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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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大ムカデと身勝手な願い

 モセウシに潜伏して8日目、佐藤の邸宅にアネルの姉妹が捉えられていると確信した僕達は、奪還作戦を実行に移していた。




 作戦の第一段階を担当するのは、笹塚 彰悟、つまり僕だ。


 具体的に何を行っているのかという話なのだが、街の北西の森の中を走り回っている。まだ、大抵の人は寝ている時間で、辺りは真っ暗とまではいかないまでも、相当に暗い。


 一人じゃ寂しいので、ミリナをお誘いしてみたが、二つ返事で断られてしまった。まったく、友達甲斐のない妖精だ。お小遣いをあげれば、付いて来てくれたんだろうか?


 走る僕の右手には、グロテスクな物体が握られていて、出来るだけ体に近付けないように、腕を伸ばしながら走っているので、バランスが悪くて仕方ない。


 僕の後ろからは、カサカサカサカサと絶え間なく、異音が響いている。ああ、もう! 鳥肌が立ってくる!


 一回前に振り返ったのは、何分くらい前だったろう? 最初のうちは、頻繁に振り返り確認していたが、見てどうなるものでもない、気持ち悪くなるだけだ、そう気が付いた瞬間から確認作業を放棄していた。


 後ろを振り返る代わりに、僕がしきりに目線を送っているのは、北門の少し左側。そこには、里緒菜が居るはずなのだ。


 こちらからは10分ほど前に、障壁魔法を光らせて、準備完了の合図は送ってある。後は、里緒菜から準備完了の合図が来るのを待つばかりだ。


 森の入り口付近から離れない事と、後ろから追跡してくる生物に追いつかれない事、これを両立するのは中々難しい。そろそろ、限界じゃないか? そう、諦めそうになった瞬間、街の方で青い光が灯った。


 フード付きのマントを纏い、マスクを付けた、怪しい風体の男が、森から飛び出した。その手には足が無数に生えた、虫型魔獣の死体が握られている。言うまでも無く、その男は僕だ。


 追っ手は、さほど速くない。今までは引き離さないように加減して走っていたのだ。ここからは遠慮する必要はない、全力で街へ走る。少し遅れて30匹近い、大ムカデが森から飛び出した。


 この大ムカデは、同族の体液に反応して集まる習性がある。そう、奴らは僕の右手の死体目掛けて、走り続けているのだ。


 僕が求めていたのは、天空要塞の主砲であって、ムシ誘導攻撃じゃないんだが。


 この状態じゃ、完全に僕が悪役じゃないか! いや、天空要塞の主砲も、わりと悪役っぽいか?


 ああいった超兵器を使う時は、無人島を試し撃ちで吹き飛ばすのが正式な作法だ。その後、人の住む街に使おうとして、直前に倒されると相場が決まって……悪い癖が出た、いらん事を考えてる場合じゃない!




 今回の作戦の流れは、大ムカデを集めて、街の周辺まで引っ張って行き、門の中に飛び込む。ここまでが僕の役割。


 次は加藤の出番だ。僕が入った直後に門を閉める。その後、佐藤に討伐依頼をするために走る。


 見事、佐藤を屋敷から引き離す事ができれば、作戦成功となる。


 ちなみに、里緒菜が何をしていたのかといえば、僕が魔獣を引き連れて街に向かう姿を、誰にも発見されないように、人が居なくなるタイミングを待って、合図を送る係を担当していた。




 全力で走る僕の体を、少し湿った朝の空気が撫でていく。以前は、全力で走ると速すぎて、少しの恐怖を覚えたけれど、今じゃ自分の身体能力にも完全に慣れた。


 気付けば、虫たちの足音も聞こえなくなっている。不快な音から解放されたのは嬉しい限りだが、完全に置き去りにすると問題がある。


 チラリと後ろを振り返ると、大ムカデとの距離は大分開いていた。でも大丈夫、追跡を諦めてはいないようだ。


 大ムカデの位置を確認してからは、速度を調整しつつ、一定の距離を保って門を目指した。もう見張り台が肉眼で確認できる位置まで来ている。


 加藤が、見張り台を出ていくのが見えた。それと同時に魔導開閉の門が閉まり始める。そこから若干速度を上げ、門の手前にムカデの遺骸を放り投げると、街の中へ飛び込んだ。


 その直後、観音開きの門が完全に閉じられた。これで僕の任務は一旦終了だ。


 恐らく大ムカデは、壁を這って街の中まで侵入してくるだろうけれど、あの魔獣は硬いだけで、お世辞にも強いとは言えない。時間を掛ければ人間種の兵士でも十分倒せる相手だ。

 

 運が悪ければ、怪我人くらいは、でてしまうかもしれないが、命を落とす事は恐らくないだろう。


 だとしても僕達のやった事は、犯罪以外の何ものでもない。ここで戦うであろう兵士達に、胸の内で『無事、乗り越えてくれ』と身勝手な願いを叫びながら、里緒菜と二人、街の中心部へと走った。


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