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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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どうしてそうなった……

 姉さんが旅立ったのが、AM8:00、私とサミナも、徹夜で作業を手伝っていたので、寝ていないに等しい。


 せめて、サミナだけでも寝かせようとしたんだけれど、一緒に寝たいと、せがまれてしまい、気が付けば私まで眠っていた。


 起きたのはPM17:50。不覚にも、10時間近く眠ってしまうという大失態だ。


 まだ寝ていたサミナを起こした私は、一緒に研究室に向かっている


 モニターをOFFにしてから、ちょうど10時間、向こうでは416年近く経過したはず。


 暗算は苦手なので、ちょっと自信が無いけれど……多分合ってると思う。


 モニターを入れた時に見える表情は、どんなだろう。何も変わっていないでくれると嬉しいな。




 不真面目というか、思い付きだけで生きているというか、普段は、どうにも頼りない姉だけれど、やりたい事、やるべき事を見つけた時は、まるで別人になる。


 昨日旅立つ時のあの顔は、いつになく真剣で「二日で帰るよ。必ず帰るから、少しだけ待ってて」短いけれど、とても力強い別れの言葉が、今の姉さんなら大丈夫と信じさせてくれる。


「ニコルお姉ちゃん、アネル姉様、今頃どうしてるかな? お姉様は、ダークヒーロ気質なところがあるから、全ての罪と憎しみを背負った後に、わざと討たれて、平和な世界を作ったりしてると思うんだぁ。お姉様かっこいいね」


 いったい、この子は何を言ってるんだろう……とりあえず、それ姉さん死んじゃってるから。頭痛くなってきた、話題をかえよう。


「ははは、そうかー、そうだといいね! ところでサミナ、前から気になってたんだけど、なんでアネル姉さんは『姉様』で、私は『お姉ちゃん』なの?」


「ん? ――格?」


 うん、聞かなきゃよかった。2文字の罵倒の言葉は数多あれども、ここまで鋭い刃を持つ2文字は、今まで聞いた試しがなかった。そっかー格かぁ。格なら仕方ないね。


 トボトボ歩いていると、すぐに研究室に着いた。


「サミナ、電源いれてくれる?」


 姉さんがよく言っている、姉の矜持というものを、身をもって理解できた。妹に電源の入れ方が解らないから教えてとは、恥ずかしくて中々言い出しにくい。


 格下の姉にだってプライドはある。


「うん、わかったぁ」


『パチッパチッパチッパチッ』 トグルスイッチを弾く軽快なリズムに合わせて、鼓動のリズムも高鳴ってくる。


 それにしても、このトグルスイッチ、姉と妹的には趣が有って良い。という事なのだけれど、私にはイマイチ理解できない。


 手をかざすだけの生体認証の方が楽だし、セキュリティーも上だし、何より迷わず操作できて私に優しい、非の打ちどころが無いよね。


 こんな骨董品は、こっちじゃ売ってないから、多分地球で買ってきたんだと思う。


 財布を預かる身としては、本当に勘弁してもらいたい。地球のお金は、とりわけ貴重なのだから。




 特に姉の無駄遣いは、酷い。この間も――――




「ちょ、ニコル、コンビニ行くから1万円ちょうだい? 超特急」


 ああ、また始まった。貰えるのが当たり前だと言わんばかりの態度に腹が立つ。


「無理。もう無いから、円。大体、姉さんコンビニ行くのに一万円っておかしいから!」


「無いわけないし、こないだ純金を換金してきたの私だし。あの額がもうないとか……えっ! もしかして横領? 横領なのニコル!?」


 ぐぬぬぬぬ……。


「わかった、何に使うか説明して? もし、私を納得させる事が出来たら渡す……かもしれない」


「いま地球はクリスマスじゃない? アレはクリスマス限定で、今しか手に入らないの。それはもう、酷い壊れ性能でね? これを持ってないと人権がなくなるのよ。ねえニコル、解るでしょ? お姉ちゃんが人間でいられるか、家畜になりさがるかの分水嶺なの!」


 所々、自分に都合の悪い言葉が省略されてるよね。何に使う気かは、全く分からなかったけど、無駄遣いという事だけは伝わった。


「うん無理。姉さんが家畜として出荷されるときは、ちゃんと見送りに行くから。それで我慢して」


「そんなー。じゃ、じゃあ分かった! 一万と百円ちょうだい? そしたら、ニコルの好きなの、お土産に買ってくるから。ほらあの、人を撲殺できそうな硬さのアイス! あれ好きだったでしょ? あれ買ってくるから!」


 いや、百円増えてるんですが、それは。……なんで、そんなに必死なの?


「もう……わかったよ。今回だけだからね。あと、モチに包まったアイス、あれにして」


 一万と三百円を渡したら、嬉々として出かけっていった姉さん。


 二つ返事で許可したりしない。それをアピールできただけで、今回は良しとしよう。


「あ、バニラにしてって言い忘れた」


 その日の夜、すれ違った姉さんは能面のような顔をしていたけど、人権は手に入ったのだろうか? ――――




 ほんと、あまりに性格や価値観が違いすぎて、時々、実は本当の姉妹ではないのでは? なんて、子供じみた妄想してしまう。


 姉さんに「ニコルは、隣町にあるピコル商店へ、お塩を買いに行ったときに、裾物のコーナーで売ってるの見つけて連れてきた子なんだよ。名前は商店の名前に、ちなんで付けたの」


 なんて言われて、泣かされた事もあったけ。あれを信じちゃうとは我ながら純粋だった。




「起動終わったよー! 早く見ようよ。楽しみだね! 楽しみだよ!」


 サミナのアネル姉さんに対する信頼は、とうに限界を突破して、信仰の域に達してるから、何一つ心配なんてしてないんだろうな。




 アネル姉さんの居る場所には黄色のマーカーが点滅する設定になっている。


 本人が拒否しない限り、超小型ドローンも追尾しているはずだから探すのは、難しくない。操作するのが私でもだ。


 黄色のマーカーは直ぐ見つかったけど……他の色のマーカーの位置がおかしい。


 3種族に設定していたはずの赤、緑、青に囲まれている。この3色は倒すべき相手、もしかして、追い詰められている!?


 この画像を出力した瞬間に危機に陥っていたら、もうそれから何時間? いや違う、何ヵ月経過した…今する事は画像の再取得? それも違う! いやまだ何かあったと決まったわけじゃ




「ニコルお姉ちゃん大丈夫? 顔が真っ青だよ」


 落ち着け自分、私が動揺したらサミナまで不安にさせてしまう。


 今は、私しか居ないんだ。大きく息を吸え、ゆっくり吐き出せ。


「サミナ、色の確認。黄『姉様!』赤『狼!』緑『狐!』青『小人!』……ありがとう。さっきは、ちょっと立ち眩みがしただけだから心配いらないよ」


 残念ながら間違っていないみたい。でも少し落ち着いた。


 冷静になれば、やる事なんて一つしかないよね。まずは最初に出力した画像を確認しないと。


 黄色のマーカーを中心に沿えて、拡大――大きな城? いや神殿か、囲んで石造りの建物が碁盤の目のように並んでる。


 もう少し大きく――あの3種族だ、町中を普通に歩いてる。武装している気配もないし、どこかで争っているような気配もない。


 何か身なりが良くなってる。正直見違えた。 


 拡大してる時に中心がずれた、姉さんはもっと北、その場所は神殿だ、神殿にマーカーが灯ってる。北へスライドさせて……。


 えっ! こ、これは……。




「ねえ、サミナ、私この看板の字読めないんだけど、多分、地球の文字の気がするんだよね。ちょっと読んでみてくれる?」


「わかったぁ、んーとねぇ『アームラ教アネル大聖堂』て書いてるね。書いてあるよ?」


 なんかモニター叩き割りたくなってきた。


 あっ石像がある。うん、そっくりだ。


 この神殿のバルコニーで、ギラギラした装飾品で身を固めて、尊大に構えて、下々の者達に手を振っているのは、うん間違いない。


「ほらサミナ、見てごらん、お姉ちゃん神になったみたいよ。あははははは……はぁ」


 あっという間に、旅立ってしまったので、詳しい計画なんて聞くことは、できなかったれど、だけど、今の状態は違うでしょ? そっちを繁栄させちゃダメだよね?




 サミナは、眼を真ん丸に見開いてモニターを眺めた後、両手を血の気が引くほど強く握りしめて、雄叫びを上げながら飛び跳ねてる。


「うおおぉぉぉ! 凄いね! 凄いよ! 凄すぎるよ! 今日からアネル姉様じゃなくて、アネル神様だね? ね?」




 やっぱり私は、他の姉妹とは価値観が致命的に違うらしい。


 引き続き状況の確認や、父さんへの連絡、色々やる事はあるけれど、まず手始めに、ピコル商店を人身売買で通報しようと思う。


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