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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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生体認証と起きない二人

「使命を果たす為なら、命なんて惜しくないわよ。この爆発に巻き込まれれば、アンタ達でも暫く動けないでしょう? 少しでも時間が稼げれば本望だわ」




 すでに、バッグの中の球体は光を放ち始めている。僕と里緒菜は、最悪巻き込まれてもいい。でもミリナはダメだ! 間に合うか!


 後ろを振り返った僕は、胸ポケットに手を入れてミリナを掴み、キミコに向かって放り投げる。頑丈なミリナの事だから、もしキミコがキャッチし損ねても怪我はしないだろう。


 再度、女の方を振り返った時、里緒菜がレイピアに刺さった女を、前蹴りで後ろに突き放したところだった。


 女を縫い留めていたレイピアが抜けた瞬間、左手を女に向けて突き出し「エクリプス!!」倒された女に向けて放たれた魔法が、女の胸の辺りを中心に黒の球体を発生させ、ウエストバッグごと、上半身を全て飲み込んだ。


「ふぅ……本当は生かしておきたかったけど……、仕方ないね」


 危機を回避する事に成功したが、里緒菜は浮かない顔だ。当然か、放っておいても自爆したとはいえ、気分が良いもんじゃないよな。


 魔法が消え去った後に残っていたのは、女の両足のみで、ランドマインも爆発前に、全て分解されてしまったようだ。


 思えば、魔獣が死ぬところは沢山見てきたが、人間は初めてだ。悪寒と同時に、胃の内容物が逆流しそうになるが、それを必死に抑え込む。


 嫌な役割を代表して行った里緒菜に、これ以上の精神的負担は掛けたなくない。我慢だ、平静を装え、絶対に顔に出すな。


 ミリナを両手で包んで、キミコが駆け寄って来た。


「彰悟くーん! ちゃんとキャッチしましたよぉ!」


「よしっ! 偉いぞ、キミコ。――それと、悪かったなミリナ。咄嗟の事で、投げるしか思いつかなかった」


 手を差し出すと、ミリナが乗って来た。なんかヨロヨロしてるけど、大丈夫か? そのまま、定位置の胸ポケットに収めると、シャツがクイクイと引っ張られる感触がする。


「わたしの身を案じて、やった事なのは分かるので、強くは……言いませんが……スナップを利かせるのは……ウェッ……、禁止です」


 違う理由で、吐きそうな人が居たようで。どうやら投げた時に、盛大に回転したみたいだ。


「ぼ、僕にも、責任の一端があるから強くは言えないが、ポケットの中で吐くのだけは、止めてくれよ」


 ミリナは返事もせず、ポケットの中で丸まっているようだ。むしろ、その方が酔う気がするけど、大丈夫か?


「皆、行くよ。さっき女が言っていた、時間稼ぎって言葉が気になる。もしかしたら佐藤に連絡されていて、こちらに向かっているかもしれない」


 里緒菜の言う事は、もっともなのだけれど、さっきの女の言葉を、そのままの意味で、とらえていいのか疑問が残る。


「命を懸けるほど、使命を重視している割には、要らない事を言ったもんだよな。何かのブラフだったりしないか?」


「だ……だとしても、選べる選択……肢は、急いで姉妹をさがす……ウェッ……ことくらいですよ」


 ポケットから、今にも死にそうな声が聞こえてくる。


「ミリナ、お前はもういい。もういいんだ! 休んでいろ! ――だが、言っている事は、間違っていないな。よし、先に進もう」




 地下牢の通路からも見えていたが、次の部屋は、ベッドとソファー、テーブルや水道に、小型の冷蔵庫なども設置されていて、地上部の部屋よりも、よほど生活感が溢れている。


 この部屋にも姉妹の姿は見えなかった。次は、この部屋の中に有る、もう一枚の扉に向かうしかなさそうだ。素材は何かの金属で、鍵が3個も設置されているが、こちら側からなら、鍵が無くてもサムターンで開錠できる。


 ガチャ――ガチャ――ガチャ――。里緒菜が扉に掛かっている鍵を開錠した。この扉も、こちらから見て内開きになっている。里緒菜に扉を開けさせて、開いた隙間から僕が飛び込む事で、話は付いている。


 僕なら余力は十分だ。もし、体に大穴を開けられるような事があっても、死ぬことは無いから。


 開かれた隙間から飛び込んだ僕の目に映ったのは、目測で10畳ほどある部屋の半分を占める、鉄格子付きの空間。その空間には、シングルベッドが置かれていて、銀髪の姉妹が寄り添い眠っていた。


 二人の手には、魔封の枷が付けられているのが見えるが、僕の知っているものと形状が違う。手を拘束する二つのリングの間に、350ミリリットル缶が入りそうな、円筒状の部品が取り付けられている。


 1か月近くも、こんな狭い空間に、枷を付けられたまま閉じ込められていたと思うと、佐藤に対する怒りが沸々と込み上げてくるけれど、今考えるべきは、そこじゃない、早く助け出さないと。


「サミナちゃん! やっと見つけましたよぉ! 早く檻を壊して、出してあげましょうよぉ」


 少し遅れて入って来たキミコが歩み寄り、鉄格子を握ろうとしたが、それは叶わなかった。多分、障壁だ。障壁が張られている。鉄格子スレスレのところに透明の壁があって、それ以上近付く事を許さない。


「僕が、やってみるよ」


 手に持った、魔法剣に限界まで魔力を流し、大上段から、叩きつけた。――――1度、2度、3度、どれだけ力を込めても『ガンッ!!』と、耳障りな音が響くばかりで、一向に壊れる気配がない。


 破壊できないのは、重大な問題なのだけれど、それと同じくらい重大な問題が浮上してきた。耳がキーンとなるほど、大きな音を連続で立てているのに、姉妹は身じろぎもしないのだ。


 どんなに寝不足で、熟睡していたとしても、この音で起きないのは、不自然すぎる。二人の身に異変が起こっている可能性が嫌でも脳裏をかすめる。


「二人とも、全然起きないですねぇ? お腹が動いてるから、生きているのは間違いないと思うんですがぁ」


 どうやらキミコも、僕と同じことを考えていたようだ。


「もしかして、この障壁が防音になっているのかもしれない。――いや、絶対そうだよ。早く破壊する方法を探しましょう」


「里緒菜さん。壊すより、消す方が早いと思いますよ。こちら側に障壁を解除する、装置があるはずです。もし、それが見つからなければ、魔力タンクを破壊しましょう。そうすれば解除される可能性が高いと思います」


「……そうだね。ミーちゃんの言う通りだ。――ごめんね。年長者のあたしが、しっかりしないとダメなのに、また冷静さを欠いていたみたいだよ」


 件のシールド発生装置は、すぐに見つける事ができた。向かって右手、障壁と部屋の壁が交わる部分に、30センチ四方の鉄板が埋め込まれていて、小さな取っ手がついている。


 取っ手を引いて金属板を開くと、左半分に、手形の絵が描かれている。この場所に手を置けと言わんばかりだ。これは最悪だ。考えるまでも無く、生体認証の一種で間違いない。僕らが手を置いたところで解除されるわけがないのだ。


 嫌な情報が立て続けに入ってくる。残りの右側がどうなっているのかといえば、円筒状の物を差し込めと言わんばかりの、穴が二つ存在する。そして片方には、1本の銀色の缶が既に差し込まれている。


 …………カートリッジ式だろこれ? ということは、外の魔力タンクを破壊しても無駄って事になる。カートリッジを抜き取ろうにも、透明カバーが邪魔をして触れる事すら叶わない。


「解除は無理そうだね。破壊しよう」


 里緒菜はそういうと、レイピアを構えてシールド発生装置の中心を穿つべく、全力の突きを放つ。が、その一撃は、対象に傷一つ付ける事が出来なかった。シールド発生装置にシールドが張られている。


「どうしますかぁ? 連続で攻撃し続ければ、そのうち魔力切れで壁がなくなると思いますよぉ?」


 キミコが、ピンクの可愛いスコップ改で、シールドをガンガン叩きながら提案してくるが、それはどうだろう。確かに、いつかは消えるだろうけれど、それって佐藤が帰って来るまでに終わる作業なのか?


「それは最後の手段だね。わたしが、エクリプスを使って、破壊できないか試してみるよ」


「里緒菜、もう3回目だぞ。大丈夫なのか? この後、佐藤と遭遇する可能性もあるんだ。無理は、して欲しくないんだが」


「ありがとう。でも大丈夫だよ。もう一回分消費しても、全損5回くらいなら、死なずに再生できる……と、思う」


 いや、それは流石に許可できない。そんな権限は無くとも、絶対に許すわけにはいかない。……が、対案が無いのが痛い。ただダメだって言ったって、頷くとは思えない。


「さっきの魔法と同じクラスの攻撃を、ぶつければ良いんですよね? ――わたしが、やりますよ。ここで出し惜しみして、里緒菜さんに何かあったら寝覚めが悪いですから」


 そう申し出たのはミリナだ。誰からも反論が無いのを確認すると、その小さな手をシールド発生装置に向ける。


「フェルダ・レイ」そう、ミリナが言葉を発すると、手の平から数えきれないほどの光の帯が、バラバラの方向に発射される。目標に着弾するとは、到底思えない角度に発射されたが、すぐに弧を描いて、破壊目標に向かって進路を変え、全ての光が、ほぼ同時に着弾した。


 複数の着弾音が、完全にシンクロして、一つの轟音となり、室内を震わせる。無音で対象を削り取るエクリプスとは対照的に、対象を力任せに、叩き潰すような魔法だ。


 まさか、こんな凶悪な魔法を隠し持っているとは、思いもしなかった。うん、フェアリー怖い。2度と踏まないように気を付けよう。


 ……それは兎も角、流石に、この攻撃には、シールドも耐えられないと思いたい。――――が、壊れた様子がない。左側には変わらず手形が残っているし、右の穴に刺さったカートリッジも健在だ。


 攻撃前と、唯一違う事といえば、ファンが高速で回るような音が、機械から聞こえてくるが、故障って感じじゃなさそうだ。


 キミコが、スコップで鉄格子を殴るが、直撃する直前に、青く光る障壁に阻まれて、全力で振り下ろしたであろう一撃は、空しく跳ね返されてしまった。 


「今ので壊れないって、どうなってるんだよ! もし僕の障壁だったら、確実に貫通してるぞ」


 もうキミコが言ったようにエネルギー切れまで、攻撃し続けるしかないのか? 壁を掘るって手も……いや、ダメか。崩落したら一大事だし、壁の中まで障壁が貫通していない保証がない。


「今ので、壊れないならエクリプスでも無理っぽいね。――ここで佐藤の帰りを待って、開けさせる……いや、人質にされたら不利か」


 危険を冒してまで誘拐しているのだから、佐藤的にも生かしておく必要があるんだろうけれど、たとえ脅しであっても、姉妹の命を奪うと言われれば、僕達は動きようがなくなる。確かにここで、佐藤と出くわすのはマズいかもしれない。


「さっきの魔法が、わたしの使える中で、一番破壊力があるやつなので、もうお手上げですよ。――サークルマジックを使える人が居れば、開けれるかもしれないですが、そんな人は居ないですよね」


 サークルマジックって何だ? 王国に着いてからは、極力魔法は使わないという、教えを守っていたので、魔法の知識は殆ど増えていないんだ。さっぱり分からない。


「その手があったよ! しょう君、早く壊して!!」


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