質問といつもの答え
ミリナと別れてから、再開までの流れを簡単にまとめると、佐藤宅の床を崩壊させて、レイヌの動きを封じた僕達3人は、ミリナと合流すべく、南門を目指した。強行突破する予定だったけれど、ミリナが上手く立ち回ったようで、素通りする事ができた。門番から、応援の言葉付きでだ。
しばらく進むと、森の奥から、連続して音が聞こえるとキミコが言った。ミリナが、魔獣と遭遇して、やむなく森に入った可能性がある。
音を頼りに、森の中を進んだ僕達の目に映ったのは、道を切り開くように切り倒された、大量の樹木。その道の延長線上から外れないように、ひたすら走り続けた。
途中の土が露出している場所には、やたらと大きな、蹄のような跡。方向に間違いが無いと確信した僕達はさらに、速度を上げた。そして、辿り着いた場所で見たのは、やたらと大きな馬の後ろ姿だった。
馬の向こう側から、魔法陣が飛んでくる。いや、魔法陣が勝手に移動するわけがない。多分ミリナが魔法陣の中心に居るはず。
強力な魔法を持っているのに、使っているのは、サークルマジック。その場で撃たずに、敵に向かって体を投げ出す。この二つから察するに、敵の外皮が異常に硬くて魔法が通らないとかだろう。
そう考えながら、僕は走っていた。だって、そうそう上手く行くわけがない。失敗する可能性の方が、どう考えたって高い。一か八かって、やつだったんだろう。
案の定、ミリナが魔法陣を重ねる事に失敗して、こちらに飛んでくる。右手で受け止めると「お兄さん! 頭!!」どうやら諦めていないみたいだ。そうか、それなら、付き合うのも、悪くない。
「当てろよ!!」通り過ぎざま、右手を下に、ミリナを頭部ギリギリまで近づけた。
「リリース!!」起動ワードに合わせて、発射された魔法が、頭部を貫いて、そのまま地面に衝突。そして、小規模な爆発を起こした。
白い馬……。角があるな、ユニコーン? その魔獣が、ドサリと音を立てて、倒れた。
「良かった! なんとか、間に合った! よくやったなミリナ!!」
思えば、ここに辿り着くまで、本当に気が気じゃ無かった。必死に走れども、一向に姿は見えず、しまいには、戦闘をしている可能性まで浮上。
……やっと、合流できた。ああ、道には姉妹の姿もある。よくやってくれた。本当に良くやってくれた!!
「お、お兄さん、興奮するのは勝手ですが……握りつぶさないで、くださいよ。今、わたし、かなり苦しい……です」
いけない! つい、手に力が入ってしまった! まあ、それだけ嬉しかったって事で勘弁してもらいたい。だが、素直に謝る僕じゃないのだ。
「大丈夫だ。万が一の時は、キミコがいる」
「それは、回復魔法の話ですか? それとも、スコップの話ですか?」
ミリナがジト目で問いかけてくる。
「……どちらかに限定する必要があるのか? 2段構えで、ケースバイケースだ」
「ほー、そうですか。――ニコルさん!! この人に、サミナさんを近付けない方が良いですよ。見た目22歳の女性よりも、10さ」
「待て! ちょっと待ってくれ! なぜ、ミリナがそれを知っている!? さっきのは、小粋なブラックジョークだ! 僕が悪かったから、変な噂を流すな!!」
「もちろん、フェアリーネットワークですよ。変な噂も何も、自分で言った事じゃないですか」
「深夜の外壁付近での話だぞ!? 凄すぎるだろフェアリーネットワーク! というか、そんな詰まらない情報は有るくせに、今回の事件の犯人は、特定できなかったとか、凄いわりに、役に立たないネットワークだな!」
「何を言っているのですか。役に立ちますよ。お兄さんを見かけたら子供を家から出さない。ほら、凶悪犯罪の防止に繋がるじゃないですか」
犯罪でも納得いかないのに、凶悪犯罪ってなんだ!!
「はい! 二人とも、そこまで!! ミーちゃん、心配しなくても、サミナちゃんは6歳で、しょう君のストライクゾーンから、ギリギリ外れてるから」
『そこまで』って、言った直後に、爆弾を投げつけるんじゃない! これが黙っていられるか!
「異議あり! それは」「黙って?」「や」「黙って?」「はい」
里緒菜の、笑顔が怖かったので、言い訳は後回しにしようと思う。
「りっちゃん、キミコは、もう自分で歩けますよぉ!」
そう言って、里緒菜の背から降りたキミコは、サミナ嬢の元に歩いて行く。
見た感じ、真っ青だった顔色には血の気が戻って、普段と変わらなくなった。強がってるわけじゃなさそうだ。
「あっ! キミコだ!!」「サミナちゃん! 元気でしたかぁ!」
二人は再開を喜び合っているようだし、とりあえず放っておこう。
「また、助けていただき、ありがとうございました」
ニコル嬢が、深々と頭を下げるけれど、僕にも責任があるからな。言わなきゃバレる事でもないけれど、自分的に、それは許せない。
「いや、礼は、必要ないよ。……僕は、最初に会った後、偽のガーディアンに、二人の行き先を話してしまった。――それが無ければ、二人は攫われなかった可能性もある。本当に、申し訳ない」
逆に頭を下げた、事実を知った日から、ずっと謝りたいと思っていたから。
「気にしないでください。笹塚さん? ですよね? その件は、不可抗力です。それに、こうして助けてくれました。改めて、お礼を言わせてください。ありがとうございました」
……そう言ってくれるなら、その言葉、ありがたく受け取っておこうと思う。
「ニコルちゃん。あたしは、里緒菜。よろしくね。――さあ、いつまでも、立ち止まっていられないから、歩きながら話そう」
すっかり気が抜けていたが、里緒菜の言う通りだ。あの後、レイヌと佐藤がどうなったか分からない。こちらに向かっている可能性も少なからず有るのだから、無駄にできる時間は無い。
移動を開始するにあたって、ミリナは僕のポケットに入れるとして、キミコは……自分で歩けるな。あとは、サミナ嬢だが、彼女は、なぜか靴を履いていない。誰かが背負うべきだな。
「サミナ……ちゃん」で、良いかな? 6歳児にさん付けもおかしいよな。かといって、神の妹を呼び捨てというのも、問題がある気がする。
「私の事は、ニコル、サミナの事も、呼び捨てで構いませんよ」
本人が良いって言うなら、問題無いだろう。
「じゃあ、サミナは、誰かが背負わないとダメだよな。もしよければ、僕がせ」
「しょう君以外なら誰でも良いと思うけど、とりあえず、あたしが背負うよ」
「まて、里緒菜! もしかして、さっきの話は、冗談では無かったのか!? みんな、本気で僕を危険人物と認識しているんじゃないよな!」
「さあ、行くよ! 皆、ついてきて!」
結局、疑問に答えてもらう事が、できないまま移動を開始した。
まあ、仮に、危険人物だと誤認されていても、僕の紳士的な態度を見ていれば、その過ちに気付く日が来るだろう。
最初は、駆け足で移動していたが、やはり、これまでの逃走や戦闘で、皆、疲労の色が濃い。徐々に速度を落とし、今では早歩き程度の速度で進んでいる。
「ねえ、ニコルちゃん。どうして攫われたか、心当たりはあるの?」
里緒菜が、ニコルに質問している。中々、興味深い質問だ。
「理由は、分かっているんですけど、私の口から話して良いものか、判断が付かないんです」
ニコルの表情が暗くなった。恐らく、助けに来た里緒菜に、隠し事をするのが、心苦しいんだろう。
神の親族なら、言えない事もあるだろうし、僕は悪く思ったりしないのにな。当然、里緒菜だってそうだろう。
「そっか。じゃあ、質問を変えるね。あいつらが、二人を諦める可能性は、あると思う?」
「私の事は、諦める可能性もありますが、サミナの事だけは、なんとしても捕らえようと、するはずです……」
「なるほどね。狙いは、サミナちゃんか。こんな小さい子を狙うなんて、本当に最低の連中だ!」
もし、人質として誘拐するなら、どちらでも良いはず。6歳児じゃなきゃダメな理由が、さっぱり思いつかない。なんにせよ、追ってきている可能性が高い事だけは、わかった。
「あと、もう一つ聞かせてね? あいつらの魔導兵器のシールド、あれの壊し方ってわかる?」
「……そ、それは、サミナだったら、分かるかもしれないです。私、機械とか苦手で……」
暗かった顔が、今度は赤くなった。どうやら、姉的には、恥ずかしい事なようだ。
「あら、サミナちゃんが分かるの? ちっちゃいのに凄いね!」
褒められたのが嬉しかったのか、サミナは、無邪気な笑みを浮かべながら、説明を始めた。
「うん! サミナわかるよ! ダレイスタンを使う兵器はね。凄く熱くなるから、大型の冷却装置がないと、すぐ壊れちゃうんだよ! だから、手で持つのは、殆ど作られてないんだ」
「じゃあ、連続でシールドを発動させ続ければ、勝手に壊れちゃうって事かな?」
「銃なら、撃つ時だけしか熱をもたないから、壊れにくいけど、剣とかシールドは、使ってる時は、ずっと熱いままだから、壊れやすいんだよ! きっと、10秒くらいで、壊れちゃうんじゃないかなぁ?」
10秒か、長いような、短いような。防御不要で、攻撃に専念できる相手に、10秒間、休むことなく攻撃を当て続けるのは、中々、難しい気がする。魔法陣をめり込ませて、発動させるより、少しはマシ程度か?
「あれ? でも、リアス鋼って、熱に強いんじゃなかったっけ?」
「えっとね、武器に入ってる、魔法因子を閉じ込めた核は、リアス鋼じゃないから、そこが熱で壊れちゃうんだよ! すぐダメになっちゃうんだよ!」
うむ、狙われている対象が、サミナである理由が、何となくわかった気がする。知識や技術的な面で、ニコルよりも価値があるのでは、ないだろうか?
さて、今の話を聞いた限り、突破口が見えた気がするぞ。思えば、全力で10秒は厳しいけれど、そうでないなら。
「それって、ドアをノックする程度の衝撃でも、長く続ければ壊れるって事か?」
「しょう君、多分それじゃ無理だと思う。これは、普通のシールド発生装置の話だけどね。あれって、2段階でシールドを張るんだよ。最初は、エネルギー消費の少ないシールドを張って、それが壊された瞬間に、2枚目を最大出力で、内側に張るの。そうしないと、あっという間に、カートリッジが空になるから」
「里緒菜の言う通りだよ! 強めの攻撃じゃないとダメだよ! 弱い攻撃だと、壊れないんじゃないかな? 多分壊れないよね? 熱くなりくいから!」
うーん、残念だ。全員で小石でも投げ続ければ、勝てるんじゃないかと思ったが、世の中そんなに甘くないらしい。
「そうか、手抜きは出来ないって事だな。――そういえば、ダレイスタンって何の事だ? 初めて聞く名前なんだが」
僕の質問を聞いたニコルが、神妙な面持ちで語りだそうとするのを遮り、里緒菜が口を開く。
「普通より強力なカートリッジかな? 武器が青に変色したら要注意! 説明できるのは、そこまでかな」
里緒菜が言わないと言ったら、絶対に話さないのは、もう分かっている。聞き出そうとした時の答えは、毎回同じで『アーちゃんに聞いて』これ以上は、聞くだけ無駄ってもんだ。