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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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神の権威とシリアルナンバー


「二人を神様のところまで、連れて行くのが、わたし達の役目だから安心していいですよ。必ず送り届けてみせます」




 地上に向かう階段に差し掛かった時、上方から、爆発音が聞こえて、天井からパラパラと石材の欠片が落ちてきました。どうやら、戦闘の真っ最中みたいです。頼むから、死んだりしないでくださいよ。


 階段を上り切った、わたし達は、部屋の窓から脱出を果たしました。本当なら、このまま逃走するのが一番安全なのですが、今回は、このまま逃げるわけには、いきません。


 わたしを持ち上げてもらい、窓から屋内を確認すると、お兄さんと、同居人が話しています。位置的に、玄関ドアの横の窓なら、同居人に気付かれず合図を送れそうです。


 件の窓の下まで移動したら、ニコルさんの肩に乗って、窓から顔を出します。銀髪を見たら、お兄さんも脱出成功に気付くでしょう。


 ん、見えました。……こっち見ましたね。うん、大丈夫そうです。……うわぁ、お兄さんが、ニヒルな笑みを浮かべました。もしかして、気付いたという、合図のつもりなんでしょうか? うわぁ、うわぁー。 


 次に会った時に、似合わないから止めておけと、言ってあげましょう。厳しいようですが、それが、わたしなりの優しさなのです。


「フェアルさん、次は、どうすれば良いの?」


 そうでした! わたしとした事が! お兄さんの笑みに、かかずらっている場合じゃありません。


「南門に向かってください。そこから、神都アネルに向かいます」


「家の中の人って、フェアルさんの仲間なんだよね? 助けにいかなくていいの?」


 まずは、自分の身の安全を考えて欲しいところです。まあ、その考え方は嫌いじゃないですが。


「二人を安全な所まで連れて行った時点で、わたしたちの勝ちですから。それに、敵が二人だけとは限りません。できるだけ早く街を離れるべきです」


「わかったよ。そういえば、私達、武器を取られちゃったから、魔獣が出ても戦えないけど、大丈夫?」


 あれ? 神様が、冗談みたいな魔法使いだから、妹もそうなのかと思ったら、違うみたいですね。神界の仕組みは、さっぱりわかりません。


「大丈夫ですよ。魔獣は、わたしが何とかしますから」


 どうやら、ニコルさんは、身体強化のパッシブマジックを発動させているようで、中々の移動速度です。サミナさんを背負ったまま、道行く人をスイスイと躱して、南門に向かいます。


 これなら、追い付かれる心配は、ないかもしれないです。一歩間違うと、お兄さん達も追い付けない可能性があるのが、少々気がかりですが。




 辿り着いた南門で、兵士が両手を広げて、道を塞いでいるみたいです。まあ、門を蹴破らんばかりの勢いで、走ってくる人を止めるのは、当然の事かもしれませんね。


「フェアルさん、どうしよう? 躱して走り抜けた方が良い?」


 銀髪の姉妹を探すと言う命令は、恐らく兵士にも通達されているはずですよね。急ぎではありますが、下手に突破しようとして捕まるよりは、ましかもしれません。


「いえ、止まりましょう。わたしが話を付けますから。……いいですか、無表情を保ってください」


 変にオドオドされると、言葉に、信ぴょう性が無くなるので、くぎを刺しておきました。――――さて、大人しく止まった、わたし達に兵士が近付いてきます。


「君達、少し話を聞かせてもらいたいんだが、詰所まで来てもらえないだろうか」


 わりと丁寧な、対応ですね。神様の妹だという情報は、知らないでしょうけれど、銀髪というだけで、特別な存在だと察しているのでしょう。


「兵士さん。わたし達は、急いでいるので通してもらえませんか? こちらの、お二方の髪の色を見れば、分かりますよね?」


 おっ! 兵士の顔が紅潮してますね。これは、いけそうです。


「も、もしや、アネル様の……」


「ええ、その通りです。神様の血縁者は? 言うまでもないですよね」


「は、はい! アネル様の血縁者であれば、当然、御二方も神様に、他なりません」


 ビシッと敬礼して、そう述べる兵士。これは、中々気分が良いですね。こんな時じゃなければ、街中を巡って、神の権威をブンブン振りかざす遊びを、したいところですが、今は、それどころじゃありません。次の機会にしておきましょう。


「それでは、これは神命です! 指名手配中の、笹塚 彰悟、増渕 里緒菜、キミコ リラームの3名は無実です。ここに来た時は、止める事無く、通してください。――――それと、この街の専属ガーディアンだった佐藤。彼は、神の妹御を攫った重罪人です。この事を、急ぎ伝達してください」


 本当は、神命というか、妖命なのですが、緊急事態なので、バレても怒られないでしょう。


「ハッ! 畏まりました!! ……あ、あの、もし宜しければ、サインを……」


「今は、急ぎなので、次に来た時に、サイン会を開くと約束しましょう。よろしいですよね? ニコル様」


「えっ? え、ええ。わ、分かりました。サイン……サイン会? します。させてもらいます」


 滅茶苦茶、困惑してますね。神界では、サイン会とかしてないんでしょうか? はっ! その手がありました! 


 門を抜けるのに、少々時間をロスしましたが、得た物の方が大きかった気がするので、良しとしますか。


 街を出てからは、走る速度を、落としてもらいました。まあ、それでも、普通の人の全力疾走くらいのスピードですが。あの三人なら、十分に追いつけるはずです。


 魔獣に遭遇したら、わたしが何とかするとは、言いましたが、やはり戦闘要員が、多いに越したことは、ないです。


「ニコルお姉ちゃん。サミナは、神なの? 神様なの?」


「はぁ……違うからね、サミナ。我が家の神は、アネル姉さんだけで間に合ってる……いえ、持て余してるから。自分が神だとか、言って回ったりしないでね。お願いよ」


 走りながら会話する、姉妹が話してるのが聞こえてきました。まだ、体力に余裕があるみたいですね。暫く休みなしでも、問題なさそうです。――それにしても、会話の内容が、すこし引っ掛かります。


「違うんですか? わたしは、神様の血族は、全員神様だと思っていたんですが」


「姉さんの都合もあるだろうから、私からは、詳しく説明出来ないけど、人として扱ってくれた方が嬉しいかも」


 わたしも失念していて、ずっと『さん』付けで、呼んでいたし、その方が助かります。


「そうですか、ところで、お願いがあるのですが」


 安全なうちに、これだけは言っておかなくては、なりません。ここで、言質を取るのです。


「お願い? 助けてもらったし、私にできる事なら」


「後で、サインを2枚ずつ書いて欲しいんですよ。シリアルナンバーをNOー1、NOー2と入れて」


「えっ! 私のサインなんて、何の価値もないよ!? そんな事で良いの?」


「サミナは、書いても良いよ! 書きたいよ!」


 よし、まずは2枚ゲットです。


「御自身を安く見積もりすぎですよ。アネル様の妹御が書いたサイン。それもシリアルナンバー1ですよ! これは、高く売れますよ。下手をしたら、報奨金より高い可能性まで有ります」


「自分のサインが闇で売買されるのは、複雑な心境だけど、フェアルさんには、感謝しているから、その位なら引き受けるよ」


 残り2枚もゲットです! 言質を取りました!! うふふ、これで夢に一歩近づきます。とはいえ、全部売るような、失礼な真似をしたりはしません。


「ありがとうございます。NO-2は、自分用に保存して、NOー1の方をオークションにかけさせて、もらいますね」


「そっか、NOー1を売るんだね。なお、複雑な心境だよ」


「こういうのは、気持ちが大切なんですよ。シリアルナンバーによる優劣など存在しません」


「……フェアルさんが言うと、全く説得力がないよ!」


「ねえ、ミリナ! サミナが書いたサインも、高く売れるのかな? 高値が付くのかな?」


 サミナさんが、質問を投げかけてきます。その辺は、あまり考えていなかったですね。うーん、サミナさんと、ニコルさんのサインの価値ですか。……いや、考えるまでも無い事柄でした。


「もちろんですよ。むしろ、サミナさんの方が、高く売れるんじゃないですかね。サミナさんのような女性を好むタイプの男性は、お金に糸目を付けない傾向があります」


 妖精好きの男性にも同じ傾向があります。わたしは、絶対に近寄りませんが。


 話を聞いた、サミナさんは、キャキャと喜んでいますが。どうも、ニコルさんが浮かない表情ですね。


「はぁ……この上ないほど、複雑な心境だよ」


 溜息交じりに呟いてます。ここは、ひとつ、励ましておきますか。


「気にする事ないですよ、ニコルさん。神様のサインなんて、数が多すぎて、希少価値が皆無なので、売り物になりませんよ。二束三文です」


「ごめん、前言撤回、更に上の複雑な心境が、存在したみたい」


 どうやら、逆効果だったようです。何が悪かったのでしょう?


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