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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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善人と邪神

「……やあ、蓮井君、会いたかったよ」



 何かあった時に車は枷になる。ユニコーン戦も車を守る必要が無ければ、あれほど苦戦しなかった。今回は、その教訓を活かし、車は横道に入る前に止めてきた。


「……その銀色の髪は、アネル様ですか。そして、そちらがシアル司祭ですかね?まさか自ら訪ねてくるとは、思いませんでしたよ」


 指示をせずとも、シアルが素早く蓮井の後ろに回り込んで、逃走を妨害してくれている。


「私も、訪ねてきたりしたく無かったんだけどね。君と大川君が余計な事さえしなければ」


 私の言葉を聞いた蓮井は、困惑の表情を浮かべている。そして放った言葉は。


「仰っている意味が分りませんが? 私と、大川さんが、何かしたとでも?」


 嗚呼、少しイラついてきたよ。


「しらばっくれる気かい? 全く面倒だ。君と大川君が、青に変色する金属『リアス鋼』を使って、兵器開発を行っていたのは調べが付いている。……だが、それよりも許せないのは、大川が銀髪の姉妹を、探し回っている事だ! そちらにも、君は加担しているんだろう?」


「私は、大川さんの部下ですから、彼の指示に従って動いているだけです。青く変色する金属の使用、それは否定しません。命令通り、それを使って開発を行いました」


「なるほど、自分は、何も知らない、言われたまま作業していただけだと? じゃあ、銀髪の姉妹の、拉致に関しては、大川から、指示を受けているのかい?」


「拉致など、人聞きが悪いですよ。私は、大川さんから、銀髪の姉妹を保護するように、アネル様から命令が下ったとしか聞いていません」


「それで、銀髪の姉妹は、発見できたのかい?」


「残念ながら」


「はぁ……本当に面倒だ。身の潔白を証明したいなら、今からする質問に答えてくれるかい? 納得のいく答えを得られたら、君を信じよう。……まず、君は、何処にいる時に、この世界に連れて来られた?」


「私は、ここに来る前は、北海道の札幌に住んでいましたよ。そこで、白髪の20歳くらいの男性に連れてこられました」


「その辺は、調べがついていたか。君は、埼玉出身って書いてたから」


「仰っている意味が分りませんが?」


 うちの研究所に割り当てられている地区は、日本の北海道で、それ以外の場所の人間を連れ出す事は、許されていない。これはクリアされてしまったか。


「じゃあ次だ、君は、モセウシとルモイ王国の名前の由来って知っているかい? 想像が出来るかい?」


「……さあ? 国王の細川様が決めたと聞いていますが。意味は分りかねますね」


「モセウシは兎も角、北海道に住んでいてルモイの名前を知らないとか、有り得ないよ。天気予報で必ず聞くじゃないか、留萌るもいって名前。ロミオは留萌出身なんだよ。笑っちゃうよね。留萌防衛本部だよ?」


 北海道の地名は、アイヌ語という言語を元に付けられた名前が多いらしくて、地球人的にファンタジーに見える世界に付けても、違和感が無い物が沢山ある。ルモイ王国の街は、大体がアイヌ語起源の地名を転用したものだ。


 北海道に住んでいなければ、何の違和感も感じないのは、仕方のない事だ。


「それは、初耳です。私は北海道に越した直後に、連れて来られたので、知らないのは、そのせいですね」


「もう、認めてよ? 流石にイライラしてきたよ。まあ、最初からイラついてるんだけどさ」


「私は、真実を述べているだけです。有りもしない事実を認めることなんてできません」


 黙って聞いていてたシアルが、ついに限界をむかえたみたいだ。


「いい加減にしなさい! そんな苦しい言い訳が通用すると思っているんですか! アネル様、私に任せてくれませんか? すぐ、話したいと懇願させてみせます」


「正直、私も同じ気持ちだけど、もう少し待ってね。まだ話が残ってる」


 シアルに凄まれても、蓮井は、涼しい顔を貫いて、まるで他人事のようだ。ほんと凄い神経してるよ。何を言われても、知らぬ存ぜぬで貫き通すつもりみたいだ。


 でも、それで構わない。今までの話は、ただの嫌がらせみたいなものだ。最初から次の内容を話せばそれで終わりだったのだから。


「次は質問じゃない、揺るがない事実だ。――君が、この地に降り立った日が、おかしいんだよ。大川が400年3月、君が402年6月、ちなみに大川の前が、398年1月の増渕 里緒菜君だ。――君と大川の間隔が、約2年3ヵ月だよ? これ地球の時間に直したら193秒だ。ガーディアンを送る担当は1人しかいないのに、193秒で君を送り込めるわけがないだろう?」


「……それだけでは、誰が偽物かは、わか」


「黙れ! 里緒菜君とは、面識がある、君たちのように怪しい人間じゃない。どう考えても、偽物は、君と大川なんだよ。君が来た当時、まさか一人の人間がガーディアンを集めてるとは、想像もしなかったんだろう? 完全なミスだよ」


「そこまで、調べがついてるんなら、最初から言いなよ。こっちこそ、面倒だ」


 蓮井の口調と目付きが変わった。ようやく本性を現してくれたか。


「やっと認めたね。ここに来る前に、戦闘の痕跡を見つけた。君は、銀髪の姉妹と交戦したね? その後、ここに戻っているんだ。君が勝ったんだろう? ……なあ、どこへやった! 二人をどこへやった!!」


 出来る限り、冷静に、いや冷静を装って話すつもりだったけど、つい声を荒げてしまった。情報を引き出さなきゃいけないんだ、感情的になるな。落ち着け、私。


「素直に話すとでも思ってんの? 力尽くで聞き出してみる? ここは、街中だけどね。……さーて、どれだけ被害がでるかしら?」


 そう言えば、私が被害を避けるために、見逃すとでも思っているのか……。


 蓮井は、私を本物の神だと勘違いしているんじゃないか? 優先順位なんて決まってる。とは言っても、今回は街への被害も無いだろう。


「大した被害は出ないよ。君は、遠距離魔法が苦手だろ? 接近してきたとろこで、小規模の爆発系魔法で、数回心中するだけの簡単なお仕事だ。こちらには障壁のスペシャリストも居るからね。上手くいけば地面を少し抉る程度で済ませられる」


「……何を根拠に?」


「だって君、地球人の近似種ってだけで、地球人じゃないだろ? 魔力量なんて高がしれてるさ。3回も全損したら、再生できなくなるんじゃないかい? だから遠距離魔法も魔力を食いすぎて使えない。――なにせ、たった1個の魔力タンクの充填も、躊躇う程度の魔力量のようだからね。……再生できなくなった君に、回復魔法の行使と引き換えに情報を聞き出すって、良い作戦だと思わないかい?」


「そんなの、ただの憶測じゃない! 憶測で、市街戦を始めようっての? 正気じゃないよ」


「別に私は、探偵ゴッコをしたいんじゃないんだ。証拠なんて揃わなくても、実際に試してみれば、いいだけだよ。……もし被害が出たら、それは君の罪だ。……そもそも、最初の話なんて省略して『疑わしきは、抹殺する』でも、許される立場なんだよ。私は」


「チッ! あんた自分の言ってる事が、どんだけ最低か分かってんの? ああ、もう! 気持ち悪い、気持ち悪い!! 何が神だ! こが邪神がっ!!」


 まあ、悪人のセリフだよね。自覚は有る。でも、悪人になってでも守りたい人がいるだけだ。反省なんてする気は無い。


 ……それに、この手は1200年の間に何度も赤く染まっているのだから。


「私は、君ほど善人じゃないからね。君が、住民を盾にするのを躊躇うような人間だって事は知っているよ。まあ、その善性が君の敗因だけどね」


「善性? バカ言わないで、当然の事よ。あんたら惑星連合のクズの目線で見るから、あの程度の事が善行に見えるんだよ!」


 ……えっ、連合に支配された星の工作なの?


「そうか、連合内の利権争いじゃなかったか……」


「真っ先に利権が頭に浮かぶのが、あんたらが腐りきってる証拠だよ!」


 痛いところを突いてくる。蓮井の言う通りだ、惑星連合を憎む人々なんて、星の数ほど居るっていうのに、なぜ連合内の妨害工作だと、決めつけていたんだろう。


 連合に、すり潰された星の住民に、抵抗する力など無いと、知らずに見下していたのかもしれない。


「ねえ、妹達の行方を話してくれないかい? もし妹達に何かあったら、私は君を生かしておく自信がないんだ。それは本意じゃない。生きてさえいれば、他の方法で、君の目的を達成できるかもしれないだろ? 合法的な手段で、目的の達成を目指すというなら、私達は協力できるかもしれない」


「合法的な手段? 笑わせるね。……でも、いいわ、私もまだ、死ぬわけにはいかない。教えてやるよ。私の乗って来た馬車の中で、二人とも無事だ。もう大川が乗って、第三召喚場に向かっているはずだけどね」



 チッ! 遅かったか、蓮井を放り出して向かうか? いや、ダメだ、今の話が嘘の可能性もある。大丈夫、相手は馬車で、こちらは車だ、すぐに追いつける。


「聞きたい事は、まだあるけど、ここまでだ。シアル! 蓮井に、魔封の枷を付けて。この街の担当ガーディアンに引き渡して投獄させる。……もし、抵抗したら、もっとも簡単で、時間もかからない方法で、黙ってもらうよ」


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