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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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地を蹴る足と最後の賭け

「それも、一つの手ですね。なんにしても、少し休んでください。せめて息が落ち着くまでは」



 ユニコーンは、木の間に、無理やり体を通そうと、試みているようですが、どう見たって通れません。知能は低いみたいですね。これなら、迂回するという考えに至らない可能性も、あるかもしれません。


「ミリナ、キミコは、まだ追い付いてこないのかな? 後から来るんだよね?」


 そう言う、サミナさんを見ると、薄い光の粒子が、擦り傷を負った、顔や腕に集まっています。やっぱり、便利ですね、不死の体は。それは、さておき、合流は……。


「ええ、その予定なのですが、メインルートから逸れてしまったので、合流できるか、どうか……」


 そのまま、ユニコーンを監視しつつ、疲れを癒します。木がミシミシと嫌な音をたてたりしますが、今の所、倒れた木は、ありません。それは、ありがたいのですが、出来る事なら諦めてくれると、もっと、ありがたいです。




「何分くらい経ったかな? ……諦めてくれないね」


 地べたに座りこんだまま、ニコルさんが呟きました。


「時計が無いので、正確な時間は分かりませんが、まだ5分くらいですかね?」


 肩の上に乗っていたら、急に角度が変わったので、慌てて襟を掴んで、転落を免れます。人乗歴15年の、わたしのスキルなら、この程度で転落なんてありえません。――それにしても、何事でしょう? 下を見るとサミナさんが、ニコルさんの腕を急に引っ張ったようです。


「ん? 馬の角が、光ってるよ? 光ってるよね?」「「え!?」」


 体感で5分近く、無駄な行動を繰り返すユニコーンに、危機感が薄れていたのようです。迂闊にも目を離してしまいました。


 サミナさんの言う通り、角が光を帯びています。これは、魔法攻撃の前兆? ならやる事は、一つです。


「ニコルさん、わたしを持ってユニコーンに向けてください。障壁を張って様子を見ます。と、言っても、躱せたら、躱してくださいね」


 障壁の大きさは、ニコルさんの全身を覆えるように、念のため3枚展開。半透明とはいえ、3枚も重ねると、さすがに、向こう側が見えにくいですね。


 間に合わない障壁に、存在価値はない。という考えで、ステージ3のクイックマジックを習得しているのですが、この障壁は、一瞬で展開できる反面、あまり硬くないので、かなり不安です。


 徐々に、角に宿る光が強くなっていき、直視を躊躇う明るさになった時「あはは……飛び道具じゃ……なかったみたいですね」ユニコーンが首を振り、角を木に叩きつけると、スパッと幹が切断されて、支えを失った木がゆっくりと倒れていきます。


「そうだね、飛び道具の方が、ましだったかもしれない」


 わたしもニコルさんと同意見です。飛び道具だったら、射程外まで、障壁を張りながら逃げれば良いだけですが、木を切り倒されるという事は、また逃走劇が始まるって事です。


「木を全部倒される前に、逃げた方が良いんじゃないかな? 逃げないとダメだよね?」


 全くです。ニコルさんは、サミナさんを背負うと、逃走を再開しました。木を切り倒す時間と、倒れた木を乗り越える時間、恐らくそれなりに距離は稼げるはずです。


「しかし、この執念深さは、何なんでしょうね? あの見た目で肉食獣なんですかね?」


「私は、この世界の事、あまり知らないから、なんとも」


 後方から、いななきが聞こえてきます。これは、かなり怒ってますね。馬になんて詳しくなくても、はっきりと感情が伝わってきます。


 逃げ出したまでは良いですが、最初の逃走の段階で、出鱈目に走り回ったせいで、すでに方向感覚は、なくなっており、神都の方向すら怪しくなっています。


 しばらく走り続けていると、急に木が無くなり、大きな道にぶつかりました。


「はぁ、はぁ……これって、最初に……歩いていた、道……かな?」


 恐らくニコルさんの言う通りです。この辺りに、大きな道は一本しかありません。


「ええ、間違いないですよ。景色から察するに」向かって、左に続く道を指さしながら「こっちですね。こちらに向かえば神都に近付くはずです」


「サミナ、道を歩いても大丈夫なのかな? また馬が追ってきたりしないかな? 森を歩いた方が、危険じゃない気がするよ!」


「森に逃げ込むのは、見つかってからでも遅くないですよ。道を行けば、里緒菜さん達と合流できる可能性も高くなりますから、このまま……早すぎますよ」


 わたし達が、森を抜けた場所と同じところから、ユニコーンがゆっくりとこちらへ向けて歩いてきます。


 ――――道に出ると、移動を止めて、こちらをジッと見つめています。このまま、どこかへ行ってくれると、助かるのですが、前足で、地面を蹴る動作が、変わらず敵意がある事を知らせてきます。


 再び逃げるか、いっそここで、勝負に出るか。――――ニコルさんの疲労の色が、かなり濃い。限界が来て動けなくなる前に、勝負をかけるしかなさそうです。わたし一人じゃ万に一つも勝ち目はないですから。


 魔封の枷を壊した時に使った、サークルマジックを描画。


「ニコルさん、わたしを、敵の頭目掛けて、全力で投げてください」


「そんな事したら……」


わたしの身を案じてくれているのでしょうが、もう決めました。


「やるしかないですよ。失敗したら、わたしに構わず逃げてください。敵が止まっている今がチャンスです。早く!!」


「死なないでね!!」


 ニコルさんが、右手に掴んだ私を、ユニコーン目掛けて、放り投げます。後は、魔法陣が敵の体内に入り込んだ瞬間に、発動させるのみ。


 軌道は……このまま行けば、頭のほんの少し上。いける、通り過ぎざまに、頭に重ねられる。


 近づいてくる頭部、串刺しだけは、勘弁ですよ! ……いや、串刺しの方がマシだった。


 ダメです。ユニコーンが、飛来するわたしを認識し、頭を下げてしまった。このままじゃ、重なる事無く、素通りしてしまう。


 真下に、ユニコーンの頭部が見える。一か八か、このまま発動させて、頭を撃ってみるべきか?


 いや、ダメです。この魔法は爆発する。爆風に巻き込まれたら、次のチャンスは、絶対に巡ってこない。でも、無傷で通り過ぎたとして、次に何が出来るのか……。


 撃つことができないまま、通り過ぎたわたしの体に、突如衝撃が走ります。投げ出された速度が、一瞬で0に、いえ0じゃない。マイナスです。投げられた方向へ戻っている。


 手だ。この手の感触には、覚えがあります。


「お兄さん! 頭!!」「当てろよ!!」


 飛び込みながら、わたしを右手でキャッチしたお兄さんが、ユニコーンを追い抜く瞬間、掴んだ右手を頭部すれすれにかざします。魔法陣が頭部に重なった瞬間。


「リリース!!」


 頭の内部で発動した魔法が、脳を破壊しながら突き進み、喉まで到達。そのまま貫通して、地面で赤い爆炎をあげました。


 どうやら、片面透過の障壁だったようです。内部で爆発させる事は、できませんでしたが。……ユニコーンが、ドサリと地面に倒れました。脳を破壊してしまえば、当然の結果です。


「良かった! なんとか、間に合った! よくやったなミリナ!!」


「お、お兄さん、興奮するのは勝手ですが……握り潰さないでくださいよ。今、わたし、かなり苦しい……です」


 そんなマヌケな死に方だけは、勘弁です。握力から解放されて、手のひらから辺りを見渡せば、こちらに走り寄ってくる里緒菜さんと、背負われたキミコさんの姿。その逆には、地べたに、へたり込む、ニコルさんの姿も。


 一時はどうなるかと思いましたが、全員無事で、ほっとしました……。そうだ、お兄さんには助けられてしまったし、菓子パンとジュースだけじゃ足りないですね……。帰るまでに、何か考えておきましょう。


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