度で人間の言葉を覚えていった。
教える側が目を丸くするほどだ。
しかし、どんなに言葉を覚えても、自分の事を話そうとしない彼に、洞窟に隠れて暮らしている彼らは不信感しか抱かなかった。
そして一週間後、この洞窟は、巻き込まれてしまった。
神楽のダンジョンから戻ったリリスは、すぐにとある部屋へと向かう。
ギルドで魅了した、変態吟遊詩人を放り込んでいた部屋に。
その日以降、彼女がダンジョン内に姿を現すことは、滅多に無くなった。
*
這う這うの体で、何とか次の階へ向かう階段を上り、扉の前へ。
「皆、無事か!?」
振りむき確認しても、欠けている面子はどうやらいない。
「ほんと、説明にデタラメってある通りだったわね」
「ものには、限度が、あると思う」
「その辺にいる敵が、今までのボス位に強いの本当に勘弁だな」
追って来なくなった敵に安堵し、これから向かうダンジョンボスとの戦いに向け、各々が軽い食事や回復するためのポーションを飲む。
4人の冒険者は補給を終え、ダンジョン最後の扉を前に戦闘態勢に入る。
罠師が念の為、扉の罠を確認し、いざ戦闘へ。と意気込んで扉を開ければ、
こちらもすでに臨戦態勢と見て取れる、捕食者や狩人、と言った表情のハーピィの姿が。
「冒険者ガここにたどり着いタのは君たちガ初めてだヨー。ねぇ、いっぱイ遊ぼうネー」
思わず冒険者の背筋が凍るような冷えた笑みを浮かべたその化け物は、一直線に冒険者達へ向かう。
「火炎球!!」
咄嗟に放った、というよりは、予め撃つ事を決めていたと思われるその魔法は、
一般的な同じ魔法の大きさに比べ、倍近く大きかった。
眼前全てが火炎球によって遮られたハーピィは、全く取り乱しはしない。
視界に僅かに映った足元より、左右から近接職の2人が挟撃しようとしている事を把握し、かといって上は天井、下は床。左右に逃げてもどちらかの冒険者が迎撃態勢万全である。
それらを踏まえ、ハーピィは、前へ行く事を選んだ。
と言っても自ら火炎球に突っ込むなんて真似はするはずも無く。
ただ、その場で縦に回転し、鉤爪で炎の球を真っ二つに割った。
「「なっ!?」」
そのままの勢いで、ハーピィをまるで避けるが如く進む割れた火球は、挟み撃ちしようとしていた二人の行く手を遮る。
開けたハーピィの目に映るのは、魔法を放ち、まるで次の大勢に移れていない魔法使いと、その魔法使いの後ろで何やらゴソゴソとしている罠師。
どう考えてモこっちだよネー。と狙うは罠師。攻撃の準備が終わっていない魔法使いなど、後でどうとでもなる。
そして、聞こえた音は斬撃音でも、羽ばたき音でも無く、ただ、風が通り抜ける音。
もっとも、文字通り音を置いてけぼりにした行動の為、実際に聞こえたのは行動を終えてから。
鋭利な刃物で斬られたように、綺麗な断面を見せながら宙を舞うのは罠師の両腕。
音速を超える速度と、魔法すらも切断する鋭利な鉤爪によって実行された攻撃に、反応など出来るはずも無く。
これデ一人は戦闘不能だネー。
と魔法使いに狙いを付けたハーピィは、この部屋の入り口に座り、こちらに何やら筒のような物を向けている姿を確認する。
紛れもなく、先ほど自分が両腕を切断した罠師の姿であった。
ん?双子……な訳無いカー。てことは……囮影かナー。
罠師のスキルの一つで、影を自分そっくりに作り替えて作る囮。
ワザと狙われるような位置取りにしたのは、ハーピィを出し抜くつもりだったか。
一瞬で状況を把握し、再度罠師へ標的を変えるも、その一瞬を作る事が囮影の目的であり、その一瞬が、冒険者達が作り出したかったものである。
パンッ、と乾いた音が響いて、ハーピィの動きが空中で止まる。
うゎ、頭が、何カ……変。二日酔いみたいにグワングワンすル-。
ハーピィを襲ったのは状態異常、混乱。音を媒体に聞いたもの全てに等しく襲い掛かるように設定された、罠師特製のアイテム。
そして、予め混乱耐性を当然積んでいた4人は、今度こそハーピィを取る、とそれぞれ攻撃を行う。
今こそが、最大のチャンスである事を理解して。持てる力を込めて、放とうとして。
無慈悲な衝撃が彼らを襲った。全員が壁に叩きつけられるほどの踏ん張りが効かないなど生ぬるい程の衝撃は、ただ、ただハーピィが羽ばたいた時に発生した暴風だった。
先ほどまでの楽しんでいた表情は奥へと潜り、今彼女の顔から分かる感情は一つ。
潰す、又は、殺す。
蹴り上げ一つで、騎士の盾ごと右腕を切り飛ばし、魔法使いの腕ごと杖を真っ二つにし、罠師は短剣を持つ手ごと無造作に細切れにされる。
唯一体に傷を付けられなかった拳闘士の前にゆっくりと降り立ったハーピィは、
「まダやる? 帰ル?」
と、選択肢など思い浮かばない問いかけを、口元を歪めながら言った。
*
後日、このハーピィのダンジョンに挑んだ冒険者一向は、病院にて治療ののち、治癒魔法ではなく蘇生魔法にお世話になる形で、壊された体の部分を完治させたが、4人とも、冒険者を引退する旨をギルドに提出した。
彼ら曰く、
「勝てる気がしない」
と。
その引退願いの書類を受け取ったミヤジは、頭を抱えて大きくため息をついた。
面白いと言ってくださる方がいて、感想も、レビューすらも書いて頂いて、それだけでまだまだ自分は突っ走れます。
読者の方々の期待を裏切らない様、これからも頑張らせていただきます!




