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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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命知らずな特攻フェアリーとメロス

 僕と里緒菜の走る速度は、人間種とは比べ物にならないほど早い。先に走り出していた加藤を、あっという間に追い抜いて、そのまま駆け続ける。次の目標は、時計塔で待つキミコとミリナだ。ミリナはマジックスコープと同等の魔法を使えると言うので、佐藤の監視をお願いしていた。


 塔の内部の階段を上がると、僕の指定席にキミコが座っていた。そして、その頭上、獣耳の真ん中にミリナが座って、窓の外を覗いている。まずは状況の確認だ。


「ミリナが付いて来てくれないから、一人寂しく任務を終わらせてきたぞ。そっちの様子はどうだ?」


 キミコは、こちらを振り向いたが、ミリナは頭の上で反対周りに回転して、窓の方を向いたまま言う。


「わたしが、付いて行ったら誰が監視するんですか。こっちは、動きなしですね。隠し通路などが無い限りは、家の中に居ると思いますよ」


 隠し通路か、無いとは言い切れないよな。想像すらしなかった。


「それは盲点だったけど、現状だと逃げる理由もないだろうし問題無いよな。じゃあ、そろそろ向かうか?」


 里緒菜が、ミリアの出しているスコープを、横から覗き込みながら言う。


「ここで佐藤が出てくるまで待とう。しょう君が、大ムカデを頑張って集めてくれたから、結構時間にゆとりができたと思うんだ。少しくらい調査開始が遅れても問題ないよ。今出たら鉢合わせる可能性もあるしね」


 ムカデ集めに向かう時に、僕に課せられたノルマは最低20匹だったから、30匹は、確かに頑張った方だ。


「りっちゃん、どのくらい時間を稼げそうなんですかぁ?」


 キミコが里緒菜に向かって振り向き、首を傾げながら尋ねた。その動きを打ち消すように、ミリナが逆方向に動いて、窓との正対を維持している。その動きに匠の技を見た。こいつは、かなり乗り慣れてるな。


「そうだね、魔獣との戦闘で1時間、戦闘の後処理と移動時間で1時間、合計2時間くらいは留守になると思うな」


 大きいとはいえ所詮は一軒家、2時間もあれば隅々まで探索できそうだ。探し物は、いや探し者か。そう、探すのが人だから、隠せる場所なんて、そう多くはないはずだ。これが書類一枚を探すとかだと2時間じゃ全然足りる気がしないけれど、今回は問題ない。


「じゃあ、それでいこう! ところでミリナ、本当についてくるのか? 待っていても良いんだぞ」


「ついて行きますよ。お兄さんは、全て終わったら『俺は、ミリナの情報で姉妹の居場所を突き止める事に成功したのさ。だがな、それじゃ終わらねぇ! ミリナは危険な敵地まで共に乗り込み、魔弾の雨を掻い潜って、見事に姉妹を救出しやがった! 全く、命知らずな特攻フェアリーだぜ!』と喧伝してください」


「いや僕は、そんな洋画吹替口調じゃないんだが」


 それは兎も角、居場所を突き止めたら300万円って、アネルと約束してるんだよな? 見つけただけで、依頼は終わってると思うんだけど、何か意味があるのか? とりあえず聞いてみるか。


「そうすると、どうなる?」


「そうすると、謝礼金が1割から2割増し程度になると予想しています。お兄さんは神様に会った事ないって、言ってましたよね? 神様は、結構ちょろかわいいんですよ」


「僕が今まで、集めたアネルの情報を組み合わせると『うざちょろかわいい庶民派アイドル系魔法少女マスコット神』になるんだけれど、これは実在する人物か?」


「うん、それこそがアーちゃんだ。何一つ間違ってないから安心して」


 里緒菜が腕を組みながら、いかにも納得したという風に、コクコク頷きつつ言う。どこら辺に、安心できる要素があるってんだ。


「よくこの世界は、1200年も存続できたな!! 絶対に運が良かっただけだぞ! 明日滅んだって、僕は全く驚かない」


「アーちゃんだから、出来たのだよ」


「それ、諦めかけた時のセリフだからな!」


 今まで、佐藤宅から一切視線を逸らさなかったミリナが横目でこっちを見た。何か動きでもあったのか!


「あれは、モヤっとする話ですよね。良い話風に纏まってますけど、友達が人質になると申し出たんじゃなくて、主人公が人質に指名している辺りが、読んでいてモヤっとします」


 お前は食いつくな!! ……でもまあ、一理あるんだよな。


「確かに、あの辺は思う所があるな。凄いゴリ押しだよな。人質の押し売りって言っても過言じゃない。石工に友達は選べって言いたくなるよ」


「わたしの推測だと、その不自然さを埋める鍵は、マニーだと思うのですよ。きっと失われた原稿があって、その中で多額の金銭が動く場面が、書き記されていたと予想します」


 妖精少女が、指で丸を作りながら言った。


「ミリナの価値観を基準に推測してんじゃねえよ! 教科書にも載ってる話だぞ! そんな汚い裏話とか無い!!」


 それを聞いた妖精少女が、小さな手をポンと打ち鳴らした。僕の言った事に納得いったって事かな。


「もしかして『彰悟は激怒した』って言って欲しいんですか?」


「どうしてその結論に至った! 言って欲しくない! 仮にそうだとしても、確認を取らずに言ってくれ!!」


 と、言った直後、キミコが僕の肩に手を置いた。なんだ?


「彰悟くんは、激怒しましたぁ」キミコの顔を見ると……憐みの目だと!!


「強がりじゃないから! 本当に求めてないから!! 無駄に気を回すな!!」


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