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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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落水と干物

 3人での戦闘は、王都からモセウシまでの道程で、何度もこなしている。誰が指示するでもなく、それぞれが敵を取り囲むように、移動しはじめる。


 レイヌと佐藤を結んだ直線の延長線に僕が立ち、キミコと里緒菜が、僕の右前方と左前方に位置取る。二人の立ち位置は、佐藤は当然として、レイヌも視界の隅にギリギリ入る位置をキープしている。


 しかし、ユニコーンに乗った相手ってのは、思ったより高いな。剣で攻撃するのであれば、地に足を付けたままじゃ、足以外を狙うのは、少々厳しい感じがする。誰かに攻撃を仕掛けた隙をついて、飛び込んで攻撃するしかなさそうだ。


 佐藤が装備しているのは、槍型の魔導兵器。恐らく、騎乗して戦う事を想定して、持ち替えたのだろう。ケーブルが差し込まれている様子は無いので、自前の魔力で動く武器で間違いないと思う。


 最初に動いたのは、佐藤だった。ユニコーンの加速は、想像をはるかに超えていた。前足が土を跳ね上げる様子が見えたと思った時には、既に目と鼻の先まで近づいていた。咄嗟に右側へ飛び退き直撃は免れたが、振り返った時には、佐藤は、遥か彼方。考えるまでも無く、剣が届く距離じゃない。


「僕は、囮と回避に専念するから、隙を見て横から攻撃を頼む。分かってると思うけど、ユニコーンは後回しだ。どうせ、普通に斬りかかっても弾かれるから」


「彰悟くん、気を付けてくださいねぇ」


「しょう君、キーちゃん、角にも気を付けるんだよ。ミーちゃんの話だと、光ってる時は、下手な刃物より切れるらしいから」


 それに、答える余裕は無かった。道の先で、旋回したユニコーンが、再びこちらへ向けて突進してくる。


 角が光るっていうのは、あれの事か……。昼間だっていうのに、目に焼き付きそうなほどの、強い光を放っている。


 強烈な威圧感に回避を急ぎたくなるが、それは駄目だ、早過ぎたら、きっと隙を作れない。大丈夫だ。刺さったって死なない。


 ギリギリまで引き付けて、佐藤の左手側に回避する。突きを狙っていたのか、横に回避した僕に対して、槍は向けられていない。


 何とか回避に成功した……そう思った瞬間、佐藤の左手が光った。続いて左肩に衝撃がはしり、地面に叩きつけられてしまった。


 槍と角ばかりに気をとられすぎていた。通り過ぎざまに、槍を持たない左手で、魔弾を放ったようだ。貫通性の魔弾では無かったようで、穴が開いたり、腕が飛ばされたりはしていないが、骨が折れた感じがする。再生まで30秒って、ところか……。


 ダメージは負ったが、動けなくならなきゃそれでいい。それよりも、大切なのは。


 通り過ぎた佐藤に向かって、キミコと里緒菜が挟撃を仕掛けた。佐藤の右手側から飛び掛かったキミコの方が、里緒菜よりも一瞬早い。ユニコーンごと、両断しそうな勢いで、上段からスコップを振り下ろす。


 キミコのスコップが虚空にピンク色の弧を描き始めた時、里緒菜は、後ろに溜めたレイピアを佐藤の脇腹目掛けて、突きだした。


 魔法で攻撃した直後の佐藤には、この攻撃を防ぐ手立ては無い。無防備な佐藤にピンクの光と、青の光が直撃する。


 だが、その光は体に届いていない。20センチほど手前で、障壁に阻まれている。


 佐藤も、レイヌと同じ障壁を使っている? いや、違う。レイヌの障壁は体スレスレに張られていた。目測で2センチ程度だったはず。距離から判断すると別物だろうが……破れないなら同じ事か……。


 落ち込んでいる時間なんてない。やれる事をやるべきだ。


「おい! レイヌ。お得意のハッタリか? アイツもダレイスタンってのを使ってるじゃないか。……はっ! 偉そうな口を叩いた割には、随分と姑息だな!」


「チッ! あんた達程度の相手に、そんな面倒な作戦、仕掛けるわけないでしょ? あれは、神獣の能力よ。乗っている人間にもシールドを張るっていうね」


 ……プライドが高そうだから、的外れな事を言って勝手に納得したら、言い負かそうとして、真実を話したりするかもしれないと思って、やってみたが、本当に話しやがった。


 ああ、単純な相手で助かった。なんて言ったら、激高して襲い掛かってくるのが目に見えてるから、言わないけど。


 まあ、ネタが分かっても、対策を思いつかなきゃ何の意味もないんだが。ダレイスタンじゃないから、10秒ルールは適用されないよな……。


「里緒菜、ユニコーンのシールドの強度って分かるか?」


「ミーちゃんのステージ5で破れないんだよ。キーちゃんのステージ6で破れるかどうか……やってみないと、わからない」


「やってみますかぁ? 1回なら使えますよぉ!」


「分が悪い。それで、キミコが動けなくなったら詰みかねない」


 走り抜けた佐藤は、既に旋回して、こちらへ走り出す直前って感じだ。……何か手は無いのか?


 ……時間が無い。とりあえずは、正攻法を試すべきか。ピアスショット(里緒菜に正式名称を聞いた)を描画。この魔法陣をユニコーンか佐藤にめり込ませた後に発動させつもりだ。


 土煙を引き連れて、突進してきたユニコーンが、先頭に立つ僕へ向かってくるが、あと少しという所で、佐藤が操り進路を変えさせた。その先に居るのは、キミコだ、速度を緩めず真っ直ぐに向かって行く。


 キミコは駄目だ! 「リリース!!」狙ったのは、キミコの手前の地面だ。着弾で開いた穴を嫌って、ユニコーンの進路がズレた。そのまま、止まる事無く走り抜けていく。


 ユニコーン自体は、魔法陣を警戒する素振りは無かったけれど、佐藤が邪魔をする。分断しない限りこの手は、使えそうにない。


「……次の次で、勝負を決める。何があっても僕を助けようとするな」


「それって、どういう」「話してる時間は無い、信じてくれ」


 ユニコーンが再度転回して、こちらに向かってくる。ここでの避け方を失敗したら、全てが台無しだ。狙うのは、今までよりもギリギリだ。


 小さく見えていたユニコーンの姿が、一気に元の大きさを取り戻していく、前足が今までの回避ラインに到達した……さらに1歩、もう1歩、次で確実に接触する。最後の一歩が踏み出されたのを目視した刹那、湖側へ向けて強く大地を蹴った。角を避ける事には、成功したが、完全に避けきる事は出来なかった。跳ね飛ばされた体が宙に浮く。


 視界がグルグル回っている。どうやら跳ね飛ばされた時に回転が掛かったみたいだ。回転する視界に、走り抜けるユニコーンが映り、それが視界から外れると、今度は湖面が目に映った。


 バシャッ! と音を立てて、着水した僕の体は、湖の底へと沈んでいった。


 ああ、地面に落ちなくて良かった……。




★★★★★★




「あらあら、もう一人脱落かしら? もう少し粘るかと思ったのだけれど、あっけないわね」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、レイヌが話しかけてくるけど、構ってる場合じゃない。


「りっちゃん! キミコは、彰悟くんを助けに行ってきます!」


 キーちゃんが、冷静さを失っている。気持ちは分かるけど……。これは、事故なの? わざとやっってるの? さっき、しょう君は、助けるなって言っていた……。


 全く、ちゃんと説明してくれてれば、こんな悩まずに済むのに! 終わったら説教してやる!


「……キーちゃん、しょう君を信じよう。大丈夫、きっと自分で上がってくる」


「でも、もし溺れてしまったら、どうするんですかぁ!」


「大丈夫だよ。暫く息が出来なくても、不死の体質があるから、簡単に死んだりしない。魔力が持続する限りは、生き続ける」


「わ、私が、助けに行きます!」


 次は、ニコルちゃんが、助けに向かおうとしているけど、それもダメだよ。


「ニコルちゃんは、サミナちゃんから離れないで! もし、魔獣で連れ去られたら、追い付けなくなる」


 しょう君は、次の次で勝負を決めると言っていた。それは、次の突進って事だよね。もう、走り抜けたユニコーンは、反転して、こちらに向かおうとしている。


「キーちゃん、反撃は考えなくていいから、回避に専念するよ! あたしが、前に出て囮になる」


 敵の向かう先は、あたしだ。ここまでは、思い通りに事が進んでいる。後は、キーちゃんに向けて、方向転換できない所まで、引き付けてから回避する。


 しょう君は、よく頑張っていたね。想像以上の威圧感を感じる。ガーディアンになりたてで、この威圧感に耐えて、極限まで引き付けるなんて、そうそうできる事じゃないよ。


 生まれ持った、膨大な魔力量と、あの精神力があれば、きっと一線級のガーディアンになれる。……もう少し、志が高ければだけど。


 なんにしても、ここを乗り越えなければ、先は無い。決めていた、回避開始ラインに、ユニコーンの前足が掛かった。飛ぶのは、槍を持った手と逆の方向。


 あたしも、ボケッと見ていたわけじゃない。飛び退いた直後に後方へ、シールドを展開。バシッ! と何かがシールドに衝突する音がした。やっぱり、魔弾を撃ってきたみたいだ。


 キーちゃんは! 振り返った先には、余裕を持って突進の進路から、退避する姿が見えた。よし、今回も無事に乗り切った……けど、特に何も起こらなかった……。


 やっぱり、しょう君が湖に飛ばされたのって、作戦の一環とかじゃなくて、たんなる事故だったの? だとしたら、未だ上がって来ないのは、マズイかもしれない。息が出来ない状態での生命維持は、湯水のごとく魔力を消費してしまう。


 戦いながら救出も視野に入れないと。キーちゃんに救出を頼んで、あたしが、一人で佐藤の相手をするのが、最善か……。


「キーちゃん! しょう君を」言いかけた時、湖の方から、バシャッと水音がした。そこには……。


「ゲホッ、ゲホッ! ああ、死ぬかと思った」


 湖の縁から、しょう君が這い上がって来るところだった。


「ちょっと、しょう君、大丈夫なの!? あんまり心配させないでよ!」


「彰悟くん! よかったですぅ。どらいもんに、なってしまうんじゃないかって心配したんですよぉ!」


「ドライもんって、干物の新しい名称か? 心配しなくても、溺れて干物になる事は無い……とか言ってる場合じゃないだろ!」


 君が言ったんでしょ! と突っ込んでやりたいところだけれど、しょう君の言う通り、既に佐藤は、こちらに進路を向けている。


 しょう君は、濡れた衣服を絞りながら、こちらへ走り寄ってくる。もしかして、すぐに復帰するつもりなの?


「いいから、少し休んでなさい」


「いや、休んでいる場合じゃない」


「じゃあ、さっき言ってた作戦みたいなのは、どうなったの?」


「悪い失敗した。次は正攻法で行く。先頭は任せてくれ」


 そう言うと、あたしの返事も待たずに、佐藤の居る方向へ歩き出した。


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