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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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再生速度と勝機

 僕と里緒菜、キミコ、ミリナの4人は、突如牢獄に現れた、佐藤と、その同居人の女に随分なご挨拶を頂いた所だ。


 死んだはずの女が、顔をしかめながら、続けて話す。


「あんまりジロジロ見ないで欲しいわね。どうせ『死んだはずなのに』とか思ってるんでしょう? ――――不死の秘術は、ガーディアンだけの物じゃないって事よ」


 わざわざ説明してくれたが、そんな事は、言われなくても分かっている。ガーディアンでない女が不死なのだから、佐藤も不死だと思っておいた方が良さそうだ。


「なるほどな、最初に会った時に言っていた『時間を稼げれば死んでも良い』ってのは、自爆攻撃の不自然さを消すための、ブラフだったって事か」


 何か意味がありそうだと、思ってはいたが、それは予想外だった。


 大体、芝居が細かすぎるんだよ。部屋に有ったカートリッジ式の魔法兵器、あれも人間種だと偽装する為の小道具って事だろう?


 わざわざ不便なカートリッジ式なんて使わなくったって、ガーディアン用の魔法兵器を使えるはずなのだから。


「気付くのが遅すぎたわね。お陰様で、ゆっくりと準備させてもらったわ」


 そう言う女の手には、僕が外に放った魔法剣が握られている。……あれ? それ小道具じゃ無いの?


 腕には、里緒菜が言っていた通り、円筒状の機械が取り付けられているし、使う気みたいだな。――――魔力の節約か?


 ついさっき、全損した直後だから、その可能性が高いか。


「ねえ、佐藤と……」


「レイヌよ」里緒菜の間の意味を悟った女が、いかにもダルそうに名前を告げた。


「佐藤とレイヌに提案があるんだけど、聞いてくれる?」


 里緒菜が、握っていたレイピアを鞘に戻して、攻撃の意志がない事を、相手に見せながら言った。一体、何を提案する気だ?


「言ってみろ」佐藤は、聞く気があるようだ。里緒菜のように剣から手を離したりは、しないが。


「貴方たちも、姉妹に生きていて貰わなきゃ困るんでしょ? それは、あたし達も同じよ。二人を戦闘に巻き込まないように、上に行って決着を付けない?」


 レイヌと佐藤は、顔を見合わせて、少し思案する様子を見せたが「いいだろう」「私も構わないわ」答えは肯定だった。


 地上に上る階段に向かって歩く、佐藤とレイヌの後に続いて、僕と里緒菜、キミコの三人も階段を目指す。


「しょう君、姉妹の存在を発見した今なら、戦闘に気付いた人が、集まって来ても問題ない。地下室を崩落させない事、付近の住民を巻き込まない事、この二つだけ気を付ければ、何をやってもいいからね」        


 小声で囁く里緒菜に、首肯で応じる。


「キーちゃんは、戦闘になったらサポートに徹して。攻撃はしなくていいからね。もしキーちゃんの力が必要になったら合図する。その時は、頼んだよ」


 キミコも里緒菜の言葉に頷いている。


 里緒菜が言った通り、姉妹を発見した時点で、こちらの方が有利なのは間違いない。


 佐藤達だって、それに気付かないほど愚かでは無いだろう。


 すんなりと里緒菜の提案を受けたのは何故か? 僕達を瞬殺できる自信があるのか? それとも他に策があるのか……。


 その考えが、まとまる事は無かった。この難問を解くのに、地上部までの道のりは、あまりに短かった。


 玄関ホールに辿り着いた佐藤は、剣を構え、その切っ先を僕に向けながら言い放つ。


「警告しておくが、もし故意的に人を呼び寄せるような行動をとった場合は、住宅街に向けて魔法を放つ。――――この辺りは、人口密度が高い。どうなるかは、分かるな?」


 お前もか!『分かるな?』とか言うんじゃない! 分からなかったら、お互いに気まずくなるだろうが。


 まあ、お陰で疑問は解けたが。姉妹の代わりに、街の住民を人質にとるって事か。


 ――試しはしないが、どうせこけおどしだ。住民に手を出した時点で、佐藤は、この街には居られなくなる。しかも、姉妹を連れて街を脱出しなければ、ならないという、オマケ付きだ。


 里緒菜が手に持ったレイピアで虚空を斬り、風切り音を鳴らして注意を引く。佐藤とレイヌが、刺すような視線を向けてきたのを確認した後、啖呵を切った。


「わかったから、さっさと始めましょう。これから、アネル神国まで、姉妹を連れて行かなきゃいけないんだから。無駄にできる時間は、ないの。――まあ、どれだけ暇でも、貴方たちとの会話なんて、不毛な行為は、御免被るけど」


 里緒菜さん、もしかして煽っているのですか? 時間を稼ぐだけで良いと思っていたのに、そんな事したら、怒涛の勢いで襲い掛かってきそうじゃないですか……。


 はぁ、仕方ない覚悟を決めるか。配置的に僕の相手が佐藤で、里緒菜の相手がレイヌだ。


「何の心配も要らない。お前たちは、この敷地からでる事すら出来ないんだからな! いくぞっ!!」


 佐藤の言葉が開始の合図になった。佐藤が剣を振りかぶり、こちらへ向かってくる。


 結局、僕は対人戦の訓練を受けていない。魔獣を相手にするのとは緊張感が桁違いだ。手に滲む汗で剣が滑らないように気を付けないと。


 佐藤の武器は、僕と同じグラディウス型、間合いの優劣は無い。身体能力だって、大きな差は、ないはずだ。


 上段から振り下ろされる鋭い斬撃。魔法で光る刀身が、虚空に光の弧を描く。この斬撃が当たれば、きっと鉄でも切り裂かれる。


 受ける事が出来るのは、同じ魔力を通した剣のみだ。


 振り下ろされる軌道に、ギリギリで剣を滑り込ませた。体重が乗った斬撃を下から受け止めるのは、予想より遥かにキツかった。耳をつんざく金属音を放ちながら、なんとか受け止める事に成功したが、そのままジリジリと僕の肩に迫ってくる。


「笹塚、お前の死を、無駄にはしないと、約束しよう。」


「ふざけんな……。そういう……事は……、勝ってから言えぇぇ!!」


 僕は、刀身を90度回転させて、左手を、自らの剣の腹に押し当てた。――全身のバネを使って、振り下ろされる剣を一気に跳ね上げた。


「くそっ!」佐藤が、押し戻された勢いで、バランスを崩している。この好機を見送って、更なる好機を待つ。そんな選択肢は存在しない。


「うおおおおおおおおお!!」


 懐に飛び込み、無我夢中で剣を振るう。体勢を崩してもなお、剣を受け止め続ける佐藤だが、その顔色に余裕がない。なら、当たるまで振り続けるだけだ!


 佐藤は防戦に徹しながら、徐々に崩れた姿勢を立て直していく。


 だが、引く必要は無い。ここまでの戦いで分かった事がある。佐藤は決して強くない。太刀筋が単調で、素人同然の僕でも、予測ができてしまう。


 ガーディアンに成りたてって言うのも、まんざら嘘では、ないようだ。


 そこからは苛烈な斬り合いだった。飛び散る火花と、血しぶき。僕と佐藤の体に、切り傷が絶え間なく刻まれていく。刻まれては再生して、またすぐに刻まれる。


 こうなってしまえば、一撃で行動不能に陥るような、攻撃さえ食らわなければ、恐らく勝てる。


 僕は今日、殆ど魔法を使っていない。どころか戦闘自体していないのだ。した事と言えば、ムカデを一匹倒した後に、遺骸を片手に走り回った程度だ。


 佐藤はどうだ? 早々にムカデの群れを片付けるために、それなりに無理をしているはず。どちらが先に限界を迎えて、再生が止まるだろうか? 


 その答えは、佐藤の傷が物語っていた。傷が治る時、流れた血液は光の粒子となって体に戻る。だが、佐藤の着衣は、あちこちに血を滲ませ、肌にべっとりと張り付いて見える。既に再生が追い付いていない。ならば、更に押し込むのみ。


 互いに剣を振りかぶろうとした刹那、キィンと、一際甲高い金属音が鼓膜を震わせた。


 集中しすぎて、意識から抜け落ちていたが、里緒菜とレイヌの戦いに、動きがあったのかもしれない。佐藤の視線が一瞬そちらへ動く。


 僕は、振り向きはしない。里緒菜なら大丈夫だ。もし何かあってもキミコが居る。


 ロビーの床を、蹴り破る勢いで踏み込み、左から横薙ぎに振り抜く。――剣先が佐藤の右腕を捉えた。直後、硬い物をかすめた感触が伝わってくる。


 ――――間違いない、骨を掠めた。今なら剣を持つ手に力が入りにくいはず。再生する前に、決着をつける。


「これで、終わりだあぁぁぁ!!」


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