表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48番目の世界にて  作者: 那萌奈 紀人
26/76

家探しと虚構の果実



 大林の家に辿り着いた私達は、2階の窓のカギを壊し、屋内に侵入した。


 1階のドアや、窓を壊してしまうと、誰でも入り放題になってしまうので、気が引けたからだ。壊すのは簡単だけれど、治すのは、そうもいかないから。


 この国の人間は、魔法で身体強化なんて、できないから、2階なら無施錠でも空き巣が入る可能性はグッと減る。というか私が空き巣なら、二階の窓が開いてても、1階の窓を壊す。


 最初に見て回った二部屋は、二人の動向を示すような物を発見する事は出来なかった。


 そして、三部屋目。室内に入り、周囲を見渡した私の視線が、壁側に設置されたシェルフに注がれた時、戦慄が走った。


「人……いや、妖精種!!」


 10人ほどの妖精種が、棚の上に佇んでいたのだ。


 咄嗟に障壁の準備をしたが……誰一人、微動だにしない?


 念の為、障壁を張ったまま、シェルフに近付いた。そして、理解する。


「……これ、フィギュアだよ。よくできてるなー。怖いくらいだ」


 並ぶフィギュアは全て、少女がモデルで、大きさは20センチ弱。


 服どころか下着までキャストオフできそうに見え……うん、できたね。できたよ。


「大川は、一体何のために、こんな沢山の人形を集めたのでしょうか」


 シアルが不思議そうにフィギュアを眺めながら問いかけてくるが、それって言わなきゃわからない!?


 もう、仕方ないなー。脱がせたパンツを履かせながら質問に答える。


「絶対じゃないけど、多分アレだね。意外と多いんだよ、妖精少女が大好きな男性ってのが。その辺を妖精少女も理解しているから、同族以外の男性には近付きたがらないんだけどね」


「体の大きさが違いすぎて、色々不便だと思うんですが、何がいいんですか?」


 さも、私が答えを知っているような聞き方をしないでほしい。この星の神は全知全能とは程遠いのだから。具体例をあげると、シラタキと糸こんにゃくの違いが分からない。……それでも、知らないとは言いたくないな。さて、なんて答えようか。


「そうだね……色々な不便さを気にしないってのは、欲望を超越した真実の愛ってやつなのかもしれないね。……あっ、ごめん。やっぱり撤回する。キャストオフできた時点でダメだ。煩悩が渦巻いてるし」


「その理屈だと、2次元を愛する者は、真実の愛を知る者という事になりますね」


「ある哲学者が残した言葉に『薄い本が厚くなるな』というのがあってだね……」




 その後も探索を続けたが、他に大した物は見つからなかった。フィギュアが大したものかと聞かれれば、答えはノーなのだけれども。




 続いてやってきたのは、蓮井の自宅。こちらも、大林の家と、同じ手順で屋内に入った。


 最初に侵入した部屋は寝室のようだ。まず目に付いた、机の引き出しを開けようと手を掛ける。


 そっと手前に引くと、数ミリ動いた所で抵抗を感じ、それ以上動かなくなった。


「鍵が掛かってるね。なにか大事な物でも入れてあるのかな?」


 引き出しの隙間を覗き込むと、デッドボルトが上に見えた。これなら、壊すのは容易い。


 隙間にダガー型の魔導兵器を差し込んで、デッドボルトを切断する。


 開錠された引き出しを覗き込むと、中には数本のペンと、タイトルが書かれていない1冊の本が収められていた。


 本を発見した机の横には本棚が有って、それなりの量の本が並んでいるが、まだまだ空きはある。そこに収める事無く、わざわざ鍵付きの引き出しに入れてあったのだから、何かしら重要な物なのだろう。


 本を手に取り1ページ目に目を通した。……手書きの本だ。


 ここ100年くらいで、印刷技術も向上してきているので、手書きの本は珍しい。


 ……手書きの本って、作られた時期的に痛んでいる事が多いんだけど、これは真新しいな……。


『今日も赤い雨が降る――――降り注ぐ命の雫が、私を赤く色付かせる――――もっと、この身体を染め上げて――――受け止めた命を連れて、何時か宇宙そらへ還るから』


「ポエム帳かっ!! ええい! 宇宙、かっこ、そら、ってなんだ!! 鍵を掛けて隠しているくせに、読み方を書くってどういう事なの!? 読ませたいの!? 読まれたくないの!? はっきりしてよ!!」


「アネル様、落ち着いてください。そんな、どうでも良い事を考えている暇があったら、他を探しますよ」


「いや、日本のことわざに『機密文書を隠すにはポエム帳の中』って、言葉もあるしね。ポエムはブラフの可能性もあるよ。とりあえず、全部読んで、機密が書かれてないか、チェックしておいて」


「そんな言葉、聞いた事ないですよ! それに、なんで私が読まないといけないんですか!!」


 言い争った結果、3ページ交代で読み進める事で、決着がついたわけなのだが。


「シアル、このさ、甘酸っぱい気持ちを『虚構の果実』って表現しているところが、中々趣があって良いと思うんだよ。もしかしたらアリなんじゃないかと」


「いけませんアネル様!! 気をしっかり持ってください! 精神汚染が進んでいますよ!!」


「ハッ!! 私とした事が!!」


 慌てて壁に頭を打ち付け、正気を保ったが、全く、慣れとは怖いものだ。


 ポエム帳をそっと懐にしまい、残りの部屋もくまなく探索したが、手掛かりになるような物を発見する事は叶わなかった。


 しいて言うなら、二人とも奇妙な程、質素な生活をしていたという、共通点を見つけたくらいか。魔法機器開発担当のくせに、骨董品みたいな魔法家電がならんでいた。節約って言っても限度ってものがある。




「シアルぅ? 私達、何しに来たんだろうね? こんな居たたまれない気持ちで帰る事になるなんて、思いもしなかったよ」


「全くですね、アネル様。自分達の方が、悪人のような気にさせられましたよ。あれが狙ってやった、トラップだとしたら敵も中々のものですね」


「あんな我が身を一切顧みない、自爆トラップをしかける相手だったら、絶対敵に回したくないね。畏怖を覚えるよ。虚構のナイフが首筋を撫でているよ……」


 うつむき加減で、トボトボ帰路を歩んでいると、ん? 何か煙臭い。料理の匂いとか、そういう感じじゃない。焚火とかしてるような匂いだ。


 王都内の一般家庭では、熱源として許されてるのは、魔法機器だけで、火は使っちゃダメなはずなんだけど。


 匂いの出どころを探していたら、多分あそこだ、みすぼらしい民家の前で、というか、この辺の家は全部みすぼらしいんだけど、貧民街ってやつかな。衛兵が10歳くらいの男の子を怒鳴りつけてる。


 小さな女の子には優しくがモットーで、小さな男の子は、その範疇に入っていないのだが……まあ、いいや、純朴そうな少年だ。ちょっと話を聞いてみるか。


「そこの貴方! 何が有ったのか、わかりませんが、小さな子をそんな剣幕で怒鳴りつけるのは感心しませんよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ