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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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扶養手当とTYPE-B

 王城を出た僕達は、王が手配してくれた、案内役に連れられて、留……RMI防衛本部にやって来た。もう、城を出たから考えるけど、留萌だよね?


 冗談みたいな名前だ。国王が別の人だったら、長万部オシャマンベ王国とになっていた可能性もあるって事か。モセウシは妹背牛で、ほぼ間違いない。


 ガーディアンってのは、試される大地から連れて来られるのかな? もしかしたら、故郷を想って名前を付けたのかもしれない。だとしたら、笑うのは失礼かもしれないな。同じ境遇だから、怒られはしないと思うけど、気を付けておこう。


 さて、防衛本部だが、名前負けしてるな。ビルとまでは、いかなくても大きな建物を想像していたんだけれど、高さは2階、面積は住宅が2軒分ってところだ。


 中に入ると、目に付くのは、受付嬢が二人ならぶカウンターと、4人掛けの待合席が4脚、質素なものだ。


 案内役の人は、本部に着くなり、城へ戻ってしまったので、ここからは、自分で全部やらなくちゃならない。まずは、受付嬢に用件を話した。


 快く応対してくれた、受付嬢に導かれ、応接室に通された僕達は、二人掛けのソファーに並んで座り、防衛本部、部長が来るのを待っている。


 横で、受付嬢が用意してくれた、黄色の液体を口に含んでは、プルプル震えている生き物を横目で見ながら、待つ事5分。背後で応接室のドアを開く音が響いた。


「もしかして、部長だと思った? 残念! 里緒菜さんでした!」


 うわっ、何か変なの来た。振り返って確認してみると、茶髪の髪を右側だけ結んだ20歳前半くらいの女の人だ。ドヤ顔だ、絵にかいたようなドヤ顔だ!


「キミコ、帰るぞ!」「ふぇ?」


「待って、待って!! 部長は、出掛けててさ、あたししか居ないんだよね。増渕 里緒菜、里緒菜お姉さんって呼んでね」


 この人しか居ないのか……。まあ、贅沢は言ってられないな。


「ど、ども。笹塚 彰悟です。よろしくお願いします」


「送迎役の、キミコ リラームですよぉ! よろしくですぅ!」


 来る途中で、耳を引っ張りながら教育した甲斐があって、少しまともな自己紹介になったな。


 キミコのフルネームとか久しぶりに聞いた気がする。この世界の名前は、ガーディアンと人間種のみ、姓、名の順で、亜人種+神は、名、姓の順で名乗るらしい。よく考えると不思議な事なのかもしれないけれど、日本的で全く違和感がない。


「しょう君と、キーちゃん、うん、覚えたよ! よろしく」


 しょう君か。小学生以来だよ、その呼ばれ方。キーちゃんは、唯一『コ』無しでも、許される呼び方だったはずだから問題ないだろう。


「じゃー、この書類を書いてもらおっかな。キーちゃんは、お菓子あげるから、食べて待ってようね!」


 渡された書類は、空欄になっているのが、名前やら、住所やら、性別やら、どれも悩むような内容では無いな。迷いなく書き込める。


「キーちゃんは、この後すぐ帰っちゃうのかな?」


 それは、気になりつつも、切り出す事ができなかった質問だ。この世界で初めて会った人、2か月近く一緒に旅をしてきた仲間だ。別れが寂しくないと言えば嘘になる。


「キミコは、帰りたくないんですけどぉ、王都に居ちゃダメですかぁ?」


 キミコと里緒菜さんが、僕が記入する横で会話している。帰りたくないか……、また召喚場との往復生活に戻るのが嫌なんだろうな。でも、それは叶う願いなんだろうか?


「帰りたくないの? なら細川君に言っといたげるね。ただ、毎日宿に泊まるとなると、結構お金かかっちゃうよ?」


 軽いなー。そして、王様に気安いなー。ろーくん、じゃないだけマシなのか?


「大丈夫ですよぉ! 彰悟くんのところに泊めてもらいますからぁ!」


 そういえば、僕ってどこに住む事になるんだろう? 今更、同じ家に住むのが、どうこう言う気も無いし、里緒菜さんが、許可するなら断る気もないんだけれど。ただ、キミコの家族が心配するかな?


「里緒菜さん、僕って、どこに住むことになるんですか?」


「しょう君、硬い! ガーディアン同士で、敬語とか使わないから! ごく少数、敬語を好んで使ってる人もいるけど、あたしは、普通に話してくれる方がいいな。あと、里緒菜さんの、『さん』も要らない!」


 そうきたか、結構抵抗があるんだけど、本人の希望じゃしかたない。


「慣れるまで、精神的負担が大きいけど、了解。それで、里緒菜、僕の住むところって、どうなるんだ?」


「うん、良い感じだよ、しょう君! 家は、王国所有の貸家が有るから、そこに入る事になるよ。一軒家で、家賃は月6万。自分で、もっと安い物件を探してもいいけど、安い所は、貧民街の近くとか、不便なところが多いからなー。私は、あんま、お勧めしないな」


 家賃6万って安いんだろうか? 探すのも面倒だし、それでお願いしよう。でも、給料の額にもよる……。まて、僕は何をやっている! 何で、ここで働く気満々になってるんだ! 地球に帰還が目的だったじゃないか。


「自分から言い出しといて、あれなんだけど、ちょっと話は変わって、地球に帰るって選択肢は、存在しないのかなと……」


「まー、そうくるよね。今のところ帰れた人、居ないよ。もし帰る方法があっても、帰らない方が良いと思うけどなあ」


「その理由は?」『帰る方法がない』は予想できた答えだけれど、『帰らない方が良い』は、あまりに意外な返答だ。


「だって、最初は良いけど、歳をとらない人間とか気持ち悪がられるよ。そのうち実験体とかにされちゃいそうじゃん?」


「えっ! 歳をとらないって、それどういう事?」


 魔法のある世界で、歳をとらないとか有り得ないと、言い出す気はない。きっと本当に、なってしまったんだろう。


 不老って、全ての人間が憧れるような印象があるけど、実際なったら、思ったほど良いものじゃないと思う。世の中で認められていれば別だけれど、今の地球では生き辛い事、この上ないはずだ。


「あら、聞いてないんだ? キーちゃん! 職務怠慢だぞー! うりゃうりゃ!」


「あぁ! 言うの忘れてましたぁ。りっちゃん、グリグリするの、止めてくださいよぉ!」


里緒菜が、キミコの頭を拳で挟んでグリグリしてる。まあ、痛そうじゃないし、じゃれてるだけだろう。というか、質問に答えてよ!!


「それでね、しょう君、こっちに呼ばれた時に、不老不死の処置をされて、連れて来られてるんだなこれが。不死は、不完全だから、連続で重症、および死に続けると、再生できなくなるから注意ね!」


「それって、元に戻す事は、できないのか? 向こうで、ずっと若いままとか、確かに不味いよな」


「なんか、アーちゃん曰く、『やってやれない事は、無いだろうけど、そんなお金にならない事に、メーカーは労力を割かないから、実際のところ無理に限りなく近いね』だって。まー、ダメ元で、アーちゃんに聞いてみたら?」


「その、アーちゃんってのは、誰の事なんだ? どこに行けば会える?」


「アーちゃんって言ったら、アームラ教のマスコットキャラ、魔法少女アネルちゃんに決まってるじゃん!」


 決まってねぇよ! えっ、マスコットキャラ!? 僕の中で、アネルの像がドンドン歪んでいく。ウザイを擬人化したマスコットキャラって、どんなだよ!


 それにメーカーってなに? どっかの会社が不老不死を開発して販売してるのか!? もう訳が分からないよ……。


「里緒菜は、帰りたいって思わないのか?」


「ま、最初はね。向こうで生きた時間が22年。こっちで生きた時間が802年。もう、こっちが、あたしの居場所かな? 今、帰れるって言われても断ると思うな」


 802年! じゃあ、824歳って事なのか? そんなに、長くこの世界に居たのか。


 実際に経験しないと、本当の意味では、理解できないかもしれないけれど、想像位ならできる。そうだよな、きっと地球に居た何倍、何十倍もの時間をこちらで過ごせば、この世界の方が大切に感じるようになるのかもしれない。


「まあ、ゆっくり考えてみたら? こっちの1000年が、地球の1日だから、仮に1000年後に帰ったって、向こうでは、1日の行方不明で済むから、焦る必要なんてないない!」


「えっ! じゃあ、僕がこっちに来て、多分2か月くらいになったと思うんだけど、向こうでは……」


 宇宙の事とかよく知らないんだけど、星によって時間の流れが違ったりするのか? それとも魔法的な何か、なのだろうか? でも、納得いった。800年前の日本人が、魔法少女アネルちゃんとか言うわけないもんな。ごく最近の文化だ。


「あたしは、必要性を感じなかったから、その計算得意じゃないんだよなー。多分20秒は、経ってないと思うよ?」


 時間の速度が逆じゃなくてよかった。逆ならもう詰んでる所だ。仮に逆だったら6万年近く経過したことになる。もうそれ、人類が絶滅してても不思議じゃない時間経過だ。


「そうか……確かにそれなら急ぐ必要はなさそうだな。今は、明日の生活の事を考えるべきか」


「ん、そゆこと。そして、考えてるうちに、『帰れなくてもいいかー』って、なる巧妙な罠」


 あれだね、契約する時にオプション付けたら安くするよ。大丈夫! 3か月たったら外していいから、みたいな罠だな。


 3か月経過する頃には、忘れてしまうか、外すのが面倒で払い続けてしまう。今回の場合、人生がかかってるんだから、そんな姑息な罠に引っ掛かったりするものか。


「もう少し、便利な所だったら、あっという間に、その思考に行き着きそうだけど、何かと不便だからな。そう簡単には、永住の決心は、つかないと思うぞ」


「あたしが、来た時なんて酷かったよ。今は大分良くなった。そして、これからも良くなっていくさ! 自分で住み良く、変えちゃえばいいんだよ!」


「なるほどね、本当にやるかどうかは別としても、その考え方は悪くないな。手始めに、僕の明日が、住み良くなるかは、もらえる給金で大きく左右されるんだが、どんな感じになる?」


「手取りで60万だね、これは固定。あとは、請け負った業務によって、手当てが付いたり、付かなかったりかな? 少しでも増やしたいなら、キーちゃんと結婚すれば、扶養手当が2万付くよ」


 黙ってお菓子を食べていたキミコが、名前を呼ばれて反応したみたいだ。


「じゃあ、その2万円は、キミコのお小遣いにしたら、いいと思うんですよぉ」


「いいと思わねぇよ! お前は何を言っているんだ!? 月々2万円もらうために結婚とか有り得ないから! ましてや、それがキミコのお小遣いを稼ぐためとか、なお有り得ないから!」


 いや、待てよ? キミコの辞書には愛だの恋だのは、一切載っていないと決めつけていたけれど、案外本気だったりするのかも?


「そうですかぁ? キミコでもできる、簡単なお仕事だと思ったんですがぁ」


「やめて! 僕との結婚を、簡単なお仕事とか言わないでっ!」


 結婚してあげるから、お金くださいとか、何だそれ! 何だそれ! 普通に『彰悟くんと結婚とかないですぅ』とか言ってくれた方が万倍、良いわ!


「あはははははっ!」「笑うな里緒菜!」


 人に指をさしながら、無遠慮に爆笑していやがる!


「いやあ、ゴメンゴメン! ちょっとした冗談のつもりだったんだけど、しょう君の心を深く、えぐっちゃったみたいだね! あたしが、楽しめたから、それで良かったって事で、納得しとこ?」


「理不尽な提案だな、おい! 裁判でそれ言ったら、情状酌量の余地、皆無だからな!」


「そうカリカリしない! じゃあ、次いくよ、次!」


「もういいや、どうぞ」


「魔法兵器の支給があるんだけど、何が欲しい? まずは、遠距離用と近接用どっちが良いかだね」


 蓮井さんは剣を貰えって言ってたな。言うと変に先入観を持たせそうだし、伏せて、里緒菜のお勧めを聞いてみるか。先入観以前に、裏切り者の件もあるしな。名前を出して良いか判断できない。


「里緒菜の、お勧めは?」


「魔法ほどじゃないけど、遠距離用は威力に対して消費魔力の効率が悪いから、近接用が良いんじゃないかな? 魔力切れは、本当の意味での死に直結だから」


 蓮井さんと一緒か、でもなあ。求めてるのと違うんだよ。


「理想を言うなら、僕は空を飛ぶ要塞とかがいいんだけど。モノリスに触れると、要塞下部のドーム状の部分に爪が4本現れて、爪から放出されたエネルギーが中央で一点に合わさり、裁きの光となって地面に突き刺さる感じのとかないのか? 全てをゴミのように吹き飛ばしたい」


「しょう君? せっかく質問に答えてあげたのに、聞いてたとは到底思えない希望を述べてるんだけど? 世界でも征服したいの? 残念だけど、そんなの無いよ」


「隠してないか?」「隠してないって!!」


 なんだ無いのか、がっかりだ。あの大蜘蛛の時に見たのは、もしかしたら天空の要塞かと思ったんだけど違ったか。


「じゃあ、近接で、できるだけリーチの長いやつ。安全な距離から、反撃できない相手に、一方的に攻撃するのが僕の性に合ってるから、槍とか良いかもしれないな」


「おかしな事を言ってるわけじゃないんだけど、その表現だと、とんだゲス野郎だね。槍型は、素人には使いにくいよ? 剣型で、MKG-5が使いやすいと思う。M魔法、K剣、Gグラディウス型、5式ね。バージョン5まで改良されたモデルで、完成度が高いんだよ」


 グラディウス? 聞いた事あるな。あれだ、敵を一列倒すと、アイテムが出て、それを集めてパワーアップさせるやつだ。バリアーを張ったり、オプションを呼び出して、一緒に攻撃させたりできるんだろう。うん、悪くないな。


「じゃあ、グラディウスで。僕は、あえて使いにくい設定を選んで、通ぶったりするような人間じゃないから、パワーアップはTYPE-Bで、お願いするよ」


「えっ、タイプB? ……なんか良く分んないけど、分かった。MKG-5で、オッケーね。後で取りに行こう。後、話す事は……あっ!! やばっ!」


 『あっやばっ』って、言ったぞこの人、なんだろう、妙に嫌な予感がするぞ。


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