店内でお召し上がりですか?とテイクアウトで
「凄く後ろ向きな、前向きさですね。でも、今ので確信しました。わたしたちは、ビジネスライクな、お友達になれそうです」
街中で長々と立ち話を出来るような立場じゃないので、妖精少女をポケットに入れて時計塔まで連れてきた。詳しい話はここでする予定だ。
「で、妖精少女よ。ビジネスライクなお友達ってのは、具体的にどういう事だ」
「わたしは、ミリナ・ フェアルです」
窓の棧に腰かけた、妖精少女が名前を教えてくれた。名前が分からないと不便だし、自己紹介くらい最初にすべきだったな。
「うん『mmなフェアリー』でミリナ フェアルか、覚えやすくて良い名前だ。僕は笹塚 彰悟だ」
名前を覚えるのが苦手な僕だから、こういう語呂で覚えられるのは、ありがたい限りだ。
「わたしは、身長18センチありますよ。mmサイズじゃありません。じゃあ、わたしは、お兄さんの事を、お兄さんと呼ぶことにします」
「178.2ミリのミリナ、それじゃ自己紹介した意味が無いんだが。まあ、いいや。それでさっきの質問の答えは?」
「なんで、目測で正確に人の身長を測れるのですか! いいじゃないですか1.8ミリくらいサバを読んだって!」
窓辺に腰かけたまま、短い手足をブンブン振り回して抗議している。
「君等の1.8ミリは僕らの1.8センチに匹敵すると思うんだが、それでも1.8センチくらいなら大した事……、そんな事どうでもいい! 忙しいから早く質問に答えてくれ!!」
そうだよ、そんな事してる場合じゃないんだって! 今だって全く監視してないし!
「理不尽なお兄さんですね。自分でツッコミどころ含有のセリフを言っておいて、それに突っ込んだら怒るとか、理不尽すぎますよ」
「それを言われると、ぐうの音もでないな。謝るから用件を言ってくれ」
「はぁ、お兄さん、ここ最近この場所に通ってますよね? そして、ここから見ているのは、ガーディアンの邸宅、違いませんよね?」
「ああ、違わないよ。どうして知ってるのか聞きたいところだけど、先に続きを聞こうか」
人目を気にして入り込んでたつもりだったけど、どっかから見られてたのかな? この小ささだから、気付かなくても仕方ないとしておくか。
「わたしは、佐藤氏が銀髪姉妹の誘拐に一枚噛んでいると、確信しているのですよ。だから、同じ相手を探るお兄さんと協力できると思ったのです」
「僕の場合は、銀髪姉妹だけが目的じゃないんだけどな。それで、その確信は、どうやって得たものなんだ?」
「悪名高いフェアリーネットワークってやつですよ、お兄さん。フェアリーは、いつもどこかから、あなた達を見つめているのです」
1センチなさそうな人差し指を、僕に差しながら、不敵な笑顔で答えた。
「怖いなフェアリー、変な事できないな。僕ぐらい清廉潔白な男は、そこまで気にする必要はないかもしれないけど」
「そうですね、お兄さんの噂は精々、壁を上る仲間のパンツを下から凝視していた。くらいのものです。清廉潔白ですね」
「妖精怖っ! ちょっと待って欲しい、それには理由がある。言い訳をさせて欲しい! 実際には、仲間思いの男が、自分の尊厳を犠牲にして、女性の心を守るハートフルストーリーなんだ!」
「そんな事はどうでもいいです。忙しいので続き、話しますよ」
さっきの仕返しなのだろうか? 話が進まないし、言い訳は後にしよう。身振りで続きを促す。
「神様が、この街に姉妹を探しに来た日に、誘拐犯の蓮井氏が乗った馬車が佐藤氏の邸宅の近辺で停車していたのが、目撃されているんですよ」
「それだけが根拠なのか?」それじゃ若干弱い気がする、状況証拠以外の何ものでもない。
「蓮井氏は、この街に頻繁に出入りしていたガーディアンですよ? 佐藤氏の邸宅の場所を知らないわけがないじゃないですか? 普通なら、姉妹を隠した馬車を邸宅の周辺で止めるどころか、近付きすらしないと思いませんか?」
言うなり、窓の棧から飛び降りたミリナが僕の方へ歩いてくる。
「一理あるな、理由が無いなら避けて通るはずだ。ところで、ビジネスライクなお付き合いだよな? その情報を無料で教えちゃって良かったのか?」
僕に用があるのかと思ったら、僕の持ってきたパンに用があったらしい、勝手に袋を開けて食べ始めた。まあ良い、その体じゃ半分も食べられまい。
「わたしは、お兄さんから小銭を貰うのが、目的ではないですから。お兄さんは、佐藤氏を捕まえた後に、ミリナの活躍で犯人を逮捕できたと、大々的に喧伝してくれればいいのですよ」
それなら懐も痛まないし、こっちも大助かりなんだが、ミリナのメリットってなんだ? 知らないのも気持ち悪いし聞いてみるか。
「そうすると、どうなる?」
「わたしが、神様からご褒美をもらえるのです。発見に成功で300万円の報奨金を受け取る約束を、既に取り付けているのです。お金をもらったら、お兄さんに菓子パンとジュースを奢ると約束しましょう」
「いらねえよ、そんな約束! ケチだな、おい!! ……まあいい、僕は金のために、やってるわけじゃないからな。自分の無実を証明するためだ、利害関係は一致している」
そもそも、菓子パンを奢るって、今ミリナが食べているのは何なのかって話だ。
「わたしも、お金の為だけではないですよ。お金6割、神様を助けたいのが4割です。では、些細な事でもいいので、お兄さんが気付いた情報などを教えてください」
善意100%って言われるよりは、打算もあるって言ってくれた方が信用できるが。
「やっぱりお金の比率が高いのな。僕の情報って大したものは無いから期待するなよ」
「お兄さんは、実行犯だから、情報面が弱くても問題ないですよ」
「実行犯っていうな! 犯罪者か僕は!」
話を終えてミリナが帰った後、監視を始めたが、この日も特に変わった動きは無く、監視自体は徒労に終わる事になった。
6日目、塔で監視を続ける僕の所にミリナがやって来た。今の時間は18時だ。
「一日ぶりです、お兄さん。今日も絶好の監視日和ですね」
「嫌な日和だな、ここに来たって事は、何か分かった事があるのか?」
歩くのも遅いし、意味も無くここまで来たとは思えない。
「ええ、今日の昼に、佐藤氏が邸宅を出たじゃないですか? 見てますよね」
無断で人の肩によじ登りながら、ミリナが言う。
「もちろん確認したよ。また喫茶店に行って、帰っただけだったけどな」
肩に座ったミリナが、落下防止用なのか、僕の襟足を握りながら言った。
「何をしに、喫茶店に行っているか、考えた事ってありますか?」
「喫茶店に、花を買いにはいかないだろうし。食事を買いに、じゃないのか?」
「はぁ……対象が出入りしているのを確認したら、些細な事だと思っても、念の為、確認するべきですよ」
呆れたと言わんばかりの表情で、指摘されてしまった。
「……言われてみれば、そうかもな。で、あの喫茶店に、何かあると思っているのか?」
「あの時、わたしは喫茶店に潜入していたんですよ。佐藤氏の買った物なんですけど、テイクアウト用の食事が4人分です」
行動力あるな! 昨日話を聞いて早速、行動していたか。それにしても、買っていたものが……。
「4人だって? 僕が一週間弱、監視した限りでは、あの家には二人しか人は居ないと思ってたんだけど」
6日間も全く外に出ないとか、さすがに不自然じゃないだろうか? ここから見える限りでは、家の明かりも3部屋まとめて灯っていた事は無い。最大で2部屋だった。
「もう二人いるんじゃないですか?」
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新作は、『短編感覚で読める長編小説』をテーマに制作しています。
もしお時間がございましたら、そちらもお読みいただけると幸いです。