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48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
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黒いサンタと小さな手

 まだ薄暗い、早朝の森林地帯を一台のピックアップトラックが、駆け抜ける。


 目指すのは、アニサーシの街、王都から出発し、600Kmの道のりだ。


 恐らく、今日は時間が経っても、あまり明るくならないだろう。フロントガラスで2本のワイパーが、忙しく左右へ行き来している。


 最初はジワジワと窓を濡らし、ゆっくりと視界を奪っていた雨だったが、今では、すっかり遠慮を無くし、バラバラと大きな音を立てて、車体を叩いている。


 空を見上げると、王都側は、雲がなく晴れ渡っているようだ。逆に神都に向かう方角は、どこまでも分厚い雨雲が覆いつくしている。これは、暫く止みそうにない。


 はぁ、妹達は、雨具を持ってきただろうか? どこかで、寒い思いをしているんじゃないだろうか? 辺りの暗さに合わせて、思考まで暗く沈んでくる。


「はぁ、止みそうにないね」ダメだな私。わかり切った事をつい口走ってしまう。


「ため息! もう、何度目ですか? ため息をつくと、幸せが逃げるって言葉が有るんですよね? 地球には。……全部、無くなっちゃいますよ」


 はぁ、そうか、そう思われていたか。確かに100年分くらい、ため息をついた気がする。


「それを最初に考えた人の周りには、よほどウザイのが居たんだろうね。我慢ならなかったんだろうね」


「いや、ウザイって『暗い顔してたら、いい事ないよ! 前向きに頑張ろう』という応援を込めて、作られた言葉だと思うんですが」


 シアル良い娘ね。善良ね。でも現実は、そんなに美しくは無いのだよ。


「シアルは純粋すぎるよ。応援するなら、普通に応援すればいいじゃん。その言葉は『それ以上続けるなら不幸になるぞ』って脅しだよ。ウザいから脅した。それが真実なんだよ。眼を逸らしちゃダメ! ……脅したくなるほどに、ウザいって事だから、謝ります。ごめんなさい」


「ひねくれた持論を長々と語って、何処に着地するのかと思ったら、素直に謝るんですね。それ、最後の一言だけで良かったのでは?」


「語らせてよ。語らずに、いられるかだし。あと、ひねくれた、とか言わないで! 神は真実しか語らないから。私が『黒』と言えば、サンタクロースも翌年からは、黒い衣装に変更されるんだよ」


「それ、真実を語ってるんじゃなくて、真実を捻じ曲げてるんですよ。子供の夢を壊すような事しないでくださいね」


「確かに、小さな女の子の夢を壊しちゃ可哀想だ。やめておくことにするよ」


「今日は、妙に素直ですね? それは、良しとして、小さな男の子にも配慮してあげて欲しいのですが」


「無理難題を吹っ掛けるね。神にだって、出来ない事は有るんだよ?」


「サンタを黒に染めるより、小さな男の子への配慮って難しいですか!?」


「5歳男子を捉まえて『最初に思いついた、頭に『お』の付く言葉は何?』って聞いてごらんよ。そうすれば分かるから」


「お、おにぎり?」


「さあ、帰っておいで、シアル。その優しい世界は、儚い幻だよ」




 軽口を叩いていたら、あっという間に、アニサーシに到着。とは、ならない。


 なにせ600Km。100Kmで走り続けたら6時間? そう上手くは、行かないのだ。


 道が悪いし、魔獣や野生動物の飛び出しに注意すると、出せるスピードは50Kmが限度。おおよそ12時間、掛かる計算だ。


 かと言って、この12時間に、語って聞かせたいような何かが起こる事も無く、18:20に私達は、アニサーシへ辿り着いた。


 この頃には、永遠に降り続くかのように思われた雨も上がり、光量を半分以下に落とした、太陽が顔を見せていた。


 アニサーシの門番は緩い。余程、怪しい風体の人間だったり、魔獣でもない限り、止められる事は無い。


 これは、住民全員が亜人種で、最低限度の戦闘能力を有しているのが影響している。街の中で悪事を働けば、衛兵が来るのを待つ事無く、住民に袋叩きにされてしまうのだから、賊なんて寄り付かない。


 今回の場合は、これが災いする。門番に妹達が通った形跡がないか、確認してみたけれど、案の定『わかりません』この答えは、最初から予想していた。


 後は、街で聞き込みをするだけだ。もし二人が髪を晒していれば、情報は簡単に集まると思う。


 アネル神国は、森に面した街が多いので、木造建築が発達している。この街も例にもれず建物の大半が木造だ。


 ルモイ王国と違って、妖精種がチョロチョロ歩き回っていたりするので、車での移動だと精神的疲労が、半端なものじゃないので、歩いて調査だ。


 仮に踏んでも、歩きであれば、怒られる程度で済む。彼らは、固有魔法で、防御寄りの身体強化魔法が発現して、常時展開されているので、耐荷重100Kg程度あるのだ。


 さっそく見つけた妖精種の少女を、おもむろに持ち上げて、話を聞いてみた。


 緩いウェーブが掛かった、ショートヘアの可愛らしい少女だ。妖精種の年齢はわかりにくいけど、15歳くらいかな? 全体的に、若く見える事が多いのが妖精種、これで20代でも驚きはしない。


 うむ、このまま持ち帰って、部屋に飾っておきたい感じだ。適当に捕まえた割には、中々良いチョイスだったみたいだ。


「こんばんは、小さなお嬢さん。調べている事があるのですが、少し話を聞かせてもらえますか?」


「こんばんは、神様。それって、お幾らほど頂けるんでしょうか?」


 どうも、チョイスを誤ったようだ。清々しいほど、直球で来たな!


「そうですね。もし、有用な情報を頂ければ、一番大きいの1枚でいかがでしょう?」


「そうで、なかった場合は?」


 えっ! 会話だけで、お金取るの!? 私は、女子高生に話しかけた、脂ぎったオッサンか!!


「そ、そうですね……。1000円くらい? かしらね」


 すちゃ! と、無言で2本の指を立てる妖精少女。2千円か! たけぇな、おい!


 お金には困って無いけど、なんだか、もやし1パックを2000円で買わされる気分だ!


 このまま斜め四十五度に、放り投げたい衝動にかられるが、2千円の要求程度で、それを実行するのは、神の矜持に傷がつく気がする。ぐぬぬぬぬ……。




「え、ええ、わかりました。それで手を打ちましょう。では、質問です。ここ最近、この街に、私と同じ髪色の少女が、訪れませんでしたか?」


「銀髪の少女ですか? 銀髪の少女が来たら噂になるはずなので、来てないと思いますよ。ですが……」


「ですが?」


 すちゃ! と、無言で2本の指を立てる妖精少女。2万円か! たけぇな、おい!


「アネル様、ちょっと、それ貸してください」シアルが……。


「ダメ! シアルに渡したら、全力で放り投げるから。拾いに行くの大変だから我慢して!」


 そればかりか、水たまりに落ちたら、絶対クリーニング代まで請求されるし。


「神様、放り投げる事自体は許容するのですね。……そ、そっちのお姉さんの目付きが危険なので、1で我慢しますよ」


 手の中でプルプル震えてる妖精少女、なんか脅したみたいで、罪悪感に苛まれるんですが。でも1は、取るのね?


「そ、そう? それじゃ教えてくれるかしら」


「銀髪少女が、来たって噂は聞きませんけど、銀髪少女を探している人なら、三日ほど前に、この街に来ましたよ」


 私以外にも探している、人間がいる!?


「特徴を教えてもらえますか? できる限り詳しく」


「えっとですね。20歳くらいの人間種の男の人で、髪は黒で短めでしたね。腰に剣を差していて鞘には、ルモイ王国の紋章が入ってましたよ。うーん、後は、顔が凄い濃くかったですね。別人種と言われても疑わない程度に」


 多分、大川だ。あいつ、リアス鋼だけでなく、妹達にも関わってるっていうの!


「その男は、もう街には?」


「その日以来、一度も見てませんね。もう居ないような気がしますよ」


 1人に聞いた情報だけで、動くのは早計だ、もう少し情報を集めないと。


 もしかしたら、まだ街中に潜伏している可能性もある。できれば、そうで有って欲しい。


 いけない、手に力が入りそうだ。妖精少女を地面にそっと下ろした。


「そう、ありがとう。……はい、これが約束のものね」


 妖精種用の小硬貨も流通しているけど、持ち合わせがないので、お財布から一番大きいのを2枚取り出して、彼女に持たせた。


 このちっさい体で、2枚も運ぶの大変だろうな。ちょっと、よろけてる。まあ、今はそんな事、気にしている場合じゃない。


「あれ、いいんですか?」


「ええ、貴重な情報ありがとう。重いでしょ? 転ばないように、気を付けて帰るんですよ」


「心地よい重量感です! ありがとうございました! 神様もお気をつけて!」


 一度、地面に硬貨を下ろし、両手をブンブン振って見送ってくれた。


 その後の聞き込みで、得られた情報は、妖精少女から聞き出した内容と、大差ないものばかりだった。妹達と大川、ともにアニサーシでは発見ならず。


 調査を終えた頃、すでに灯っている太陽は、月の替わりに設定した、夜間点灯モードの一基のみ。この日も、夜間の移動は、避けて宿に入った。


 アニサーシから、モセウシの間には深い森林が存在していて、直線で向かう事ができない。一度、王国に戻ってから、モセウシ行の道に入るか、神都の近くまで進んで、そこからモセウシ行の道に入るかの2択だ。


 シアルと相談した結果、明日のプランは、早朝6:00に出発。


 ルートは、神都に向けて南南西へ300Km。そこには、モセウシと神都へ別れる岐路がある。 そこで、アニサーシ行の道に入り、東へ300Kmで到着。


 合計600Km、明日も12時間程度の長距離ドライブだ。


 どうにも、暗い方向に思考が向かいがちだったけど、悪い事ばかりじゃないんだ。無事に出会う事ができたら、こんなに嬉しい事はない。1200年ぶりの再会だ。まあ、向こうから見たら数日ぶりなんだけど。


「早く会いたいな」


 なんだか気持ちが高ぶって、寝付くのに少し時間が掛かった。


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