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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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小さな的と村一番

 里緒菜が左側、僕が右側と挟み込むように、立ち位置を移動する。里緒菜が一歩踏み出したのを視認した直後、レイヌとの間合いを一気に詰める。


 詰め寄る最中、銃身が再び青く輝いた。今度は横には躱さない。


 身を低くして前転しながら、回避と接近を試みる。回転する視界に、撃ちだされた魔弾が過った。――その後、右足に焼き付くような痛みが走る。


 クソッ! 躱しきれなかった。――――だが、これで良い。僕が届かなくったって、里緒菜の刃が届く。


 里緒菜が、後ろに溜めたレイピアを、視認が難しいほどの速度で、突きだす。その剣線は、寸分違わずレイヌの心臓に向けられている。


 発砲した直後のレイヌに、襲い来るレイピアを躱す術など無い。心臓に向かう剣先が、接触する刹那、ギュイィィィィンと、金属が震える音。レイピアが体に刺さる直前、あと1センチという所で、止まっている。


 レイピアを防いだレイヌが、高速で反転して、銃身を里緒菜の顔に打ち付けた。――――今度は、僕が後ろを取った。前転から立ち上がった勢いを殺さずに、上段に構えた剣に全体重を乗せて、振り下ろす。


 レイヌの右肩に向けて光の弧を描いた刀身が、接触する直前で固いものに阻まれてしまう。


 里緒菜の時と、全く同じだ。障壁なのか? 僕の知っている限り、障壁は全て平面だ。体を薄く取り巻くような障壁なんて、聞いた事が無い。


「どう? 凄いでしょう。銃とシールド発生装置を兼ね備えた、魔導兵器よ。貴方たち程度の攻撃じゃ、絶対に破る事は、できないわ」




 ……まいったな、詰み寸前じゃないか。平面のシールドなら、後ろから斬ればいいだけだが、全身を覆われていたら、どうしようもない。全力の斬撃で破壊できなかった障壁を、どうやったら破壊できるというのか。


 地下のシールド発生装置を壊した時と同じ方法、あれなら突破できるけれど……。


 その位の事、相手だって分かっているはずだ。問題は、どうやって、魔法陣をレイヌに重ねるか……いや、違う。レイヌに重ねるだけじゃ駄目だ。重ねるのは、魔導兵器、もしくは、頭部のどちらか。


 一気に標的が小さくなって、同時に希望も小さくなった。


 里緒菜を見ると、銃身で殴られたダメージは、大した事が無かったようで、すでに立ち上がり、戦闘態勢を維持している。


 作戦会議を開きたいところだけれど、相手が許してくれないな……。


「ああ、驚いたよ。それが動いているうちはお手上げだな。でも、そのカートリッジが尽きるまで、生き延びたら僕達の勝ちって事だろ?」


 まあ、できるとは思ってないが。どうせ予備のカートリッジもあるだろうし。


「じゃあ、試してみれば?」


「そうだな、試してみるのも、悪くないな」




 そうして、始まった終わりの見えない戦い。標的が里緒菜に移らないように、挑発を織り交ぜながら、ひたすら躱し続ける。


 里緒菜は敵の真後ろに位置取り、隙あらば剣を叩き込みシールドを発動させてカートリッジの残量を削っていく。


 敵の発射間隔は、おおよそ5秒に1発。躱す分には有り難いが、カートリッジ切れを狙うとすれば、気が遠くなる。


 必死に躱し続けるが、敵もこちらの動きに慣れてくる。幾度となく、四肢を撃ち抜かれた。それでも体幹と頭部への直撃だけは、何とか免れている。


 里緒菜も一度、肩を撃ち抜かれたが、その時の再生速度が、肝を冷やす程に遅かった。数発着弾すれば、再生不能に陥りかねない状況だ。


 唯一、幸いだと言えるのは、キミコがレイヌの眼中に無かった事か。


 キミコは、里緒菜の言いつけを守って、流れ弾に当たらない位置取りをキープしながら、こちらを窺い続けている。


 どれくらいの時間が、経過した時だっただろうか。体感的には20分くらい? いや、佐藤が未だ気を失っている辺りから考えると、10分も経っていないのかもしれない。


 そんな頃合いに、状況が動いた。いや、動かさざるを得なくなった。


 里緒菜の左肩に、魔弾が着弾してしまった。これ以上、被弾させるわけには、いかない。左手を、レイヌに虚空にかざし、爆発系魔法、ランドマインの魔法陣を描画する。


「レイヌ! 行くぞ、これを当てて終わらせてやる!!」


「はっ! 見え見えじゃない? できると思っているの? まあ、無理だと思うけど、頑張ってみなさい」


 これで、標的は僕に絞られるだろう。早速、銃口が僕を捉えた。発射される瞬間を狙い、里緒菜の方へ一気に飛びのく。


「里緒菜、頼むぞ」「ええ、間違っても当たっちゃダメだよ」


 短い会話を済ませた僕は、魔法陣を引き連れ、レイヌに向かって全力で走る。前回の発砲から既に5秒は経っているから、いつ次弾が発射されてもおかしくない。


 意識が加速して、体感速度が一気に低速になっていく。レイヌの指が、トリガーに掛かった。その指が徐々に曲がり始める。今回も前転で回避して距離を詰める。


 回転を始める視界に、最初に映ったのは、逆さまの里緒菜の姿、レイピアの先を水平に向けて構えている。視界から外れる瞬間、水平だったレイピアを地面に向けるのが確認できた。


 次に映るのは、レイヌの姿、一度見せた前転回避だが、それ以降は一回も使っていなかった。どうやら不意を衝く事に成功したようだ。銃口が僕からズレている。これなら、当たる事は無い。と思う。


 再び地に足が付いた時には、すでに魔弾は床を穿っていた。魔法陣を重ねるべく、さらに前進するが、それを回避するために、レイヌは体を捻り、銃を後方へ遠ざけようとしている。


 ――その動きから、たとえ体に当たっても、絶対に魔導兵器だけは破壊させないという意思が伝わってくる。


 だが、それがどうした! こんな不完全な状態で、魔導兵器を壊せるなんて、こっちも思っちゃいない!


「リリース!!」起動ワードを受け取った魔法陣が、閃光を放ちながら爆発する。衝撃で床が粉砕され、巻き上がった塵が、視界を奪っていく。


 気付けば宙に浮いていた。逃げるまでも無く、爆発の衝撃で、後方へ飛ばされていく。床への衝突を覚悟していたが、僕の体は、柔らかい物に受け止められた。


 塵が落ち着き、視界が開けた先に見えたのは……、無傷のレイヌ「笹塚、残念だったわね。狙いなんて、最初からお見通しよ」そして、その後方に立つキミコの姿。


 キミコは、両手をレイヌの足元に向けて「リル・フェルダ・レイ!!」魔法名の発声に合わせて、ミリナが使った魔法に比べて、数倍の大きさの光の帯が、不規則な角度で撃ちだされる。


 その数は、数える事を放棄したくなる程だ。それら全てが、弧を描き一点に集中する。その場所は、レイヌの足元。


「くっ、ア、アンタ達! なにを!!!!」


 目の前に雷が落ちたような轟音を響かせて、床が崩壊する。この真下は、地下牢が有った部分だ。崩れた床と一緒に、レイヌが地下へと沈んでいく。


「里緒菜、キミコを背負ってくれ。僕は、爆発で手をやられたけど、足は無事だから自分で走れる」


「ええ、任せて。佐藤は?」「無視しよう。逃げる方が大事だ」


 里緒菜がキミコに向かって駆けていく。自分の両手を見ると、肘から下が血塗れだ。再生するまで1分ってとこか? 今でこそ、耐えられるけれど、最初の頃なら、痛みで動けなくなっているところだ。


 キミコを背負った里緒菜と一緒に、佐藤の屋敷を飛び出した。


 塀の外には、戦闘の気配を察した人々が、集まりはじめていた。呼び止められると面倒だ。野次馬ごと塀を飛び越え、そのまま駆け抜けた。




 それにしても、キミコの顔色が真っ青だ。魔法を使うと、体調が悪化するというのは、聞いていたけれど、予想を超えている。早くどこかで休ませないと。


「キミコ、大丈夫か? 本当にありがとうな。僕と里緒菜だけじゃ逃げる事すら叶わなかったよ」


 村一番は伊達じゃ無かった。恐らく、キミコが使ったのは、ミリナが使用した魔法の強化版だ。


「気にしなくて、いいんですよぉ。みんなの役に立てて、キミコは嬉しいですぅ」


 顔色が悪いのは相変わらずだが、本当に嬉しそうな笑顔で言う。


「よくやったね、キーちゃん。でも、まだ終わってない。もう少しだけ頑張ってね」


「大丈夫ですよぉ。少し経てば、また動けるようになりますからぁ」


 里緒菜の言う通りだ、まだ終わったわけじゃない。次の行動に移らないと。


「次は南門に向かう、これで間違いないな?」


「ええ、あってるよ。敵が動き出す前に、向かいましょう」


 そういえば、聞いておきたい事があったんだ。戦闘中は落ち着いて話す時間が無かったけれど、今なら話す、ゆとりがある。


「なあ、里緒菜。カートリッジ式の魔導兵器って、僕達が使う物の劣化版だと思ってたんだが、あれは、劣化版なんかじゃないよな? むしろ、向こうの方が上に感じる」


「それに関しては、あたしも同意見。あの障壁を破壊する方法を見つけないと、かなり厳しい戦いになるね。逆に、あれさえなければ、苦戦するような相手じゃない」

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