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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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クロユリとアイビーゼラニューム

 二日目、朝方戻ってきた加藤から、興味深い話を聞く事ができた。


 なんでも、以前は魔獣討伐なども積極的に行っていた佐藤だったが、一度行方知れずになった後、戻って来てからは、殆ど屋敷から出ないらしい。


 行方知れずと言うのは、僕達が初めてモセウシに来た時に、行方が分からなくなっていたあれだ。


 今は、街に近づく魔獣の討伐を、役場の人間が依頼した時くらいしか、姿を見る事はないって話なんだけど、それでいいのか? ガーディアンよ。そんなんで月60万って素敵なお仕事ですね。


 この日の監視で得た成果は、佐藤以外の人間が屋敷に居る事を確認できたことだ。昼頃に30代半ばと思われる女性が、例の喫茶店に向かって行くのを確認した。予想通りの結果なのだけれど、紙袋を持って店を出たあと真っ直ぐ屋敷に戻っていった。


 奥さんだろうか? 佐藤は見た目だと20歳くらいだし、少し歳が離れすぎているような気がする。……いや、待てよ、結婚した時は、年下だった可能性もあるのか、相手が不老不死でもない限り、幼児と結婚したって、いつかは見た目年齢が追い抜かれてしまうもんな。まあ、幼児と結婚とか有り得んが。


 帰ってから、今日見た事を里緒菜に話してみた。里緒菜が言うには、ガーディアンが人間と結婚するのは、珍しい事じゃ無いらしい。


 国王の細川も何度も結婚と死別を繰り返しているそうだ。子供が生まれても、不老不死はもちろん、魔法因子も遺伝しないらしく、すぐに自分よりも年老いて死んでしまう。


「あたしは、人間種と結婚したことも無いし、したいとも思わないな。すすんで悲しい思いなんてしたくないよね」そう里緒菜は言っていた。




 その後、三日目、四日目と立て続けに収穫無しの日が続き、少し焦りを感じ始めた五日目の事だ。


 薄暗い早朝の街中を、塔に向けて歩く僕の耳に『ゴーン、ゴーン』と、巨大な鐘が打ち鳴らされるような音が響いた。時計塔か? いや、時計塔には鐘なんてついていなかった。


 音の発生場所を探ろうとしたけれど、どういうわけか、全く方角が分からない。確かに音は聞こえているのに……。


 その鐘の音は15秒ほどで鳴りやんだが、立て続けに『リンリン』と、涼しい金属音が響いた。今度は小さな鈴をならしたような音だ。


 一体、何の音だ? それなりに気になるのだけれど、音の出どころを探しまわるほどかと自問すると、答えはノーだ。やる事が有るから、余計な事に気をと「ふぎゅぅ」ら……れ…………。


 なんか踏んだ……なんか踏んだぁ!!! はっ!!




 ――――小さな人は、一人の時、鈴を持って歩いてるので、チャリチャリ聞こえたら、近くに居ると思いますぅ。思いますぅ ますぅ すぅ――――




「どうしよう! こんな時に限ってキミコがいない! スコップだ! 早くスコップを用意しないと!!」


「お兄さん、大丈夫だから慌てないでください。そして、足をよけてください」


 足元から声が、良かった生きてる! でも、生きてるだけで悲惨な状態になってたりしないか? そっと足を持ち上げて、横にずらすと、緩いウェーブが掛かった、ショートヘアの小さい少女が地面にうつ伏せで、へばりついていた。


 小さいと言っても、人間基準の小ささじゃない、小動物的な小ささ、これが妖精種ってやつか、初めて見たよ。とりあえず、会話するには遠いので、掴んで持ち上げた。


「大丈夫か! 悪かったな。怪我とかしてないか?」


「大丈夫ですよ、お兄さん。妖精種は意外と頑丈なので、100Kgくらいまでなら潰れません」


 やたら頑丈だな! 100キロが勢いよく圧し掛かったら、普通サイズの人間でも危ないぞ。


「なにか、スコップとか仰ってましたけど、一体何をする気だったんですか?」


「ん? 花でも植えようと思って」「それは良い考えですね」


 どうやら誤魔化せたようだな。妖精種か、チョロイもんだな。


「そう思うだろ? こんな殺伐とした世界だからな、花の一つも植えて、人々に小さな安らぎを与えられればと、常々考えているんだよ」


「クロユリとか、いかがですか?」


 なんだ? 食い付いてきたぞ、ただの言い訳だったんだが、少し付き合ってやるか。


「クロユリ? 聞いた事ないな、それはどんな花なんだ?」


「名前のままですよ、黒っぽい色のユリの花で、花言葉は『呪い』です」


 もしかして、誤魔化せてない!? 遠巻きに非難されているのか僕は。


「そ、そっかー。でも、僕はアイビーゼラニウムにしておくよ」


「アイビーゼラニューム『終わりなき友情』ですか。残念ながらお断りします」


 断るだと!? そうか困ったな。でも、なあなあにするのは良くない事だ。


「そうか、でもな? 僕達の、このサイズの違いだけは、どうしようも無いと思うんだ。恋人ってのは無理があるよ。友達でいよう?」


「どんだけポジティブなんですかお兄さんは! どうして、わたしが恋人希望みたいな話になっているのですか」


「違うのか?」


「違います。愛情も友情も存在しません。でも、知っていますか? 友情が無くてもお友達になる方法ってあるんですよ?」


 僕はこんな所で遊んでる場合じゃないんだけど、これは気になるな。友情無き友ってどんなだ?


「僕にはさっぱり分からないんだけど、それはどんな方法なんだ?」


「マニーです。お金は友情の代替品、足り得るのですよ」


 妖精少女は、その小さな人差し指と親指をくっつけて丸を作りながら仰った。


「そ、それが噂に聞く、友達料ってやつなのか!? あれは実在すると言うのか!」


「ちょっと違います。わたしが言うのは、ビジネスライクなお付き合いの事です。愛のビジネスライクなお付き合いは、犯罪になりかねないので、止めておいた方がいいですよ」


「余計なお世話だよ! 僕は、そんな事しないから!」


「そう言っていられるのも、今のうちかもしれませんよ?」


「大丈夫だよ! 僕は年を取らないらしいから。100年でも1000年でも気長に待ってやる!」


「凄く後ろ向きな、前向きさですね。でも、今ので確信しました。わたしたちは、ビジネスライクな、お友達になれそうです」


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