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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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マリアンヌと嫌なオーラ

 田辺と出会った後は、巡回している兵士を発見して、森に入りやり過ごす場面が数度あった程度で、戦闘になるような事は無く、3人揃って無事にモセウシ周辺まで辿り着く事が出来た。かかった日数は計10日間、


 辿り着いた時の時間は17時。手配書が出回っている可能性が有るので、門を通って街に入るわけにはいかない。相談した結果、深夜2時まで森に潜み、その後、外壁を乗り越えて街に潜入する事になった。


 街に潜入した後は、身を隠せる場所の確保、もしそれが叶わなければ、佐藤の家を直接襲撃。


 最初の案は兎も角、それがダメだった時の案が酷すぎやしないだろうか。本当に、こんなんで上手くいくのか?


 理想を言うなら、どこかに隠れて、佐藤が黒だと言う証拠を探し出し、応援を呼んだ後に取り囲むような形に持っていきたい。




 何にしても、今は潜入に向けて、出来る限りの事をしておくべきだろう。例えば、そう食事だ。


 薪を燃やして火を焚いてしまうと、煙で人を呼び寄せてしまいかねないので、キミコの背嚢に入れてあった、魔力ポータブルコンロで調理している。


「ちょい、里緒菜お姉様さぁ、コンロの火消えそうだから、新しいカートリッジ持ってきてくんない!」「…………」


 無言で里緒菜お姉様が、カートリッジを持ってきてくれた。


「りっちゃんお姉様ぁ、キミコ芋の皮剥くの苦手だから、代わりにやってくださいよぉ!」「…………」


 無言でりっちゃんお姉様が、キミコの皮剥きを交代している。今日のお姉様は、やたらと無口だな。なにか、悩みでもあるんだろうか?




 切って、焼くだけの簡単な料理なので、短時間で完成した。後は食べるだけだ。どうも里緒菜お姉様の様子がおかしいから、食事中に会話を盛り上げて、元気付けてあげようと思う。


 まだ出会って間もないとはいえ、大切な仲間だ、さて何の話をしようか?


「ところで、アレだよな、庶民がお姉様とか呼ばれてると、凄くアレだよな」


「くっ……」


「そうですかぁ? キミコは、りっちゃんお姉様って、呼び方がカッコいいと思うんですよぉ!」


「キミコくらいの歳だと、まだ分からないかもしれないが、格好いいと、痛々しいは、紙一重なんだぞ。でもな、恥じる事は無いんだ。だれでも通る道で、20歳も近くなってくれば、誰だってその頃の愚かしさに気付くものなんだ。嘘だと思うなら、800年以上を生きた里緒菜お姉様に、聞いてみるといい」


「そうなんですかぁ? りっちゃんお姉様」


「よし! あたしが悪かった。お姉様は禁止」


 やっと喋った! しかし僕は里緒菜が喜ぶと思って、お姉様と呼び続けたのに、誠に遺憾である。


「じゃあ、りっちゃんお嬢様にしたら良いと思うんですよぉ? どうですかぁ、りっちゃんお姉様ぁ!」


「キーちゃん? わざと言って……無いね。素だよ、この子」


「せっかく望みを叶えてやったのに、わがままな里緒菜お姉様だな」


「しょう君、キミはわざとだ!」


 少し、いじりすぎたかもしれないな、ここは素直に謝っておくか。


「悪かったよ、悪ふざけが過ぎた。里緒菜お姉様は禁止な。もう言わないよ、マリアンヌ」


「マリアンヌって誰よ一体!? 『リ』以外、一文字として合って無いから!」


「あれもダメ! これもダメ! もう僕は、どうしていいのか分からないよ!」


「あたしには、何が分からないのかが、さっぱり分からないよ!!」


「具体的には、一般の兵士に発見された時の対処が分からないな。どうしたらいい?」


「えっ!そんな話してたっけ!?」


 それ以外、何の話をしていたというのか? さっぱり分からないよ。


「もう残された時間も少ないんだから、関係ない事に使う時間なんて無いんだぞ?まったく里緒菜は」


「そうですよぉ、りっちゃん! 作戦会議をしましょー」


「ああ、もうっ! 留置所から出した後、適当に野に放っておけばよかったよ。なんで連れてきちゃったんだろう!」



 時間は流れ深夜2時、壁を越える時間になった。壁の外にある畑を通り抜け、壁の直前までやってきた。モセウシの壁は10メートル程度で、王都よりは低い。

 

 今回は潜入が目的だから、乗り越えてしまえば勝ちだった前回とは違い、誰にも気付かれるわけにはいかない。


 魔法でシールドをだして足場にする方法は、目立ちすぎて今回は使えない。だからといって、ロープなんて嵩張る物は、持ってきていない。


 キミコを背負った里緒菜が壁の前に立ち、両手にダガー型の魔法剣MD-2を装備する。それを交互に、壁に突き立てて腕の力だけでスイスイと上っていった。


 その時、僕が何をしていたのかと言えば、上っている最中に、追っ手が来た場合を想定して後方を守っていた。しかし、警戒すべきは追っ手だけではない、誤って転落した時に受け止めようと、真下から二人を凝視している。


 まったく損な役回りだが、男の僕が引き受けるのは当然の事だ。次が有っても、僕は、迷わず同じ選択をするだろう。


 上から使い終わったダガーを里緒菜が放り投げてきた。振りかぶって投げてきた。殿という危険な役目を選択した僕を気遣い、少しでも早く上れるように配慮したのだろう。落とすだけで良いのに、心配性な里緒菜だ。


 さあ僕の番だ、常に魔力を流していると、サイリウムを持って振り回すような絵になってしまう。だから刃を突き立てる瞬間だけ、魔力を流して強度を上げてやる。


 ぶら下がった時に抜けないように、斜め下45度の角度で突き刺して―――これは凄いな、鉄でも切れると聞いていたけれど、まるで壁がシャーベットにでもなってしまったかのように、簡単に刃が入り込んでいく。あまりにも簡単に刺さりすぎて、壁の強度が心配になってくる、ダガーにぶら下がるのが恐ろしくなるほどに。


 壁上りを終えた僕は、ダガーを里緒菜に返しながら、街を見渡していた。


 街の中心に近い、一部の地域に集中して明かりが見えるけれど、それ以外の区域は、明かりが灯った建物は殆どなく、みな寝静まっているようだ。明かりが灯っているのは、酒場などの集まった繁華街だと思う。


 いつまでも壁の上には居られない、王都の時と同じで僕がキミコを背負って、飛び降りるべきだろう。


 僕がキミコに近づくと、里緒菜が奪い取るようにキミコを背負い、そのまま飛び降りた。なんだろう、壁の上に来てから里緒菜の僕を見る目が、いくらか冷たくなったように感じる。まったく、女心ってやつは分からない。


「無事に潜入成功だな、これから何処に向かうんだ?」


「できるだけ佐藤の自宅周辺で、使われていない建物を見つけたいね。理想としては、二部屋あるところがいい」


「どうにも、里緒菜の為を思ってした事が、裏目にでたようだな」


「はぁ? なんで下から凝視するのが、あたしの為なの?」


 ん? 分からないだと……。詳しく言わないのが優しさだと思ったんだが、しかたない。


「いや、中高年の女性は、女として扱われないと傷つくと聞いた気がしてな」


「あのぉ?」「しょう君! 不老不死の人間と、中高年女性を一緒にしない!考えてもごらんよ『見た目60歳、実年齢18歳の女性』と『見た目22歳、実年齢824歳』君ならどっちを選ぶ?」


 なんて、つまらない質問だ、実質選択肢なんて1個しか無くて、そちらに誘導し、話の主導権を握るつもりなのが目に見えている。でも、そこで逆を選ぶほど、僕は天邪鬼じゃない。その思惑に乗ってやろう。正常な男性なら答えはこうだ!


「そりゃ僕なら、見た目10歳、実年齢18歳を選ぶよ」


「どっから出てきた、その選択肢!! しかも、見た目10歳ってロリコンか!」


 酷い誤解だ! 僕の名誉の為にもちゃんと説明しておかなくちゃならないな。あと、合法ロリかって突っ込んでほしかった。


「それは違うよ里緒菜、僕くらいになると普通の女性には飽きてしまってね。少し趣向を変えて、小さい子とか、男の娘とかと、仲を深めるのも悪くないかな、と考えているところなんだ」


「君は、どこの変態貴族だ!!」「えっとぉ」


「何言ってんだ里緒菜。僕は、貴族じゃないよ」


「貴族じゃなくて、変態を否定しなさい!」


 いや僕、貴族じゃないしな。だからって、変態を自称する気もないが。


「じゃ、それで」「……聞いて欲しいんですよぉ」


「もう疲れてきたよ、まだ何にもしてないのに。そもそも、普通の女性には飽きたとか嘘つくな! 君からは、そんなオーラ出てないよ!」


 くっ! そこに気付きやがったか! 少々里緒菜を甘く見ていたようだ。


「痛い所をつくじゃあないか里緒菜。それは僕から非モテオーラが出ていると」


 キミコが僕の袖を掴んで引っ張ってくる。今、大事な所だから少し待ちなさい。


「キミコはもう、逃げられないと思うんですよぉ」


「「えっ!?」」逃げられないって何から? キミコの声が時々聞こえていたけど、何か警告しようとしていた?


「お前たち! そこで何をしている!!」


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