王国とアポなし訪問
モセウシからの馬車の旅を終え、王都に着いた僕とキミコだったが、さっそく行き詰まっていた。
「さて、キミコ、到着したわけだが、僕はどうすればいい?」
ルモイに行けとは言われたが、着いて具体的に何をするかは、全く聞いていないのだ。
「………………」
「キミコ? なんだ、その間は!」
「……王様に会いに行きましょう! 王様もガーディアンのはずだから、きっと教えてくれますよぉ!」
「もしかして、連れてきた後の事は、知らないか、忘れたんじゃないか?」
「む、村一番ですからぁ」キミコが目線を逸らしながら仰った。
「そう言ったら僕が納得すると思っているのか!! 前回で味を占めたのかもしれんが、今回は、それでは誤魔化されんぞ! 何して良いか、わかんないからって、いきなり王様を直撃していいの!?」
「大丈夫ですよぉ! キミコが保証しますからぁ、一緒に行きましょー!」
「こんなに、安心感の無い保証、未だかつて聞いた事がないんだが」
で、結局来てしまった。城門に居た兵士に、新人ガーディアンが王様に会いに来ました。と伝えた所、かれこれ30分ほど待たされて、ようやく、城内に入る事ができた。正直、入れてもらえるとは思ってもみなかった。
どうしよう、王様に会うって、何かマナーとか有るんだろうか? そんな知識は持ち合わせていないぞ!
そして、それ以上に、僕の後ろを、右に行ったり、左に行ったり、見る物すべてに興味を示し、ジグザグ歩行をしている娘が、何かやらかさないか気が気じゃない。
目の前に見えてきた、やたらと豪華で巨大な扉、きっとあれが玉座の間ってやつだろう。当然の如くそこへ通されると思ったら、素通りしてしまった?
その後も案内の兵士に着いて、しばらく歩いていると、今までの廊下に飾られていたような、装飾品が一切なくなり、質素な雰囲気に早変わりした。
連れて来られた部屋は、国王の私室らしい。当然、兵士も一緒に入るのかと思ったら、部屋の外で待つようだ。
警備上それは、どうなのかと思ったが、よく考えたら王はガーディアン、それも王になる程、長くガーディアンを務めた人なのだろう。僕如き警戒するまでも無いって事かもしれない。
と、思った瞬間、その考えは打ち砕かれた。若い、目の前に居る王は、僕と同じか少し上か、20代前半という感じだ。整った顔立ちに、セルフレームの眼鏡が印象的だ。落ち着いた雰囲気で、切った張ったの世界で生きてきた人間とは、とても思えない。
思わず思考に囚われてしまった僕に、王が話しかけてきた。
「君が、新入りのガーディアンだな。本来は、アポを取ってから来て欲しい所なんだが、来てしまったものは仕方がない」
キミコぉ! やっぱり駄目じゃないか! 後で、耳引っ張ってやる!
「あ、あの、す、すみません! 着いたは良いけれど、どうして良いか分からなくて、つい?」
「まあ、そう硬くなるな。来たばかりじゃ何も分からないのは仕方ない。俺だってそうだった」
慌ててたから気付かなかったけど、怒ってる雰囲気じゃないね。少しほっとした。
「おっと、名乗って無かったな。俺の名は、細川 路美緒だ。ルモイ王国で、国王をやっている」
クッ! ろ、ロミオだと! その甘いマスクで、ろ、ロミオ……。名前負けしてないところが逆にくる! 思い出せ! ペットのジャンガリアンハムスターが無くなった日の事を、あの深い悲しみを! 涙の海を泳いだあの日を!! ……ふぅふぅ。
「僕は、笹塚 彰悟です。お見知りおきを。そして、こっちに居るのが、送迎役の」
「キミコの名前は、キミコですよぉ」「です」
大丈夫だ、多分このくらいまでは、許される範囲だ。
「笹塚 彰悟と、そちらの人狐のお嬢さんは、キミコか、覚えておこう」
「ロミオくんに、これからどうした良いか、教えてもらいに来たんですよぉ!」
キミコさん! 許される範囲を、とうに逸脱してるんですが、それは。
「何をするか、か。まずは、RMI防衛本部に向かうといい。そこでガーディアンの登録作業が有る。そこで、何かしら任務も与えられるはずだ。場所は、城の者に案内させよう」
スルーだと! これが王の器ってやつか! ビビらせやがって! 後でシッポを引っ張ってやる。
おっと、それどころじゃない。次の目的地は、RMI防衛本部か……。
RMI? いや、これは深く考えない方がいいやつだ。8割がた答えは、見えているけれど、確信してしまった瞬間、抑えきれない衝動が、湧き上がるのは想像に難くない。次は、耐えられる自身がない。考えるな僕!
「ありがとうございます。あの、アネル……様って、城に来ていたりしないでしょうか?」
えっ、王の表情が曇った! 何かまずい事いったか? アネルは禁句だった?
「アネルか、何日か前に来たが、もう帰ったぞ。あいつは今、忙しいから、会うのは難しいかもしれないな」
うわっ! もう帰っちゃったんだ。まいったな、折角のチャンスを逃してしまった。それにしても、忙しい神ねえ。妹探しかな? あれから結構立つけど、あの二人は、まだ神都に辿り着いていないんだろうか?
「それって、妹さんを探してるからですか?」
「……なぜ知っている? 捜索対象が妹だと知っているのは、王都内のガーディアンと俺ぐらいだと思っていたんだが」
極秘情報だった? 蓮井さんは、隠す素振りも、勿体ぶるような素振りも見せていなかったけど。
「その、ガーディアンに聞きました。モセウシで会った蓮井さんという方です」
僕が言った瞬間、王の顔が歪んだ、さっきの比じゃない。劇的な変化だ。ロミオだけに。……うっ! くっ! 何、自爆してるんだ僕!
「蓮井だと! 蓮井 琉々奈か? 会ったのは、いつ頃だ!」
「僕がモセウシに居た時なので、16日前だったと思います」
会った日を言ったとたん、王の表情から険しさが、スッと引いた。
「ああ、その頃か。すまない、少し取り乱したな。その蓮井という女は、王国を裏切り、アームラ教を敵に回した犯罪者だ。もし、どこかで見かけたら、防衛本部に連絡してくれ。絶対に単独で接触しないように」
あの人が犯罪者? ちょっとキツめのお姉さんって感じだったけど、悪い人には見えなかったけどな。
でも、善良100%で、出来ている人が居ないのと同じで、邪悪100%で構成されている人も居ないか。見えたのが良い部分だったって事で、納得しておこう。
「わかりました。もし、発見した場合は、報告します」
「ああ、頼む。他に、聞いておきたい事はあるか?」
失敗した、国王に会いに来るのに考えすらまとめずに来てしまった。国王が暇を持て余しているとは、到底思えない。気分を害さないと良いんだけど。
「……色々有りすぎて、何から聞いたらいいか」
「そうか、なら先に本部へ行って、話を聞いてこい。その後で、俺に聞きたい事が残っていたら、また訪ねてくるといい」
来たばかりだが、当然と言えば当然か、会ってもらえただけでも感謝しよう。
「はい、お忙しい所、ありがとうございました」
退室しようと、ドアに手をかけた時、後ろから国王が、話しかけてきた。
「もし、アネルが来る事があれば、笹塚が探していたと伝えておこう。だが、覚悟しておけよ。あれは、『ウザイ』という言葉を、一切イメージを損なう事なく、忠実に擬人化したような存在だ。変に夢を見ていると、絶望するぞ」
酷い言われようだな神! 国王に、ここまで言わせる神って、どうなんだ? なんか会いたくなくなってきたぞ。コンビニで会った、銀髪少女の捜索に力を入れた方が、いいかもしれない。いや、アレはアレで、大概だったが……。